ティー・レモン氏の空中庭園(11)──プリンとエレベーター
文字数 1,230文字
「一体なにをされてしまうんだ、キッパー君は」樹伸 は蒼 ざめた。「庭園へ向かったみたいだけど」
「入口の横に非常階段があります」レモンが言った。「庭園じゃなくそこから地上へ逃げるつもりかもしれない。エレベーターはカメラがありますから」
根岸プリンがどうしていたかというと、父親がいなくなって、子ども二人の心細い知恵だけでピエロ探しをやっていたスクヤとマイニに出くわして、声をかけほんの少しだけかくれんぼを手伝っていた。レモンがピエロを呼んでいたなんて知らなかったが、きっと子どもたちの退屈しのぎに用意していたのだろうと考えた。
しかしこの広い塔の中だ。ピエロは「七階のどこか」に隠れていると聞いている。時間内に見つければ素敵なプレゼントをスクヤとマイニにくれる約束らしい。大人の知恵で加勢してやろうという考えも、次第に疲れて萎えてきた。ピエロに腹も立ってきた。
子どもを喜ばせたいなら、もっと別の遊戯でもよかったんじゃないのか。どうしてもかくれんぼじゃなきゃだめだというなら、あっさり見つかる場所に隠れてドジを演じればいいのだ。幼児を相手にここまで真剣勝負をするのか。古今東西の本がびっしり詰まった書棚と骨董品が立ち並ぶフロアでプリンはスクヤとマイニのことも見失ってしまった。それにいつまでも自分がここにいたらレモンたちが心配するかもしれない。
「スクヤくーん、マイニちゃーん」プリンは呼んだ。「私、もう伯父様たちのところに戻っちゃっていいかなー」
先ほどまで二人の息遣い、駆ける足音が聞こえていたと思っていたのに、しんとしている。
「レモンさんに伝えた方がいいわね」プリンは独りごちた。理不尽なほどかくれんぼに長けたピエロに振り回されていることを伝えて、二人に諦めさせるなりピエロに注意をするなりした方がいいだろう。
プリンの足がエレベーターへ向けて動きだした。すると聞こえる悲鳴。目に飛び込んできたのは、エレベーターから後ろ向きで逃げる格好をしている三人の大人たちだった。
「なに? どしたわけ?」
一人の男がプリンとの近接に驚き、衝突を避けて転んだ。ほかの者たちも手で顔を覆ったりハンカチに顔を埋めたりしながら今にも床に倒れ込みそうな様子だった。
きょとんとしながらエレベーターの扉に近づくプリン。それを見て男たちが叫びだす。
「エレベーターは!」
「ああ、行かない方がいい……」
「え?」プリンは停止して男たちを見た。「なになに? なんなわけ?」
「あれは、シュール……」
そこへ本を抱えたスーツ姿の新たな男が現れて、プリンを追い越しエレベーターの「下」のボタンを押す。
「あああああー!」
「皆さん、どうしたんです?」と不思議がる男。
プリンとスーツの男の前で開く扉。乗ろうとした男は瞬時に顔を歪ませ後ろへ吹き飛び、プリンも最初にいた男たちのところまで叫び声をあげて避難しなければならなくなった。想像を絶する悪臭が襲いかかってきたのである。
「うおおおおおー、なんだ、これは」
「入口の横に非常階段があります」レモンが言った。「庭園じゃなくそこから地上へ逃げるつもりかもしれない。エレベーターはカメラがありますから」
根岸プリンがどうしていたかというと、父親がいなくなって、子ども二人の心細い知恵だけでピエロ探しをやっていたスクヤとマイニに出くわして、声をかけほんの少しだけかくれんぼを手伝っていた。レモンがピエロを呼んでいたなんて知らなかったが、きっと子どもたちの退屈しのぎに用意していたのだろうと考えた。
しかしこの広い塔の中だ。ピエロは「七階のどこか」に隠れていると聞いている。時間内に見つければ素敵なプレゼントをスクヤとマイニにくれる約束らしい。大人の知恵で加勢してやろうという考えも、次第に疲れて萎えてきた。ピエロに腹も立ってきた。
子どもを喜ばせたいなら、もっと別の遊戯でもよかったんじゃないのか。どうしてもかくれんぼじゃなきゃだめだというなら、あっさり見つかる場所に隠れてドジを演じればいいのだ。幼児を相手にここまで真剣勝負をするのか。古今東西の本がびっしり詰まった書棚と骨董品が立ち並ぶフロアでプリンはスクヤとマイニのことも見失ってしまった。それにいつまでも自分がここにいたらレモンたちが心配するかもしれない。
「スクヤくーん、マイニちゃーん」プリンは呼んだ。「私、もう伯父様たちのところに戻っちゃっていいかなー」
先ほどまで二人の息遣い、駆ける足音が聞こえていたと思っていたのに、しんとしている。
「レモンさんに伝えた方がいいわね」プリンは独りごちた。理不尽なほどかくれんぼに長けたピエロに振り回されていることを伝えて、二人に諦めさせるなりピエロに注意をするなりした方がいいだろう。
プリンの足がエレベーターへ向けて動きだした。すると聞こえる悲鳴。目に飛び込んできたのは、エレベーターから後ろ向きで逃げる格好をしている三人の大人たちだった。
「なに? どしたわけ?」
一人の男がプリンとの近接に驚き、衝突を避けて転んだ。ほかの者たちも手で顔を覆ったりハンカチに顔を埋めたりしながら今にも床に倒れ込みそうな様子だった。
きょとんとしながらエレベーターの扉に近づくプリン。それを見て男たちが叫びだす。
「エレベーターは!」
「ああ、行かない方がいい……」
「え?」プリンは停止して男たちを見た。「なになに? なんなわけ?」
「あれは、シュール……」
そこへ本を抱えたスーツ姿の新たな男が現れて、プリンを追い越しエレベーターの「下」のボタンを押す。
「あああああー!」
「皆さん、どうしたんです?」と不思議がる男。
プリンとスーツの男の前で開く扉。乗ろうとした男は瞬時に顔を歪ませ後ろへ吹き飛び、プリンも最初にいた男たちのところまで叫び声をあげて避難しなければならなくなった。想像を絶する悪臭が襲いかかってきたのである。
「うおおおおおー、なんだ、これは」