第四話
文字数 886文字
「お前、よく飲んでいられるな!」
それは悲しい怒り方だった。
「……」
「国立なんて、一生無理だ!」
親父は真っ赤な顔で怒った。しかしよく見ると、酔っていない。また、少し痩せたと感じた。 そういえば、ビールを飲んでいるところを、最近は見ていない。
親父は三流私大出身なのを、一生涯コンプレックスにしている。一浪した時に、受験校を私大医学部に変更する話をした時がある。急に汚いものを見るような眼つきになり、
「金がない。慶応大学の医学部以外は無理だ」
と叱られた。
国立大学の医学部にトライすることは、我が家の聖戦だった。俺は小学校三年生の時から、中学受験専門の塾に通っている。スイミングと習字をしていたが、その時にやめた。ゲームは没収され、バラエティー番組は禁止になる。
高卒の母は受験に命がけだった。婚約の時には、祖父に馬鹿にされている。学歴コンプレックスは本当に強かった。ここで失敗すれば、母方の遺伝子が原因になる。成績が低迷すると、先月までにつぎ込んだ金額を、告げられた。
「あんたの為に、これだけ使っているのよ!」
莫大な資金注入のお蔭で、中学受験は成功した。そして入学後、初めての期末テストで赤点を取ると、直ぐに塾通いが始まった。また、テストでいい点を取った時は、祖母がなんでもプレゼントをしてくれていた。
市立病院の事務職員だった祖父は、何よりも学歴に執着している。祖父は中卒だった。職場でそれを馬鹿にされながらも、必死に頑張ったらしい。そこでは、看護婦であった祖母と職場結婚していた。祖母が寿退社した後には、部長になっている。
また、二人とも、医者を大変尊敬していた。しかし、医者の誤診で祖父の前立腺癌の発見が遅れ、俺の高校入学直後に死ぬ。祖母は元職場の病院を訴えようとした。高二の冬に、大学受験の準備をしていた時期に、
「医者の人生なんて、面白くないよ。自分に合う仕事をしなさい」
と話してくれた。