01

エピソード文字数 7,659文字

 じわじわと蘇る痛みに引っ張られ、無自覚に目を開いて見えたのは暗闇だった。
まだ意識が朦朧としているのだろうか。尻は硬い地面の上にあるというのに全身が前後左右に揺れ、静止していることができなかった。
 自分が今どうなっているのか、そしてどこにいるのかよりも、鈍痛を発する後頭部の具合を確かめたくて、何故か背中に回っている手を動かすと手首に細い紐のような物が食い込んだ。足も同様に束縛されていて身動きがだいぶ制限されている。
 ならばせめて深呼吸でもして昂ぶってしまっている感覚を鎮めようにも、大きく息を吸えば吸うほど薄い膜が口腔に侵入し、うまく酸素を肺に取り入れることができず、仕方無しに細く長い呼吸をするよりなかった。
 心臓が顔面の中心に移動してきたみたいに、鼓動が鮮明に聞こえる。鼻腔から入り込む空気は磯臭く、生物的な饐えた臭いも孕んでいて、落ち着きを取り戻す間にも数回、吐き気を催し、胃液にまみれになるところだった。
「だ、誰かいるのか」
 比較的近くで、ゴツゴツと靴底が床を鳴らしている。僕は足音の主を呼び止めた。頭の上から袋を被せられているらしく、帆のようにぴったりと口の形に袋が貼りつき、その一言を発するだけでも普段と同じとはいかなかった。
 足音が僕のすぐ目の前で止まった。かと思ったら横っ面を固く、それなりに質量のあるものでぶん殴られて体が真横へ吹き飛び、揺れる地面へ倒れ込んだ。
 静かにしていろ、という吐き捨てられたセリフは僕を打ちのめした奴のものか、別の人間のものかは検討がつかなかった。脳震盪が収まるまで待ち、なんとか体を起こした頃には全身が汗にまみれていたし、ひっきり無しに続いている揺れと相まり、視界は暗闇だというのに全てものがぐわんぐわんと回っている。
 吸えども吸えども、袋のせいで一向に呼吸は楽にならない上に、したたかに打たれた横顔が激しく痛んだ。全身のあらゆる箇所から感じ取れる不快感のせいで頭がうまく回らないが、恐らくここは船の中、それもクルーザーやヨットと言った小綺麗な代物ではなく、それなりに大きくて年季の入った漁船か貨物船だろう。この揺れは恐らく波によるものだ。
 そして視界を奪われ、両手足も拘束されている様子を鑑みるに、どうやら僕はまさしく、拉致されているところらしい。
 何故だ。記憶を遡る限り僕は有権力者でもなければ、金持ちでもない。誰かから拉致されなければならないほどの人間なのかと言われたら決してそうではなく、ただの旅行者だし、もっと厳密に言えば失業者でもあった。
 繰り返し行われた法改正により、従業員の解雇が簡単には行えなくなったにも関わらず、いとも容易くそれも突然、首を切られて暇を出されたような、社会からしてみれば認知する程でもない男である。
そんな事実は拉致した側は知りようがないかもしれないが、こちらにも拉致される謂れなんて無い。
 記憶が確かなら帰国日まで三日はあったし、ホテルに荷物もパスポートも置きっ放しだった。沖に出てからどれくらい経った。そもそも、ここはどこなんだ。
「静かにしてろって言ったのが聞こえねぇのか!」
 あらゆる不安に駆られている中、新たな怒声にビクリと体が硬直する。ガタゴトという物音に次いで潰れるような短い悲鳴が上がり、しばらくした後、自分らが一体何をしたんだ、という嗚咽が聞こえた。少し耳を澄ませてみると、船の駆動音や船体に打ち付けられる波の音に混じり、複数のすすり泣く声や人の気配がする。
 相変わらずわけのわからない状況だし、恐怖や不安は渦巻いているものの、ひとまず拉致されたのが僕一人でないことがわかり、なぜだが少し安堵したし、更に、詳しい記憶も戻ってきた。
 僕はホテルの近くのバーで酒を飲んでいた。看板が無い代わりに時代遅れのネオンが光っていて、カウンターには乱雑に酒が並び、バーテンの後ろにはグラスと酒があるようなローカルでカジュアルなバーだ。薄暗い店内は紫ともピンクとも言い難い蛍光色のライトが照らしていて、それなりに賑わってもいた。
 国の土地柄か、酒の効果か、客達はフランクで親しみやすく、ふらりと入っただけなのに妙に居心地が良かった。隣に座っていた男は厳つく、僕が外国人ということも気にせず、積極的に話しかけてきたのを覚えている。話し相手が欲しかった僕にとってそれはとてもありがたく、いつの間にか仲良くなっていた。
 一人、また一人と地元の人間や旅行客たちが帰り始め、ポツポツと席が空き始めた頃、男の友人らしき人間がやってきて、男は友人からくしゃくしゃのタバコを受け取ると二人はそれを、美味そうに吸い始めた。
 僕も喫煙者だからタバコは嗅ぎ慣れていたが、男たちが呑んでいたものはあまりに臭いが酷く、酔いが回っていたところに拍車が掛かり、トイレに駆け込んでひとしきり戻し、そろそろ帰ろうと思いながら席に戻ると、水のグラスが用意されていた。男が配慮してくれたようで、気遣いに促されるまま口をつけて……そこから記憶が途絶えている。
 見知らぬ土地ということもあり、貴重品は身につけず、ポケットにはタバコとライターとスマートフォンと少しばかりの金しか入れていなかったし、怪しく感じた店や場所に立ち寄らないくらいには警戒していた。良さげな店は他にもあったと言うのに、わざわざホテルの近くの店を選んだのも、地元の人間だけでなく旅行者や人目が多いからだった。
 何より僕は男だ。女性であれば付き纏われ暴行を受けるかもしれないが、男に手を出す男なんてそうはいない。スられたり絡まれたりと、カモにされないように気をつけていれば大丈夫だと思っていた。その程度の警戒心だけでも、旅行は充分に楽しめるはずだった。
 いくら酔っていたとは言え、誰が水など疑うか。人の親切心を疑うか。などと、今更嘆いたところでどうにもならない。悪酔いこそしていたが酩酊はしていない。恐らく、あの水には薬か何かが盛られていたのだろう。それを飲んでしまったが為に、僕はこうして見知らぬどこかに搬送されている。
 膠着した状況で事実がわかれば、次に襲ってくるのは激しい後悔だったが、今はどう頑張っても打開の一手を考えられないし、船が目的地へ着くのを待つよりない。
 確かに、何の理由も説明されず、自分にも思い当たる節が無いのに突然クビにされ、自暴自棄になっていた。会社に損害をもたらしたわけでも、業務を放棄したわけでもない。強いて問題を挙げるとしたら、少しばかり、周囲の人間と反りが合わなかっただけだ。
 真面目に仕事に取り組んでいた自覚はある。同期や先輩が使えないからこそ、上司はいくばくか信用できる僕に仕事を振っていたのだろうし、その実感があったからこそ私生活を捨て、連日の泊まり込みも厭わず、デスクに噛り付いて仕事をしていた。
 朝帰りが何ヶ月も続くくらいの仕事量の割に、給料も最低限。ボーナスも無し。何の役職もないヒラだったし、昇進昇給には夢も希望も抱いていなかったが、承認されていることが嬉しかったから続けていた。
 その結果がボロ雑巾になるまで搾取されて捨てられるとは皮肉なものだ。元はと言えば人をそういう扱い方をする企業に入社した自分が悪かったのだろうし、そんな企業に入社してしまうくらいに思慮が浅かったのも悪い。そうならないように志を持って人生を歩んでいれば、捨てられたことにショックを受け、塞ぎ込む羽目にはならず、嫌気が差して、海外旅行でもしてみようかなんて考えにも至らず、拉致されずにも済んだ。
 落ち込むとわかっていても自分の人生への否定はしばらく止められそうになかった。何なんだこれは。自分が愚かなことは充分に理解しているが、愚かの果てが人攫いの犠牲だとは信じたくないし、ふつふつと温度を増している怒りはどこにぶつければいいのだろう。
 また誰かが何かを発し、殴られ、閉口させられる音が聞こえた。声を上げればまた殴られることはわかっていたから、飽きて疲れ果ていつの間にか眠ってしまうまで、腹の中で浮かんでくる悪態と罵詈雑言を処理するしかなかった。
 
 足の拘束だけを解かれ、小突かれながら船から降ろされた。しばらく歩かされた後に袋を取られると、久方ぶりの光が強烈だった。光源の正体は複数の車のヘッドライトで、照らし出されたがらんどうの空間を見る限りどうやら、遺棄された倉庫の一角らしい。
 相変わらず磯の臭いが鼻についている。宛てもわからず、あとどれだけ待てばいいのかもわからず、身も心もすっかり疲弊し、悪臭と船酔いで何回か嘔吐してしまったせいでシャツは黄色く汚れている。
犯人達に唾液と胃液を拭ってやるようなホスピタリティは無く、汚れた首や口元の皮膚が炎症を起こして、ヒリヒリと痒い。他の拉致被害者たちも同じような状態で、みんな死人みたいな青白い顔をしていた。ズボンのポケットにも異物感が無かった。タバコやスマートフォンや金は全て、取り上げられてしまったに違いない。
 確認できた限り、犯人達は五人と少数だがそれぞれ拳銃や自動小銃を携えている。さっきから一人がスマートフォンを耳に当ててがなり立てていた。何を言っているのか理解できなかったが何となく、受け渡し人の到着が遅れているのではないかと思った。
 できることなら彼らのトラブルが、一生解決しないままでいてくれたらありがたいのだが、そうはいかないし、銃を持った五人の男達に両手を縛られた状態で立ち向かっていくほど、馬鹿にもなれない。
 さっきから微かに聞こえていた大型車両のエンジンの音は今じゃ無視できてないくらいの大きさになっている。それが唐突に止み、倉庫のすぐ近くで停車したかと思ったらふらりと、中肉中背な中年の男が現れた。
 丸い禿頭を掻く腕はハムのように太く、シャツが肥えた腹を浮き彫りにしていた。短パンにサンダルシューズと、あまりにラフすぎる出で立ちだからこそ、男が無遠慮に腹に差している銃把が物々しい。
 電話をしていた男と禿げて太った男がやりとりを交わしている最中、男たちは僕らに銃口と同時にカメラのレンズも向けた。使用用途の説明を受けていなければ、撮影を承諾した覚えもないが、お構い無しに正面と横顔の写真を撮り、倉庫の外へと連れ出されると、停車していたトラックの荷台に乗るように、背中を強めに押される。
 暗くてよく見えなかったが荷台にはドラム缶やら木箱やらが積まれていた。男たちは僕たち全員をトラックの奥へ詰め込むなり、積荷の位置を元に戻して暗闇に閉じ込める。まだトラックは走り出してもいないというのに、暗闇は瞬く間に不安な息遣いで満ちた。
 倉庫で並ばされている時に見た限り、この中にやくざ者らしき人間は一人もいなかった。みんな普通に生まれ普通に育ち、人並みか少々辛い苦労をしながら生きる平凡な男たちばかりで、誰もが自分が何をしたんだと思っているに違いなかった。しかし裏を返せば、こういう目に会う必要がないからこそ、犯人たちは目をつけたのかもしれない。
 車体が震え、トラックが走り出すと、不安はより濃くなった。僕たちは無力である。拉致されたことに気づいた身内や仲間が通報し、警察が捜索を始める頃には、奴隷のような扱いを受けているか、犯罪に加担させられているか、臓器という臓器を摘出されて売り飛ばされているかのいずれかだ。
 僕のように独り身の人間はもっと絶望できだ。親兄弟以外の家族がいなくて友人も少なく、交際相手を持たず組織にも所属していないとなると、捜索が始まるまでかなりの時間を要するのは想像に容易い。拉致された時点で、死んだも同然だった。
 積荷はごとごとと重そうな音を立てている。容器には中身が詰まっているらしく、僕らを隠す際、犯人たちは二人から三人掛かりで重たそうに動かしていたのを覚えている。
 相変わらず手は後ろで拘束されていて、背後の壁に背をつけ、突っ張りながらなんとか立ち上がると、探るように突き出したつま先が、ボンッと何かを蹴った。コンテナかドラム缶か知らないが、揺れが収まった隙に肩から思い切りぶつかってみるも、予想通りビクともしない。思い切り押してみても、ただ肩がじわじわと痛くなるだけだった。
 両手が使えても動かすのに苦労するのだから、拘束されている状態でどうにかするのは絶対に無理なのはわかっていた。
「ちょっと押すのを手伝ってくれないか? 言ってることわかるか? 押せ! 押せ!」
 隣に座っていた人間を踵で小突き、焚きつけてみたが激しく体を揺さぶる様子から、僕の言っている意味もわからなければ、何をやろうとしているのかもわかっていなさそうで、諦めざるを得なかった。
 揺れに翻弄されながら、僕たちを解放しろという願いを叫び、体当たりを続ける。一人で抵抗するのは寂しいが、ジッとしながら神様や仏様にただ祈っているよりかは、こうしている方が遥かにマシだった。
「おい誰だ、何をしてんだ! やめろ、やめろ!」 
 暗がりの中で聞こえた男の声にハッとする。聞こえ始めていたどよめきは多国籍言語が入り混じり、何と言っているのかわからなかったが、今しがた聞こえた制止の声音は少なくとも、僕でもわかる言葉だった。
「派手に音を立てんな! 俺らを危険に晒す気か、このバカが」 
 粗い口調が気になったが、言葉がわかる奴が見つかった。シャツの肩口に横顔を擦り付けて汗をぬぐい、わななく唇を引き結び震えを止めてから再度、口を開く。
「このまま黙って成り行きに身を任せろっていうのかよ、こんなのあんまりじゃないか。アンタだってそうだ、納得できるかこんなの!」
「誰だって納得してねぇよ。けど、この狭い空間で荷物を崩したら確実に誰かが死ぬだろうが! 派手なことをしたら見せしめに殺されかねねぇし、まずは落ち着け。深く息をしろ」
「臭い空気を吸ってもますます気が滅入るだけだ!」
 募っていた苛立ちを止められず、声に言い返しながら爪先に当たっていた積荷を蹴ると、思っていた以上に大きな音が響いた。トラックのブレーキが鳴り、波が引くようにどよめきが静まり返る中、外から荷台の扉の留め金が外される。言わんこっちゃない、という呆れ返ったボヤキが聞こえると同時に扉が開き、慌ててその場にしゃがんで息を殺す。
「次はタダじゃおかねぇからな」
 積荷の隙間から差すライトの白い光が、汗と皮脂にまみれた男たちの顔を数回なぞり、何やらまくし立てられた後、扉は無遠慮に閉じた。再び車体が震えトラックが走り出すと、暗闇から聞こえてくる声にはドスが効いていた。
「じゃあどうしろって言うんだ。受け入れろっていうのか? 冗談じゃない……」
 確かに僕の行動は浅はかだった。ここにいる人間の命を危険に晒したのは反省しよう。しかし、このまま黙って床に座り直してしまったら、もう一度立てる自信が無かった。
 緊張と不安に満ちた状況だからこそ、制止と疲れ切った悪態らしき声音の気配は、行動力を奪うばかりか、心細さに、膝が小刻みに震える。僕はどこで人生の選択を誤ったのだろう。
 立て続けの理不尽にすっかり打ちのめされていた。こんな体たらくではこの閉塞的な状況を打開できるような妙案など浮かばず、たしなめの言葉に抗う気力も無く、自然に溢れ始めた涙はギリギリのところで保っていた膝を床につかせた。
「いい大人がメソメソするんなよ。我慢なんざしたかねぇがとにかく耐えろ。楽しかったことを考えて頬っぺたの肉をあげてみろ。辛気臭いのが嫌になってくる」 
 言葉はぶっきらぼうでも、暗闇から聞こえる声の持ち主の心根にある優しさが、強烈に胸に刺さる。こんな状況の中で、なぜ彼がそうあれるのかわからなければ、なぜ自分はそうあれないのか不思議でならない。
 暗闇からの声は自身をヨキと称した。彼も僕と同じように、飲み物に薬を盛られて目が覚めたら船の中にいたと言う。フリーランスでwebデザイナーを営んでおり、自分を手酷く降った恋人を忘れる為の、傷心旅行の途中だったそうだ。
「俺は逆に感謝してるんだぜエイジ。他所の男のところに行った女のことで頭がいっぱいだったんだが、もうそんなもんどうでもいい。とにかく家に帰りたい。ぐっすり眠ってシャワーを浴びて、貰ったプレゼントをまとめてつっ返し、さっぱりしてぇ」 
「送り返すのは……やめたほうがいいんじゃないか? 気持ちが篭ってる物じゃないか」 
「考えたくもねぇ女のことを思い出すんだよ。せっかく使えるのに捨てるのももったいねぇし。いらねぇからやるって押し付けられた物ばかりだしな」
「照れ隠しだよ、馬鹿だな。そっとしときなよ、振り向いて欲しくてちょっかいかける子供と変わらないじゃないか。陰湿だぞ」 
「少しでも嫌な気分になってもらわなきゃ気がすまねぇんだ。あいつは俺とじゃなくて自分の理想と付き合ってたんだ。撃ち殺されたって文句は言えねぇはずだ」 
 餓鬼みてぇな女なんか大嫌いだと言いながら、ヨキはヘヘッと乾いた笑い声を漏らす。彼の素直で媚びない物言いはどこか気持ちがよく、組織から放り出された僕と境遇も似ていて、どちらからともなく話しているうちに、自然と彼に心を開いていた。あの酒場で隣にいたのがヨキだったらどれだけ良かっただろう。
「なあヨキ、僕たちはこれからどうなると思う? ……というか、拐われたのは男ばかりじゃないか。そんなに利用価値はないと思うんだ」 
「船の中には女もいたけどな。倉庫で袋を取られた時にはいなくなってたから多分、分けられたんだろう。女に比べたら需要は少ねぇし、良くて奴隷労働で最悪、捌かれてパーツにされるんじゃねぇか? 人質として交渉に使われるかもな。予想なんかつかねぇよ」 
「何にせよ屠殺場に運ばれる家畜と同じだ。。なぁ、どうにかして一緒に逃げ出さないか?」 
「どうやって。両手は使えず真っ暗で何も見えねぇ。派手に音を立てたら奴らが飛んでくる。八方塞がりだ」
 ヨキが言うことはわかりきっていたが、いつまでもおしゃべりに興じていても何ら進展は無い。空想の域を出なかったとしても、何かしらの策を講じていなければ、すぐにまた恐怖に支配されてしまいそうだった。
「今はどうしようもない。それよりも体を休めろよ。今のうちに寝ておけ」
「寝るって……状況がわかってるのか?」
「どうしようもできねぇから眠るんだ。いざって時に体が動くように。機を待つんだ……俺だって怖ぇよ。ここにいる誰もが怖いはずだ。だからお前も負けんな、友よ」
 それ以来口を開く気になれず、壁に背を預け、重たい呼吸を一つつく。怒りではなく無力さに頭の奥がヒリヒリとする中、耳朶の奥でいつまでもヨキが放った「友よ」という言葉が反芻していた。
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