Game3:M&Dエンターテインメント

文字数 3,158文字

『やあ、全国のみんな! 今日も元気に狂ってるかい!? M&Dエンターテインメントの時間だよ! 司会はいつもの通り私、マックスと……』

『私、デボラがお送りしまーーす!』

『ありがとう、デボラ。君はいつも元気だね!』

『ありがとう、マックス! だって今日はこの後、アメリカ中の皆が待ちに待った、あの『ダムセル・イン・ディストレス』がいよいよ開始されるんですよ!? もうテンション上がりっぱなしで元気一杯! 楽しみすぎて昨日の夜から徹夜しちゃってまーーす!』 

『おやおや、デボラ? 君は女性なのに『ダムセル・イン・ディストレス』を楽しみにしてたのかい?』

『別に女性だからって他の女性の味方ばっかりじゃないんですよ、マックス? 女ってとっても残酷な生き物なの。他の綺麗な女が無様に苦しみながら死ぬ様を楽しんで視聴する女性……もしかしたら男性より多いかもしれませんよぅ?』

『おおっと! それは怖いなデボラ! 小悪魔な君の残酷さは僕が誰よりもよく解ってるつもりだったけど、これからは一層気を付けないとね!』

『賢明な判断ね、マックス! 話を戻すけど今回の『ダムセル・イン・ディストレス』のルール、視聴者の皆さんにも改めて説明しておいた方が良くないですか?』

『いい考えだね、デボラ。今回のゲーム、基本的には今までの『ケルベロスの顎』で開催されたバトルロイヤルゲームと同じだ。でも今まではむくつけき男達が争い合う暴力のゲームだったけど、今回はそれに可憐な華……女性参加者達を加えた物になるんだ』

『そう! でもそれだけ聞くと、ただ女性の参加者が増えただけのバトルロイヤルに思われちゃいますよね?』

『ははは! 勿論あの『ゲームマスター』ネイサンが、そんな捻りのないゲームを視聴者の皆さんに提供する訳がない! 初の女性参加という注目のデスゲーム。彼は充分に面白いユニークなルールを作ってくれたよ。それがまさにこの『ダムセル・イン・ディストレス』な訳だけど』

『ダムセル・イン・ディストレス……名前からして、女性にとっては愉快なルールじゃなさそうですねぇ?』

『まさにそんな感じだね! でも実は男性の参加者もとばっちりを受けるルールなんだ! それじゃテレビの前の皆さんに具体的なルールを説明していくから、知らなかった人はよく聞いておくように……』


****


「ここだ。出ろ」
「…………」

 自分をここまで連行してきた係員に促されて、アンジェラは頑丈な囚人護送用の装甲車から外に出た。一瞬眩しさに目を細めるが、それは装甲車の中に比べれば明るいというだけで、空はどちらかと言えば曇り空の灰色に染まっていた。

(……私の今の気分と同じだな)

 空を見上げながらそんな事を思うアンジェラ。目の前には天高く聳え立つ巨大な灰色の壁。それが見渡す限りどこまでも続いている。この壁の向こうに何があるかはアンジェラも知識としては知っていたが、まさか自分がこれから入る事になろうとは夢にも思っていなかった。

 壁の『麓』には何台かのカートのような車が停まっており、その前に電力銃を持った刑務官達。『主催者』である大手メディア局EBSの報道用ドローン。そして彼等に遠巻きに囲まれるようにして、特徴的な衣装の男女が固まっていた。ざっと見た所、男六人に女五人……いや、自分を入れれば女も六人か。つまる所、これから行われる悪趣味極まるデスゲームの参加者達だ。

 彼等とそしてアンジェラ自身は、視覚的に一目で見分けがつくようにシャツの色が分けられていた。『ケルベロスの顎』を始めとしたデスゲーム全般で良く行われている『チーム分け』の色だ。

 赤、青、緑、黄、黒、白の全部で六色だ。男女それぞれ一人ずつ各色が割り振られている。という事はつまりそれぞれの色ごとの男女ペアのチームという事か。

 尚、色は同じものの男女で着ている服のデザインはかなり異なっており、男性に関しては色付きのゆったりとした長めの半袖シャツで、下はこれは全員共通のモスグリーンのカーゴパンツと黒っぽいワークブーツという出で立ちで統一されていた。

 しかし女性はアンジェラを含めて全員色付きのサイズのキツいタンクトップに、下は男性と同じカーゴパンツの裾を限界まで切り上げてショートパンツ状にした物であった。ワークブーツだけは共通で、それ以外はかなり肌を露出を強調したセクシーさ重視のデザインである。この男女の露骨なデザインの差が、これがあくまで大衆向けの娯楽番組である事を否応なく認識させてくる。

 因みにアンジェラのタンクトップの色は白であった。


「…………」

 彼女は恐らく自分の『チームメイト』になるであろう、同じ色のシャツの男性を探す。色分けは視覚的な効果が高いのですぐに見つかった。 

 その男性は『悪い意味で』異彩を放っていた。他の五人の男性は程度の差こそあれ、皆屈強な体躯を誇っていた。立ち振る舞いからして何人かは元軍人かも知れない。だが白いシャツのその男性だけはどう見ても軍人どころか、およそ荒事には向いていなそうな線の細い体型に、極めつけに眼鏡まで掛けていた。身長も180無い程度で、恐らく女であるアンジェラとほとんど変わらないだろう。

 心の中で溜息を吐いた。自分がこのゲームに参加させられる事になった経緯を考えれば、この不公平さは仕組まれた物かも知れない。

(いや……)

 アンジェラは他の五人の女達にも目を向けてみる。視聴率を意識してか見栄え優先で揃えられたような女達ばかりで、皆怯えたような表情をしていた。一人だけ粋がっているギャング風の女がいたが、そいつも含めて全員が『素人』だと判断した。男性か女性かの違いはあるが、『お荷物』を抱えるのはどのチームも同じであるようだ。

 ならば条件は対等だ。白チームに関しては自分が牽引するしかないだろう。デスゲームは『優勝』すれば必ず罪を免除されて、かつ賞金付きで釈放されるのは今までのゲームで立証済みだ。中にはゲームでの実体験を本にして、印税で稼いでいる優勝者もいるらしい。

 別にそんな事は望んでいないが、生きて自由を勝ち取れるのであればそれで良かった。ベルゲオン社への復讐も考えたが、その度に現社長であるギルバートの顔がチラついた。

「……っ」
 今考える事ではない。まずはこの『恩赦』の機会を絶対にモノにする事だけを考えるのだ。


 銃を持った刑務官達の後ろから四十過ぎくらいの背広姿の男が現れる。小脇に抱えるくらいの大きさの、銀色に輝く箱のような物を持っていた。

「あー……、これで全員揃ったな? まずは自己紹介しておこう。私はEBSの局員で『ケルベロスの顎』のプロデューサーでもあるネイサン・ブロデリックだ。君達は厳正なる審査の結果、今回のゲームの参加者に選ばれた」

「どうして!? デスゲームの参加者は、今まで男だけだったじゃない!? なんで急に――」

 女性の一人が抗議する。赤いタンクトップの女で、金色の巻き毛のちょっと気が弱そうな感じだ。話を遮られたネイサンが不快そうな様子になる。

「別に規則がある訳でもなんでもない。単に今まで誰も何となくやらなかっただけだ。私と君達がその第一歩を踏み出したに過ぎないのだよ」

「……っ!」
 女性が絶句する。

「納得したかね? それでは話を続けよう。諸君らはいずらも殺人を始めとした重罪で刑に服している身だ。長い刑期を終えねば釈放される事はない。だがこのゲームで『優勝』すれば話は別だ。『優勝者』はそれぞれ五万ドルの賞金と共に晴れて自由の身となれる」

「……!」

 参加者達……特に男性組の目の色が変わる。今までのゲームでは賞金は高くても三万ドルが最高だった。一人五万ドルの計十万ドルとは随分太っ腹だ。ネイサンはその参加者達の心の声が聞こえたように頷く。
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