第7話 裕子と天上からの使者

文字数 803文字

 リビングにいる母と小学生の娘。
裕子
なに?
正直に答えてね
裕子、いま何か悩み事とか、ない?
なやみごと?
ええ。学校のこととか、友達のこととか。うまくいってる?
うん。先生は優しいし、友達もみんないい人ばっかりだよ
そう……。ママやパパにも、気に入らないこととかない?
うん……ママ、どうしたの。何かあったの?
裕子、最近ママとお話してると、急に大人びた話し方になるときがあるから、どうしたのかなと思って心配なのよ
覚えてない?
ほら昨日も、最初はスマホがほしいって言ってたのに、急にまじめな顔になって『いらない』って。そのあと、脅迫観念がどう、って……
ママ、裕子が別人になったみたいで、怖かったのよ
――フフ
裕子?
何の話かと思ったら、そんなこと……。私にとっては、たいした話ではないわ
ゆ、裕子……
そうよ。ママの言った通り、いまの私は別人。違う人格なの
この世界をより良く、より平和なものにするために、神様が遣わした天上からの使者。それが私
な、なにを言ってるの、裕子……?
この世にはびこる偽りの平和を正し、本当にこころから安心して暮らせる世界に人々を導くのが、私に与えられた使命なの
これまでママの一人娘として振る舞ってきたけれど、どうやら今日でそれも終わりみたいね
終わりって、どういうことなの――。正気に戻って、裕子!
日本にいると忘れそうになるけれど、世界はまだまだ平和とはいえないわ
私には聞こえる。毎日苦しんでいる人達の嘆き悲しむ声が。アジア、アフリカ、南米……世界中の人々が、私を待っている
――行かなければ
裕子!
ごめんね、ママ。今までありがとう
ママと一緒に暮らせて、楽しかったわ。パパにもよろしくね
うそ――うそよね、裕子? 行っちゃだめよ。行かないで、裕子!
さよなら、ママ
 リビングから出ていく裕子。
待って、裕子!
 それを追いかける母。リビングから玄関に出る。
 でも、そこにはもう、裕子の姿はなかった。
裕子……裕子ーー!!
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登場人物紹介

母親

ほら裕子。自己紹介しなさい

裕子

裕子です! 十歳です! 小学四年生です!

好きな教科は国語と社会で、苦手な教科は体育です!

でも友だちも先生も優しいし、学校はとても楽しいでーす!


――なんてね。フフ。

自己紹介で私の全てを知ろうだなんて、虫がよすぎると思わない?

所詮自己紹介なんて自分の中の良い部分、自慢したい能力を披露するだけのものよ。

本当の人間性はこんなことじゃ到底理解し得ないことに、この欄を読む側もそろそろ気づくべきじゃないかしら。


母親「ど、どうしたの裕子!」

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