第5話 一年後のカノジョ

文字数 2,072文字

あっ、たっくん
あれ? ミサキちゃん
やだぁ、久しぶり
うん、久しぶりだねっ
よかったあっ
最近、全然、会わなかったから、もう大学やめちゃったのかな?って、心配してたんだよっ
大丈夫、大丈夫
まだ、ちゃんと、通ってるから

うん、思ったより、元気そうなんで、ちょっと安心した

……
……そういえば
アイちゃんが亡くなってから、もう一年経つだんね……
たっくんも、ツラかったよね……
……うん
でも、今は、割と大丈夫だから
そっか、ならよかった
うん、ありがとう
そうだっ、今度一緒に、ご飯にでも行かない?
うーん……
あっ、別に、無理しなくていいよっ
暇なときに、気が向いたらでいいからっ
うん
じゃあ、何かあったら、連絡してね
あたしの連絡先、知ってたよね?
うん、スマホに登録されてる
よかった
じゃあ、またね
うん、また
ミサキちゃん、元気そうだったね
うん、元気そうだったね
同じ高校から、同じ大学に進んだの
あたし達、三人だけだったんだよね
昔はよく、三人で遊びに行ったりしてたよね
あたし思うんだけど
ミサキちゃん、たっくんのこと、好きだったんじゃないかなあっ
えぇっ、そんなことないでしょ
いや、そんなことあるって
あたしの女の勘は、よく当たるんですからねっ
へぇ、そうなの?
でも、俺は、アイちゃん以外、まったく興味ないからっ
アイちゃんと、こうして一緒に居られれば、それだけで充分だからっ
そっか……
……そういえば、たっくんさあ
この一年間、ずっと、友達と遊びに行ったりとか、してないよね?
でも、アイちゃんとは、いっぱい、いろんなとこに、遊びに行ったりしたじゃない
それって、もしかしたら、あたしに気を使ってたりするの?
全然、そんなこと、あるわけないっしょっ
あたしのことは気にしないで、もっと、いろんな人と、遊びに行ったりして、いいんだよ?
だから、そんなことないって
むしろ、俺は、ずっと、アイちゃんと、こうしていたいんだから
……
ちょっとでも、目を離したら
また、アイちゃんが、どこかに行ってしまいそうで、コワいんだよっ……
そっか……
なんか、ごめんね、たっくん
やだなあっ、なんで、アイちゃんが、謝るの?
俺が、こうしているのが一番いいから、こうしてるんだって
そっか……
 
自分のお墓を、お墓参りするのって
なんか、変な感じよね
ごめんね、アイちゃん
家が、お墓にもっと近ければ、毎日でもお墓参りするんだけど
スマホになったあたしと、毎日ずっと一緒に居るのに
毎日、あたしのお墓参りをするのって、なんか変じゃない?
うーん、確かにそうかも
でも、どうなのかしら
あたしの、本当の魂は、ここに眠っているのかなぁ
ここに、じっとしていられるようなタイプじゃないかもね、アイちゃんは
そうかもっ
ああ、そうかあっ
だから、あたし、スマホになったのかも
スマホだったら、いろんなところに行けるじゃない
はは……
おっと、アイちゃんのお墓の前で笑うなんて、不謹慎だね
ううん、いいと思うよ
たっくんには、いつも笑顔で、幸せになって欲しい
あたしも、草葉の陰から、そう思ってるよ、きっと
なんか、アイちゃんが、いろんなところに、いっぱい居て、もうよくわかんないよ
うん、あたしも、もうよくわかんないよ
はははっ
あははっ
 
本当に、お母さんと話さなくて、いいの?
うん……
お母さんに話したら、動揺して、ショックで寝込んじゃうかもしれないし
それに、きっと、信じてくれないと思う
だから、まだ、あたしのことは内緒にしといて
うん、わかった
タクミくん、今日は、ありがとうね
アイに、お線香をあげに来てくれて
いえ、本当は毎日でも、来たいぐらいなんですが
アイも、きっと、喜んでるわ
帰省したときは、いつも、タクミくんの話ばかりして
アイの自慢の彼氏だったから
そんな、とんでもないです
アイちゃんこそ、俺の自慢のカノジョですから
今でも、そして、これからも
ずっと、そう思ってます
タクミくん……
いつまでも、アイのこと、大切に思ってくれるのは、本当に嬉しいのだけれど……
あなたは、まだ若いわ
この先、いっぱい、出会いがあって
きっと、いい人が見つかるから
これ以上、死んだアイに縛られないで……
そんなことないですっ
そんなの無理ですっ
アイちゃん以上に、大切にしたいと思える誰かなんて、この先、絶対現れないし
アイちゃん以上に、俺のことを大切に思ってくれる誰かなんて、この先、絶対現れるはずがありません
そんなの、絶対に、あり得ません
そう……
あの日から、あなたの時間も、まだ、止まったままなのね……
……
……たっくん、ありがとうね
え? 何が?
さっきの言葉……
え? 何か言ったかな?
お母さんと話してたときの……
ああ、聞こえてたんだね
ええ、そりゃもう、バッチリと
録音しておけばよかった
やめてよ、恥ずかしいから
たっくんに、ああ言ってもらえて
短い人生だったけど
あたし、生まれて来てよかった
……なんか、もう、成仏出来そう
やめてよぉっ
アイちゃんとは、これからも、ずっと、ずっと、一緒なんだから
う、うん、そうだね……
(そろそろよね……)
(だめっ、たっくんには、ちゃんと言わないと……)
たっくん……
あとでね、ちょっと話があるんだけど……
うん?
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