第二話 memory (3)

文字数 632文字

 拝啓 滝川 一颯様

 春風が心地よく、桜も徐々に色をつけ始めましたね。まだ少し肌寒い日もありますが、そちらはいかがですか。
 今日はお祝いですね。
 颯くん、卒業おめでとうございます。
 ああ、一緒に卒業したかったなぁ。
 卒業証書を持って、校門で一緒に写真を撮りたかったです。
 そうだ、背丈はどのくらいになりましたか?
 颯くん、よく身長が低いと気にしてましたよね。
 背が伸びれば、もっと走るのが早くなるのにって、いつも言ってましたよ。
 一年前はほとんど私と変わりませんでしたから、きっと今なら颯くんの目線が高いところにあるんでしょうね。
 見たいなぁ。
 逢いたいなぁ。
 高校はどこに決まりましたか。
 颯くんはやっぱり北高ですか。
 陸上なら県下でも一番強いところですものね。
 颯くんがインターハイに出場すれば、TVに映ったりしないかなぁ。
 観たいなぁ。
 颯くん。
 やっぱり、まだ未来には行ってないんですね。
 それとも、行ったけれど私を忘れてしまいましたか。
 私から忘れてって言ったのに、あまりにも身勝手ですね。
 私が颯くんと離れ離れになって、もう一年ですものね。
 仕方ないですね。
 忘れてしまったのなら、それでもいいんです。
 いずれ消えてしまう私は、颯くんに「待ってて」とは言えませんでした。
 あ、また話が反れました。
 今のは聞かなかったことにしてください。
 今日はとにかく卒業のお祝いを伝えたかっただけですので、ここまでにします。
 またお便りしますね。

 かしこ

 新城 夏帆

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