天に帰る日

文字数 1,130文字

 自分ができることを求めて、天の子どもは旅から旅を続けていましたが、とうとう地上の旅を終え、天に帰る日が来ました。

 天の国では、神さまが子どもたちを迎えます。

 子どもたちは、一人一人神様の前に進み出て、旅立ちの前に受け取った、天の財産「タラント」を見せ、金庫番の天使に返します。

 そこにはなつかしい人たちもいます。

 いつかの落ちこぼれの子は、立派な先生になっていました。
 袋の中の五タラントは、十タラントになっています。

 船が難破した商人は、その後、流れ着いた島の工芸品に目をつけて、再び商売を始めました。 
 今度は頑丈な船を作り、あらゆる場所に出掛け、商売し、お金をたくさん儲けました。
 袋の中の十タラントは、二十タラントになっています。

 歌の上手な女の子は、多くの人に愛される歌手になり、天使のような歌声で、世界中の人々を魅了しました。
 袋の中の五十タラントは百タラントになっています。

 天の子どもの命を救った青年は、優秀な医者になっていました。
 ある日、船でやってきたある医者と医術の話をするうちに見込まれて、その医者のもとで勉強することになり、新たな人生をスタートさせたのです。
 袋の中の三十タラントは、五十タラントになっています。

 大工夫婦もいました。
 大工は十五タラントを三十タラント、奥さんは二十タラントを二十五タラントにしていました。

 それぞれタラントを増やして帰ってきた者たちに、神さまは温かい言葉をかけます。

「すばらしい旅をしたようだ。おまえたちのおかげで、天の財産はより豊かなものになった」

 そんな中、あの天の子どもは、神さまに与えられた一タラントの袋を握りしめたまま、顔を上げることもできません。

 前に進み出ることもできないまま、その場に立ちつくす天の子どもに、神さまは声をかけます。

「おまえのタラントを見せてごらん」

 天の子どもの目に涙があふれます。

「神さま、ぼくは、神さまにいただいたせっかくのタラントを、何も増やすことができませんでした」

 天の子どもは、情けない気持ちでいっぱいでした。
 次から次と、涙があふれて止まりません。

 そんな天の子どもに、神さまはやさしく言いました。

「袋の中を見てごらん。おまえは、一タラントの幸福を、十タラントにも二十タラントにも、百タラントにもしたではないか」

 天の子どもが袋を開けると、虹色に光るタラントが、次から次とあふれだしました。

 大工夫婦に異国の商人、歌手の女の子に医者になった青年、落ちこぼれだった先生、それから、その後の旅で出会った多くの人たちが、一タラントの天の子どもに温かい笑みを向けます。

 天の子どもは喜びに満ちあふれました。
 ここに湧き出すタラントが、何であるかを知ったのです。
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