中田さんの情報

文字数 726文字

「そんなことなら早く言えよ~。俺、全部暴露しちまってバカみたいじゃん」
 みたいじゃなくて、バカなんだよ。幸せなバカ。(うらやま)ましい限りだよ。
 
 俺はそう思いながら、隠す必要がなくなった本当の目的を雅紀に打ち明けた。
「中田香? あぁ、あいつ面白いやつだよな」

 面白い……?
 
「いや、見た目は大人しい感じなんだけど、話したらちょっと違うって言うか……。(いや)なやつじゃないよ、うん。いいやつ。でも見た目と中身はちょっと違う気がする」

 いいやつ。そりゃそうだ。中田さんから1ミリも悪いやつの匂いはしない。
 
 見た目と中身のギャップとはなんなのだろう。
 俺は中田さんについて何も知らないことに改めて気が付いた。
 
 そして、雅紀が知っている限りの情報を聞き出した。

 山に登る時はなかなか勇敢(ゆうかん)なこと。
 重い荷物を、そんな時だけぶりっ子して男子に(かつ)がせる女子もいる中で、中田さんは意地でも自分で持とうとするから逆にややこしい時もあること。
 キャンプで見た限り、料理は得意ではなさそうなこと。
 中学時代は陸上部で走りが速く、体力もあること。
 火曜と金曜の放課後は牛丼屋でアルバイトをしていること。
 木曜は図書館に行くこと……。

「俺から智が中田に気があるって伝えといてやろうか?」
 借りた教科書を返しといてやろうか、ぐらいの軽さで真面目な顔をして雅紀は言った。
「いや、取りあえず今はいい。図書館でお近づきになってみる」
「そうか。俺にできることあったらいつでも言って」

 コロのフンの時と変わらず、雅紀はいいやつなんだ。
 雅紀の恋が実ってよかったな。
 穏やかな雅紀の横顔を見ながら、俺はそう思った。

 そして帰る間際、雅紀が思い出したように付け加えた。

「そうそう。中田、腐女子らしいぞ」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み