詩小説『記憶へ沈む鍵盤』3分の音。想い出の人へ。

エピソード文字数 561文字

記憶へ沈む鍵盤

祖母が残した、古びたピアノは、
未だにあの部屋へある。

結ばれたカーテン。
窓からは日が差し込む。

漂うほこりは、
照らされて舞い上がる。

やけに静かな午後、
乾いた音だけが、そこにある。

床の匂い吸い込み、
頬は日を浴び光る。

子供のはしゃぐ声。
そんな昼下がり、うたた寝日和。

半分夢の中、
途切れて目を醒ますと、

温かくなった身体に、
聞こえてくるショパン。

夢の続きにいるような。
マボロシの世界を見せる。

ピアノ音色に導かれ。
胸はキューっとしている。

か細い指、弾む鍵盤。
長い髪は揺れていた。

その背中に寄り添えば、
気づいたあなた。

指を止め、浮かぶ黒鍵。
僕の寝癖を撫でて、微笑む。

背中から抱きしめると、
再び鍵盤を弾くあなた。

あの曲は記憶を呼び覚ます。
乾いた音は、天井へと消えた。

森の中、裸足で、僕等だけの言葉。
そんな恋だった。

色褪せて、日焼けした、眠る古本の匂い。
そんな恋になった。

今となっては、まるでおとぎ話のよう。
あなたも、ピアノも、マボロシだったのかと疑えるくらいに。

あの日と同じ昼下がりで、
なんだか眠いや。
このまま眠ろうか。

ひとりになったこの部屋で、
鍵盤を沈めてみた。
鈍い音を残し、

静かに消えていった。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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