4章:証言その2
文字数 2,482文字
「お忙しい中お時間取らせてすいません。」
「…いえ、お構い無く。」
「早速で恐縮なんですが、お話をお聞かせ願いますか?」
「…、えと。どこから話します?」
落差とは人の行動を鈍くする。先程迄の機関銃から静寂にいきなり変わったものだから困惑の一言に尽きていた。
「えぇっと、お名前から確認を。」
「…私はロゼと申します。この銀行で働いています。」
目の前の若い女性はこちらの様子を見ながら喋り始めた。
「ではロゼさん。先ず確認ですが、貴女が最初に支店長さんが倒れているのを見つけた。ということで合っていますね?」
「いいえ、私は店長さんを呼びに行っただけです。そしたら部屋が閉まってて、ノックしても返事がなくて。こんなこと初めてだったから副店長を呼んできて、抉じ開けたら店長さんが倒れてて…」
目を瞑って苦痛に顔が歪む。嫌なことをわざわざ思い出させてしまった。
「もう大丈夫です。辛いことを思い出させてしまって申し訳ありません。」
そう、この女性が第一発見者の一人であった。
彼女が副店長を呼び、部屋を強引に抉じ開けたらあの現場が広がっていたらしい。そのあと騒ぎを聞いたリリー婦人が駆けつけた…。というわけだ。
「………大丈夫です。続けて下さい。私は平気です。」
彼女の目は少し赤く腫れていたが、その意志が伝わった。
「では…店長さんを見つけた後、あなた方が何をしたか教えて下さい。」
「 はい。先ず副店長が店長に駆け寄って介抱しました。私は腰が抜けて、ずっと…扉の所に…血が一杯で…」
不味いな。話を無理やりにでも変えるか…。
「と、ところで、店長のバンクさんについてなんですが、相当真面目で働き者な方だったそうですね。なんでも、トイレに行くときも店長室に鍵をかけるとか。」
「えぇ。バンクさんは、とても真面目な方でした。整理整頓を徹底されていて、机はいつも綺麗にしておきなさいって。私達にも言ってました。机だけじゃなくて本棚も綺麗にって。綺麗にしておけばいざというとき困らないって。ですからお金の計算が合わない、なんてことも無いし、とてもいい職場にして貰ってました。」
「成程。相当生真面目な方だったと。で、良い職場だったと。行員からの評判は良かったのですか?」
「…はい。ほとんどの職員は。本好きで、本に目が無かったですが、他にはこれ以上無いくらい良い人でした………今朝まで、元気だったんです……誰があんなひどいことを……」
また少し動揺し始めた。仕方ない。もう少し訊きたかったがあと一つ訊いて終わりにするしかない。
「ほとんど。ということは悪く思っている人や恨んでいる人は居たんですか?」
その問いに彼女はこう言った。
「…はい……。副店長のシアラさんは、店長さんを目の敵にしていました。」
3章―3 証言その3
「ルイス君。どう思う?」
副店長が来るまでの間。
「ウヮッ!君付けは止めてくれ。ルイスでいい。で、何が?」
「いや、犯人さ。というより、今更なんだが、どういう状況なんだい?どうも事件の要領を得ないんだけど?」
キョトン。とされた。僕があれよあれよという間に掴まってそのままここに来たことを知ってたと思ったんだけどな。
「ブラウン警部。さっきの警部から聞いてない?」
「僕が銀行の人を殴って金を盗んだ。って考えてたらしい。で、どうなの?どういう事件なの?」
「………はぁー」
ルイスは顔を覆うと大きくため息をついた。
「あのヘボ警部…。説明無しにとっ捕まえてたのか…。はぁ、ええっと。今回の事件は今朝起こった。現場はこの銀行。更に言うとその店長室。さっきの二人やこれから来る副店長が出社の後、いつも朝一番に来て仕事をしている筈の店長のバンクさんの顔が見えなかった。毎日朝9時には店長室から出て必ず朝会をしているのに9時過ぎても来ない。っていうんで不審に思って店長室を覗こうとしたんだが鍵が掛かっていた。声を掛けても返答が無い。これはおかしいって副店長が店長室のドアを蹴破って入ったらバンクさんが倒れていて、君もその近くに居た…。で、店長室にあった金庫は開けられていて、中身は空っぽ…という訳だ。で、店長室の鍵は店長しか持ってないし、その鍵は店長の懐にあった。金庫の方は店長しか開けられない。という訳で、カモヤ君が容疑者だってされている訳。」
「……成程。」
「因みに現在バンクさんは病院で手当てを受けているけど意識は戻ってない。本人から訊くのは無理っぽいね。」
さっきの警部さんが僕を犯人だと断言するのも道理だ。僕だって彼の立場なら犯人は僕だと断定するだろう。逆に他の犯人が居て、僕が巻き込まれてそこに居ただけ…。とする場合。この部屋は密室になる。
どうやっても僕が犯人だと考えるのが自然だろう。
………犯人は僕なのかな?
「おっと、君が犯人かどうかはまだ分からない。なんてったって未だ外部犯説の完全否定には至っていないし、内部犯の説は未だ強い。というか、次の副店長は憶測だけなら犯人の可能性大だ。それに、君が犯人であっては困るんだ。なんせ僕は警部の前であれだけの演説かましたんだから。自信をもって考えたまえ。君は僕の推理において犯人でないとされているんだ。」
気を使ってくれたのか、目の前の探偵は自信をもって笑った。そうだ。目の前の見ず知らずだった探偵が初対面で否定してくれたんだ。
「ありがとう。自信が持てた。そうだ。僕はバンクさんなんて知らないし、彼をどうこうした覚えも無い!大丈夫。僕は無罪だ。多分。」
「そうそうその調子。さぁ、副店長が来たようだ。」
ノックの音がした。副店長が来たようだ。
「…いえ、お構い無く。」
「早速で恐縮なんですが、お話をお聞かせ願いますか?」
「…、えと。どこから話します?」
落差とは人の行動を鈍くする。先程迄の機関銃から静寂にいきなり変わったものだから困惑の一言に尽きていた。
「えぇっと、お名前から確認を。」
「…私はロゼと申します。この銀行で働いています。」
目の前の若い女性はこちらの様子を見ながら喋り始めた。
「ではロゼさん。先ず確認ですが、貴女が最初に支店長さんが倒れているのを見つけた。ということで合っていますね?」
「いいえ、私は店長さんを呼びに行っただけです。そしたら部屋が閉まってて、ノックしても返事がなくて。こんなこと初めてだったから副店長を呼んできて、抉じ開けたら店長さんが倒れてて…」
目を瞑って苦痛に顔が歪む。嫌なことをわざわざ思い出させてしまった。
「もう大丈夫です。辛いことを思い出させてしまって申し訳ありません。」
そう、この女性が第一発見者の一人であった。
彼女が副店長を呼び、部屋を強引に抉じ開けたらあの現場が広がっていたらしい。そのあと騒ぎを聞いたリリー婦人が駆けつけた…。というわけだ。
「………大丈夫です。続けて下さい。私は平気です。」
彼女の目は少し赤く腫れていたが、その意志が伝わった。
「では…店長さんを見つけた後、あなた方が何をしたか教えて下さい。」
「 はい。先ず副店長が店長に駆け寄って介抱しました。私は腰が抜けて、ずっと…扉の所に…血が一杯で…」
不味いな。話を無理やりにでも変えるか…。
「と、ところで、店長のバンクさんについてなんですが、相当真面目で働き者な方だったそうですね。なんでも、トイレに行くときも店長室に鍵をかけるとか。」
「えぇ。バンクさんは、とても真面目な方でした。整理整頓を徹底されていて、机はいつも綺麗にしておきなさいって。私達にも言ってました。机だけじゃなくて本棚も綺麗にって。綺麗にしておけばいざというとき困らないって。ですからお金の計算が合わない、なんてことも無いし、とてもいい職場にして貰ってました。」
「成程。相当生真面目な方だったと。で、良い職場だったと。行員からの評判は良かったのですか?」
「…はい。ほとんどの職員は。本好きで、本に目が無かったですが、他にはこれ以上無いくらい良い人でした………今朝まで、元気だったんです……誰があんなひどいことを……」
また少し動揺し始めた。仕方ない。もう少し訊きたかったがあと一つ訊いて終わりにするしかない。
「ほとんど。ということは悪く思っている人や恨んでいる人は居たんですか?」
その問いに彼女はこう言った。
「…はい……。副店長のシアラさんは、店長さんを目の敵にしていました。」
3章―3 証言その3
「ルイス君。どう思う?」
副店長が来るまでの間。
「ウヮッ!君付けは止めてくれ。ルイスでいい。で、何が?」
「いや、犯人さ。というより、今更なんだが、どういう状況なんだい?どうも事件の要領を得ないんだけど?」
キョトン。とされた。僕があれよあれよという間に掴まってそのままここに来たことを知ってたと思ったんだけどな。
「ブラウン警部。さっきの警部から聞いてない?」
「僕が銀行の人を殴って金を盗んだ。って考えてたらしい。で、どうなの?どういう事件なの?」
「………はぁー」
ルイスは顔を覆うと大きくため息をついた。
「あのヘボ警部…。説明無しにとっ捕まえてたのか…。はぁ、ええっと。今回の事件は今朝起こった。現場はこの銀行。更に言うとその店長室。さっきの二人やこれから来る副店長が出社の後、いつも朝一番に来て仕事をしている筈の店長のバンクさんの顔が見えなかった。毎日朝9時には店長室から出て必ず朝会をしているのに9時過ぎても来ない。っていうんで不審に思って店長室を覗こうとしたんだが鍵が掛かっていた。声を掛けても返答が無い。これはおかしいって副店長が店長室のドアを蹴破って入ったらバンクさんが倒れていて、君もその近くに居た…。で、店長室にあった金庫は開けられていて、中身は空っぽ…という訳だ。で、店長室の鍵は店長しか持ってないし、その鍵は店長の懐にあった。金庫の方は店長しか開けられない。という訳で、カモヤ君が容疑者だってされている訳。」
「……成程。」
「因みに現在バンクさんは病院で手当てを受けているけど意識は戻ってない。本人から訊くのは無理っぽいね。」
さっきの警部さんが僕を犯人だと断言するのも道理だ。僕だって彼の立場なら犯人は僕だと断定するだろう。逆に他の犯人が居て、僕が巻き込まれてそこに居ただけ…。とする場合。この部屋は密室になる。
どうやっても僕が犯人だと考えるのが自然だろう。
………犯人は僕なのかな?
「おっと、君が犯人かどうかはまだ分からない。なんてったって未だ外部犯説の完全否定には至っていないし、内部犯の説は未だ強い。というか、次の副店長は憶測だけなら犯人の可能性大だ。それに、君が犯人であっては困るんだ。なんせ僕は警部の前であれだけの演説かましたんだから。自信をもって考えたまえ。君は僕の推理において犯人でないとされているんだ。」
気を使ってくれたのか、目の前の探偵は自信をもって笑った。そうだ。目の前の見ず知らずだった探偵が初対面で否定してくれたんだ。
「ありがとう。自信が持てた。そうだ。僕はバンクさんなんて知らないし、彼をどうこうした覚えも無い!大丈夫。僕は無罪だ。多分。」
「そうそうその調子。さぁ、副店長が来たようだ。」
ノックの音がした。副店長が来たようだ。