第9話 着替え

文字数 1,374文字

「やっぱり酷い雨になってきたな……」

二人とも頭も服もびしょ濡れになってしまったため、まずは着替えをする事にした。

「えーと、俺の着替えはロッカーに置いてあるから大丈夫として、

 弓月はどうしようかな……ってうおっ!」

何も考えずに後ろに振り替えると、当然弓月も雨で濡れているため、

服が肌に張り付き、下着が透けて見えていた。

「悪い、見るつもりはなかったんだが」
「大丈夫です、気にしないでください」
弓月はそう言って体を隠す素振りも見せないため、視線を外して話を続ける。
「とりあえずタオル。あと男物で悪いが、シャツとズボンもあるから持ってくるよ」

目のやり場に困ったため、俺は返事を待つ事無く休憩室に駆け込んだ。

休憩室に入ると、静まり返った室内で大きく一つため息をついた。

「全くもう年頃なんだから、隠すとこは隠してくれよな……」

と言いつつ、そこは自分の好みの人物の綺麗な姿を見るのは、

嬉しいので複雑な気持ちだ。

「そんな事より着替えだよ、着替え」

まずタオルを取って髪をさっと拭くと、シャツとズボンを脱いで予備の物に着替える。

「頭はゆっくり拭くとして、すぐに弓月も着替えられるように、用意してやらないとな」

ロッカーからタオル数枚と青色のシャツ、ジーンズを手に取り机の上に置く。

(これで何とか着替えはできるだろう。

 まあ俺の服だから、一時しのぎに過ぎないが)

再度机の上をチェックすると、休憩室の外に出る。
「弓月、休憩室に着替えを用意したから着替えてきな。
 後でドライヤーも持って行ってやるから」

弓月は少し考えるような仕草をすると、こくんと頷いて休憩室へと入っていった。

「ふぅ、これで少し落ち着いてくれると良いんだが」

肩を回しながら、ドライヤーがあるコーナーまで歩いていく。

「このドライヤーでいいか」

商品を勝手におろす訳にいかないので、展示用のドライヤーを手に取ると、

休憩室に向かいノックする。

「弓月、ドライヤーを中に入れるから自由に使ってくれ。
 俺の事は気にせず、ゆっくりやってくれればいいからな」
(さて俺もしっかり頭を拭かないとな)

レジカウンターに腰かけ、タオルで水分を拭き取りながら、外に目を向ける。

「理由は不明だが、弓月は猫を探していた」

「離してください。でないとあなたにも」 


これらは恐らく、6年前の件と繋がっているのだろう。


今の情報量ではこれを解き明かす事は不可能だが、もうここまで来ると後には引けない。


引くわけにはいかない。


俺は弓月にあんな切ない顔をさせたくないんだ。

(弓月が戻って来たら聞いてみよう)

こんなに雨が降っていてもいつか止む。


止まない雨はないのだから。


しばらくの間目をつぶり、弓月が戻るのを待った。

カチャ
「……」

扉が開く音がすると、弓月が姿を現した。


髪は家で見た時のように、まっさらな黒髪ストレート。


服は俺が渡した青色のシャツに、色のはげたジーンズを身に付けている。

「どうだ、寒くないか?」
「大丈夫です、ありがとうございます」

相変わらず表情はないが、先ほどより落ち着いた様子で少しほっとした。

「着ていた物は、こっちの袋にいれてくれ」

店の袋が透けて見えないタイプだったため、弓月に手渡す。

「雨よく降るよなー。
 ざーっと降り始めたと思ったらいきなりどしゃ降りだし、困ったもんだよ」

そう言いながらレジカウンターに座り、弓月を隣の椅子に座るように促す。

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登場人物紹介

綾瀬 亮介(あやせ・りょうすけ)

大学2年生。

相棒の猫・ルキアと心で会話する能力を持ち、また力を合わせる事で、

他者の心の状態を『色』で判別する事ができる。

謎の少女

亮介の自宅に突如現れた少女。


ルキア

亮介の家に住み着く猫。

亮介と会話をしたりする事ができる。

まさに深窓の令嬢と言う感じで、少し茶色がかったふんわりウェーブの髪と

青みがかった瞳が印象的で、ボディーガードを連れている。

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