心を求めるモノ
文字数 1,945文字
心を科学すること・・・・・・
師匠はいう。
神と人と運命の三つの一体こそが、本来あるべき無為自然(むいしぜん)な流れを作るのだと。
占い師に決定権はない。
占うことで見えてくる「今」と、そして「未来」を知ることで、依頼者(クライアント)が運命に対してどんな意思の決定を行うのかで、運命は変わる。運命は働く。
占いをしたからといって、運気が良くなることでもない。
今を知り、未来が見えるからこそ、選択の仕方が変わるだけ。
当たる、当たらないではない。
占い師は超能力を披露するパフォーマーではないのだから。
「ごめんね。マリア」
教室の窓からは、若干まぶしい陽の光が差し込んでいる。夕方よりも前。
グラウンドではまだ部活の生徒達が声を上げて練習している。
日差しが強いためか、心を鎮めるためか、沙雪は窓辺のカーテンを少し引きながら私にそういった。
推測はできるが、心に触れない・・・・・・
私には今回の彼女の相談内容が見えていたが、何も言わずに沙雪が話を切り出すを待った。
日差しがさえぎられるのを待ってから、私はカバンの中から占い道具を机の上に並べた。
私が使える占術(せんじゅつ)は卜占(ぼくせん)となる。
タロットカードも卜占に属している。
・・・・・・はじめるか。
小さく一呼吸おいて。
机の上でカードを広げる。
呼吸に合わせて時計回りにシャッフルしていく。
吸う息でカードと意識を結び、吐く息とともに両の手を交差させて心を止める。
祈りにも似ている。
感情を無に。
心を止め。
私は私の中にある経験や学びからくる先入観や自分を縛る規則から思考を解放させる。
今、この瞬間に、私の中で全てが一つに統一される。
心、感情、知性の三つの柱が一つに結ばれた。
シャッフルを終えると、カードを一つに束ねる。
そのまま・・・・・・目を閉じて、私は静かにカードの前で十字架を切った。
自分の考えと、他者の考えの両方を重ね合わせ、中立の立場であるという意思の表明である。
・・・・・・心がクリアになった・・・・
「どうぞ。準備が整いました」
占いを行う前の儀式のようなものである。
私は目の前にいるクライアント(依頼者)に優しく声をかけた。
今、私の目の前にいる人は、クラスメイトの沙雪ではない。私にとって、時間と未来の運命を預けてくれる大切なクライアント(依頼者)である。
よく知る人物を占うことは難しくないけど、感情やこれまでの付き合いを取り除いた形で、第三者の答えを出さなければならない点は気をつけなければならない。
「本日はどんな事を聞きたいですか?」
リードする私の言葉に、沙雪はゆっくりと口を開いた。
「わたしって、やっぱりダメなのかな・・・・・・」
・・・・・・ダメ?
「何だかね。最近、うまくいかなくて・・・
狭山先輩のこと・・・・・・見えなくてさ」
「狭山・・・先輩?」
「あ、ごめん。さっき、廊下ですれ違った人いるでしょ。あの人のこと」
教室で沙雪を待っていたときに、どこかに急いで通り過ぎていった生徒のことを思い出していた。
沙雪は話を始めた。
狭山先輩とは聖誕高校に通う3年生で、彼女と同じ美術部の部員である。
絵画コンクールなどでも成績を残している美術部ではちょっとした目立つ存在のようだ。
沙雪が狭山と知り合ったのは2年前となる。それまで美術に興味がなかった彼女は、狭山が手がけた作品を見て、彼の世界に引き込まれたという。
それが最近になって、狭山の作品に違和感を覚え始めた。理由は彼女にもわからないようだが、その頃から彼の沙雪に対する態度が変わった。
「どんな風に変わったのか覚える?」
私が聞くと、沙雪は少し考えてから、
「わたしのことを避けるようになったかな」
「避ける・・・?」
「美術部って、この学校ではあんまし人気がなくてね。
部員こそ多くなったけど、実際に活動しているのはほんのわずかで、作品作りのために放課後遅くまで残っている生徒もいるだけど、わたしと狭山先輩も二人きりで作品を作っていることも多かったんだ。
それが最近になってから、放課後にわたしと先輩だけになると、すぐに先輩はどこかに行ってしまうようになって・・・・・・
わたしって、先輩から避けられてるのかな」
おおよその事情がわかったところで、私はタロットカードの前で手のひらを向けた。
呼吸を安定させて、カードを手に取り、扇型にカードを並べる。タロットカードの世界でいうスプレッドである。
儀式にも近い。
ありとあらゆる世界とを結びつけるための場を作る意味を持っている。
そして
阿部マリアの占いが始まった。
師匠はいう。
神と人と運命の三つの一体こそが、本来あるべき無為自然(むいしぜん)な流れを作るのだと。
占い師に決定権はない。
占うことで見えてくる「今」と、そして「未来」を知ることで、依頼者(クライアント)が運命に対してどんな意思の決定を行うのかで、運命は変わる。運命は働く。
占いをしたからといって、運気が良くなることでもない。
今を知り、未来が見えるからこそ、選択の仕方が変わるだけ。
当たる、当たらないではない。
占い師は超能力を披露するパフォーマーではないのだから。
「ごめんね。マリア」
教室の窓からは、若干まぶしい陽の光が差し込んでいる。夕方よりも前。
グラウンドではまだ部活の生徒達が声を上げて練習している。
日差しが強いためか、心を鎮めるためか、沙雪は窓辺のカーテンを少し引きながら私にそういった。
推測はできるが、心に触れない・・・・・・
私には今回の彼女の相談内容が見えていたが、何も言わずに沙雪が話を切り出すを待った。
日差しがさえぎられるのを待ってから、私はカバンの中から占い道具を机の上に並べた。
私が使える占術(せんじゅつ)は卜占(ぼくせん)となる。
タロットカードも卜占に属している。
・・・・・・はじめるか。
小さく一呼吸おいて。
机の上でカードを広げる。
呼吸に合わせて時計回りにシャッフルしていく。
吸う息でカードと意識を結び、吐く息とともに両の手を交差させて心を止める。
祈りにも似ている。
感情を無に。
心を止め。
私は私の中にある経験や学びからくる先入観や自分を縛る規則から思考を解放させる。
今、この瞬間に、私の中で全てが一つに統一される。
心、感情、知性の三つの柱が一つに結ばれた。
シャッフルを終えると、カードを一つに束ねる。
そのまま・・・・・・目を閉じて、私は静かにカードの前で十字架を切った。
自分の考えと、他者の考えの両方を重ね合わせ、中立の立場であるという意思の表明である。
・・・・・・心がクリアになった・・・・
「どうぞ。準備が整いました」
占いを行う前の儀式のようなものである。
私は目の前にいるクライアント(依頼者)に優しく声をかけた。
今、私の目の前にいる人は、クラスメイトの沙雪ではない。私にとって、時間と未来の運命を預けてくれる大切なクライアント(依頼者)である。
よく知る人物を占うことは難しくないけど、感情やこれまでの付き合いを取り除いた形で、第三者の答えを出さなければならない点は気をつけなければならない。
「本日はどんな事を聞きたいですか?」
リードする私の言葉に、沙雪はゆっくりと口を開いた。
「わたしって、やっぱりダメなのかな・・・・・・」
・・・・・・ダメ?
「何だかね。最近、うまくいかなくて・・・
狭山先輩のこと・・・・・・見えなくてさ」
「狭山・・・先輩?」
「あ、ごめん。さっき、廊下ですれ違った人いるでしょ。あの人のこと」
教室で沙雪を待っていたときに、どこかに急いで通り過ぎていった生徒のことを思い出していた。
沙雪は話を始めた。
狭山先輩とは聖誕高校に通う3年生で、彼女と同じ美術部の部員である。
絵画コンクールなどでも成績を残している美術部ではちょっとした目立つ存在のようだ。
沙雪が狭山と知り合ったのは2年前となる。それまで美術に興味がなかった彼女は、狭山が手がけた作品を見て、彼の世界に引き込まれたという。
それが最近になって、狭山の作品に違和感を覚え始めた。理由は彼女にもわからないようだが、その頃から彼の沙雪に対する態度が変わった。
「どんな風に変わったのか覚える?」
私が聞くと、沙雪は少し考えてから、
「わたしのことを避けるようになったかな」
「避ける・・・?」
「美術部って、この学校ではあんまし人気がなくてね。
部員こそ多くなったけど、実際に活動しているのはほんのわずかで、作品作りのために放課後遅くまで残っている生徒もいるだけど、わたしと狭山先輩も二人きりで作品を作っていることも多かったんだ。
それが最近になってから、放課後にわたしと先輩だけになると、すぐに先輩はどこかに行ってしまうようになって・・・・・・
わたしって、先輩から避けられてるのかな」
おおよその事情がわかったところで、私はタロットカードの前で手のひらを向けた。
呼吸を安定させて、カードを手に取り、扇型にカードを並べる。タロットカードの世界でいうスプレッドである。
儀式にも近い。
ありとあらゆる世界とを結びつけるための場を作る意味を持っている。
そして
阿部マリアの占いが始まった。