第1話

エピソード文字数 2,363文字

ある休みの日、たまたま自宅の2階のリビングの本棚を整理していると、若干埃のかぶっている一冊のアルバムを見つけた悟はそれを手に取りページを開いた。

高校生の制服を着た男女の学生と先生の写真、今より幾分か若い自分の写真もあった。
ページをめくると、その年の主なニュースが掲載されているページや、高校生活を振り返ってといった作文などが載っている。寄せ書きのページには、当時仲の良かったクラスメイトからのまた遊ぼうぜだとか大人になっても仲良くいようぜなどといったメッセージが直筆で書かれていた。
その中でも、悟が特に目を引いたのは当時仲が良かった始の「いつかまた木漏れ日横丁の広場で会おう…始.」と綺麗な字で書かれたメッセージだった。

「そういや、懐かしいな始。アイツ今何してんだ?」
ちょっと頭の中で当時仲の良かった始が今はどうしているのか気になると、そこからは頭の中を離れなかった。
こんなに気になるのも、無理はない。

悟は無料通信型アプリを起動し、始に連絡を取った。
男同士だし高校卒業後にお互いわざわざ遊ばなくても過ごせていたが、ちょうどよい機会だし会って話でもしようという気分になっていた。

「久しぶり。今度会える?」
返信はそんな急いで待たなくてもその内来るだろう。
悟は机にスマホを置き、部屋を後にした。



・・・・・

木漏れ日横丁の広場とは、木々が生い茂った森に太陽の光が当たると綺麗な木漏れ日が生じそれに感嘆した近隣の町民から木漏れ日横丁と言われたとされる。その木漏れ日を感じることができる場所に広場が作られ木漏れ日横丁の広場とされているのである。木漏れ日横丁の広場付近のカエデの木は特にどっしりと構え一際目立つのだが、夏は青々しい蛙手型の若葉、秋は赤く色づいたカエデの葉は特に綺麗で落葉して広場に散りばめられたカエデの葉を眺めるだけでも秋の色づきを感じることが出来る。悟と始はよくそこで遊んだ高校時代の思い出の場所とも言える。

悟が始と出会ったのはそんな木漏れ日横丁の広場で、カメラでカエデの木や周辺の景色を懸命に写真を撮っている始に悟が声をかけて知り合った。

「よお、お前こんなすげえ綺麗な景色だから写真撮りたい感じなん?」
「綺麗だよね。この風景を目だけに焼き付けるのが勿体なかったんだ。気づいたらカメラを握ってた。」
「ふ〜ん。」
そのまま黙って写真を撮り続ける彼をじっと見続けやがて再び声をかけた。
「俺悟ってんだけどあんたの名前は?」
「始。同じクラスだよね。」
「あれマジで?」
そのまま始は何も言わずに黙って写真を撮り続けた。悟もそれを黙って見ていた。

翌日悟は学校に行くと、確かに昨日見た彼が自分のクラスの席に座っていた。窓側の一番後ろで誰とも話さずただひっそりと座っていると時たま窓の外を見ているようだった。
「よお、昨日ぶり。」
「うん。」
「あんたさ、何か好きなスポーツとかは?」
「ないよ。」
「じゃあ、好きなドラマは?」
「ない。」
「好きなゲームは?」
「それもないよ。」
「じゃあ…」
「俺は今は写真撮ることだけが好きだ。」
「そうなんだ。」
「じゃあさ、今日もあそこ行くのか?あの広場。」
「うん。」
「じゃあ俺も行くな。」
「どうして?」
「お前が気になるから。」
「そ。まあ好きにすれば。」
放課後すぐ教室を出ようとする始を捕まえて悟は共に木漏れ日横丁の広場へと向かっていった。

木漏れ日横丁の広場に着くと始は早速カバンからカメラを取り出し景色に夢中になっている。
「景色しか撮らないの、人は?」
「俺は人には興味ないから。」
「そっか。」
写真を撮るのに集中してしまった始を悟はただ黙って見ている。
悟がよくつるむ友達とはまた違うタイプの人間だがたまにはこういうのと仲良くしとこうと思った。
日も暮れて家に帰る頃合、2人は離れ帰路に着いた。
放課後ずっと広場で木が生い茂る景色をずっと見てる良さなんてまだ分からないがいつか大人になったらその良さが分かるかもしれない。

・・・・・

それからも結構な頻度で悟は放課後になると始を捕まえて木漏れ日横丁の広場へと向かった。その度に始はカメラを取り出し写真を取り始めるのに対し悟はそんな始を黙って見てるのがいつもの流れだった。
「そんなにいつもいつも同じ景色の写真を撮って楽しいか?」
「毎日違うよ。よく見たら微妙に違う。景色も違うけど、俺の気分もその日その日で違うから撮れるものも違ってくる。」
「そうかい。またいつもよくやるよ本当。」
始は黙ってパシャパシャと写真を撮り続ける。

そんな折、ある日またいつも通り木漏れ日横丁の広場に2人で向かうと珍しく始から悟に対して話しかけた。
「あのさ被写体になってくれない?」
「え俺?」
「なんかさあんたが撮りたい。」
「そ。いやいいけど。」
すると始は悟に対して広場のカエデの木の前に立ってくれと指示をした。
「ここでいいか。」
「うん。でさいつも通りの表情してもらっていい?」
「いつも通りの表情?」
「今日の気分の表情ってことだよ。」
「ほ〜ん。」
悟はひとまずニカッと笑った。始はそれをパシャパシャと撮り始める。

「どうだよ始。」
「うん、まあまあいいんじゃない?」
「まあまあってなんだよ。」
なんてことしてだべって帰る日がここ最近ずっと続いた。
正直何故突然、被写体に人を選ぶことに興味のない始が自分に被写体になって欲しいと申し出たのかが分からない。
「どしたん始?何か悪い物でも食ったか?」
「うるさいな。」
「ほ〜い。」
だが始が悟を撮らない日はそれからずっとないぐらいに続いた。
結局、卒業式のその日までずっと始は悟を撮り続けた。


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