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文字数 14,696文字

 英司達を乗せた74式戦車は、国道122号をひたすら川口方面に向かって全速力で突っ走ると、川口ジャンクションの二キロ手前でエンジンが遂に根を上げてしまい、それきり動かなくなってしまった。燃料はバスケットに積んであったジェリ缶が一つだけ残っていたが、田所が何度もエンジンを掛けなおそうとしても、エンジンは目を覚まさなかった。
「動きませんか?」
 政彦が操縦席の田所に聞いた。
「もう完璧に動かなくなった。悪いけれど、ここまでだ」
 田所は捨て台詞のように呟くと、そのままハッチから身を乗り出して、戦車から降りて、歩道橋脇の空き地に安置された小島の遺体の方へと歩いていった。政彦も沈んだ足取りで彼の後を追う。小島の遺体は戦車に積んであったシートに包まれて、胸の上には彼が被っていた戦車帽が置かれていた。
「中隊長は軍隊用語で言う〝良い奴〟だった。初めて会ったとき、過去の事で近寄りがたいイメージがあったけれど、一緒に仕事をするようになってそのイメージは薄れて行ったよ。部下思いの本当に良い人だった」
 豊田は遠い目で、小島の遺体を見つめながら彼の生前のことを述べたが、その目に涙は無かった。
「そうだったんですか」
 綾美は英司のジャケットの袖を掴みながら、小島の遺体を見つめながら頷いた。綾美にとって、小島は会釈すら交わしたことの無い人間だったが、隣に居る英司のぴんと張り詰めた表情を盗み見て、どんな人間だったかは想像が出来た。
「最後に何か言っていなかったか?お前に何か話し掛けていたようだが」
「〝人は自分で自分を変えられる〟って言っていました」
 豊田の質問に英司が答えると、豊田は「そうか」と呟いて、話題をこう切り替えた。
「お前らはこれからどうするんだ?東京までまだ距離があるぞ」
「この距離なら、持って来た無線機の電波が届く筈です。そこで応援を呼んで、東京に向かいます」
 豊田の質問に、今度は房人が答えた。彼もまた小島を失った事に大きな衝撃を受けていたが、涙は目に浮かんでこなかった。
「俺達は中隊長の遺体をここに仮埋葬したあと、あの戦車を処分する。積んである小銃の弾薬は全部持っていってくれ。俺達は拳銃で十分だ」
「ありがとうございます。大事な弾薬まで頂いて……」
 房人が落ち着き払った言葉で返すと、豊田はその態度に恐縮したのか、おどけるようにしてこう答えた。
「いいさ、別に。俺らは戦車兵で鉄砲持って戦うのは得意じゃないからな。幸運を祈るよ」
 その後彼らは空き地の隅に小さな穴を掘って、シートに包まれた小島の遺体を埋葬すると、近くにあった板切れを墓標にして、その上に彼の被っていた戦車帽と認識票を置き、その前に申し訳程度の雑草の花を摘んで来て置いた。その花が置かれた瞬間、彼らは再びここに戻ってくる事を胸に誓った。
 埋葬が終わると、残った戦車搭乗員達は車内から小銃と機関銃の弾薬を全て運びだした後、ジェリ缶に残っていた燃料の軽油を車内に撒いて火を付けた。ハッチや主砲から真っ黒な黒煙が炎と共に上がると、やがて搭載された砲弾に炎が引火して大きな爆発を起こした。彼らがその様子を少し離れた所でぼんやりと眺めていると、田所が英司達に向かってこう口を開いた。
「ここで君らとはお別れだな。何もしてやれなかったが、幸運を祈るよ」
「田所さん達こそどうかご無事で。もし生き延びられたら、また会いましょう」
 英司の言葉に、田所は少し笑顔になってこう答えた。
「ああ、そうだな。必ず会おう」
 その言葉を最後にして、英司たちを助けてくれた戦車兵達は南西の方に向かって駆けて行き、それきり見えなくなった。英司は去って行く彼らを見送った後、虚しさにも似た透明な気分を味わいながら、これから進む南の方角に目を移した。東の太陽に照らし出された遠くに見える川口ジャンクションが、コンクリートで作られた巨大な芸術品のようにして淡いオレンジ色に輝いている。そしてその向こうには様々な建物が立ち並ぶ都市が広がっていると思うと、この旅路の終わりももうすぐだなと英司は思った。
「英司」
 そんな事をぼんやりと考えていると、不意に綾美が声を掛けた。
「なんだい?」
「肩の具合はどう?確か止血しただけだったでしょ、一応消毒しておいた方が」
「ああ、そうだね。お願いするよ」
 英司は鷹揚に答えると、ジャケットを脱いで左肩を露わにして綾美が巻いてくれたボタンシャツの裾を取った。ロケット弾の破片で切れた傷は出血こそ止まっていたもの、後で縫合が必要だろう。綾美がその傷口に消毒液を垂らすと、左肩全体がピリピリと痛んだが、冷たい朝の風が吹いてきてその痛みを和らげてくれた。そして傷の上にガーゼを当てると、新しい包帯で肩を巻いてくれた。
「助けてくれてありがとう、こんな私の為に……」
「いいよ。そんなこと、その話はもうこれっきりにしよう」
「そうだね」
 英司の提案に、綾美は静かに頷いた。
「さて、いよいよここまで来たか」
 英司と同じように川口ジャンクションを眺めていた房人がポツリと呟いた。
「怖いのか?」
 政彦が尋ねた。
「そうじゃない、何だかあっという間っていう感じがしてさ」
「確かに、お前らと会ってまだ一週間も経っていないもんな」
 政彦が鼻で笑いながら返すと、すぐ脇で美鈴が寺田から渡された無線機と暗号書を取り出して、通信を開いた。美鈴は手に持った暗号書にしたがって通信を続けると、無線機の向こうから男の声でこんな質問が飛んできた。
「貴隊の位置は何処か?位置を知らせよ」
「川口ジャンクションからおよそ二キロ手前。国道122号の近くです」
「了解、すぐに支援の部隊を送る。貴隊の幸運を祈る」
「了解。交信終わり」 
美鈴はそこで通信を終えて無線機と暗号書を仕舞うと、ぼんやりと突っ立ていた房人に向かってこう言った。
「通信終わり、自衛隊がこっちに来るってさ」
「OK、でものんびりしている暇は無いぞ。敵が増援をよこしてこっちに向かっているだろうからな」
「ここまで来たのだから、この際要らない物は全部捨てよう。それに田所さん達から貰った弾薬の配分も」
 房人の言葉に英司が続けた。
「よし、なら善は急げで、今のうちにやっちまおう」
 政彦が提案すると、彼らはすぐにバックパックから呼びの弾薬を取り出してポケットやマガジンポーチに押し込み、その後田所達から貰った弾薬を配った。まず房人、美鈴、政彦の三人には三十発入りの弾倉を三本、二十発入の弾倉は二本を割り当てる事にした。これから敵の大部隊と交戦する事を考慮すれば、殆ど弾が無いのと同然だったが、多少の気休めにはなった。英司には9mm機関拳銃の二十五発入りの弾倉四本全てと、機関銃用の7・62mm弾を四十発貰った。
 弾薬の配分が終わると、房人はポケットから潰れたハイライトイナズマメンソールの箱を取り出して中を見たが、生憎一本しか残っていなかった。最後の一本だけは任務が全部終わった後にカッコ良く吸おうと思っていたのだが、今あるのが最後の一本になってしまった。
「煙草一本しか残ってねえや。美鈴、そっちは?」
「あたしも一本。最後に吸おうと思っていたのに」
 美鈴がピアニッシモの箱を振りながら同様に呟く。
「政彦はどう?あんたも喫煙者でしょ」
 美鈴が尋ねると、政彦はズボンの前ポケットからくしゃくしゃになったキャビンの箱を取り出して中を覗いた。
「二本あるけれどそのうち一本は濡れて駄目になっている。俺も吸えるのは一本だけだ」
 政彦のその抜けたような答えに、房人は落胆の溜息を小さく漏らして、こめかみに手を当てて笑うようにこう続けた。
「やれやれ、『インディペンデンス・デイ』のラストでジェフ・ゴールドブラムとウィル・スミスが宇宙船の中で葉巻を吸うシーンがあるけれど、まさかそのシーンをここで再現するとは思わんなだ……」
「何よ、あのシーン嫌いなの?」
 美鈴が不服そうに尋ねる。
「そうじゃない。なんだか、ここで吸ったらそれっきり見たいな感じがしてさ・・・」
「なら、全部終わったときに吸えばいいじゃねえか。今あるのはお守りにしてさ」
「そうだね、そうしようか」
 政彦の提案に、美鈴が賛成した。房人は名残惜しそうにハイライトイナズマメンソールの箱をズボンのポケットに仕舞いながら「そうだな」と漏らした。そしてバックパックからデータの入ったCDを二枚取り出すと、一つを自分の戦闘服の胸ポケットに入れて、もう一つを英司に手渡した。
「これはお前が持て」
「何で?」
 英司が尋ねると、房人は一瞬申し訳無さそうな顔をした後、答えた。
「ここから先は二組に分かれて行動だ。その方が敵を分散させる事ができるし、どっちか片方が生き残ればCDは届けられる。二人もそれでいいだろ?」
 房人が振り向いて美鈴と政彦に同意を求めると、二人はやれやれといった具合に頷いた。
「そんな、俺は皆と……」
「気持ちはありがたい。でも、万が一って事を考えてくれ。俺だってこんな所で死ぬつもりは無いけれどさ……」
 英司が複雑な表情のまま黙っていると、見かねた政彦が二人の元にやって来てこう言った。
「俺達を本当の仲間だと思っているなら、こいつの言葉を信じてくれ。不安で心細いかも知れないけれど、頼むよ」
 政彦の言葉に、英司は固い表情のままこう答えた。
「一つ約束してくれないか?」
「何だよ」
 房人が余裕そうに答えると、英司は思いつめたような顔をしてこう言った。
「戻ったら、なんか……」
 英司はそこまで言いかけると、さらし者になったみたいに固くなって言葉が出なくなった。どうしても言いたいこと――いや、本当は言いたいことなんて無いのかもしれない。どうしてこんな事を口走ったのか、自分にもよく分からない。ただ、ここで何か言っておかないと、もう二度と会話で出来ないような物凄い孤独感に襲われたから、意味の無い事を後先考えずに口走ってしまったのだ。
「今言えないなら、後で聞こうか?」
 口籠った英司に対して、政彦が助け舟を出すようにして優しく声をかけた。
「そうだな。そうする」
 英司は顔を少し赤らめながら、下を向いて呟いた。そんな英司に、房人と政彦は少し不安だなと思いつつも、二人で彼の肩を持った後、軽く手前に引き寄せてこう囁いた。
「俺らからも約束して欲しいことがあるんだが、いいか?」
「何だよ?」
 英司が意外そうに聞き返すと、房人は彼らの様子を不安げに眺めていた綾美に一瞥をくれて、彼の耳元でこう囁いた。
「綾美の事をしっかり守ってやれよ。それが出来るのは、世界でお前一人だけだ」
「俺からも頼むぜ。ここまで彼女のために命を張れてきたんだから、それぐらい出来るよな?」
 二人がそれぞれに呟くと、英司は何だか不思議と温かい何かに包まれたような気分になって、胸の奥がくすぐったくなるような感覚を覚えた。
「ああ、分かった」
 英司が落ちついた様子で二人の目を交互に見ながら答えると、二人は満足そうな笑みを顔に浮かべた。もう一人じゃない。例え離れていても自分を信頼してくれる仲間がいる。英司は二人の表情を見ながらそう思った。
「頼んだぞ。約束だ」
 政彦が最後に言うと、房人がこう続けた。
「俺達はここに罠を仕掛けてから逃げる。お前は綾美と一緒に先に行け」
「ああ、分かった」
 房人の言葉に英司は力強く答えると、三人は拳骨を互いにぶつけ合ってそれぞれの健闘を祈った。するとその様子をぼんやり眺めていた綾美が彼らの元にやってきて、英司が彼女の方を向いてこう話した。
「これから三人とは別行動だ。俺達はこれから東京に向かって進む。いいね?」
「ええ、分かったわ」
 綾美はぴんと張り詰めたような声で答えた。
「二人も気をつけてね。また会えると信じてる」
綾美が房人と政彦に向かって小さく別れの言葉を呟くと、美鈴が何処からとも無くひょっこりと顔を出して、綾美に向かって脹れたような顔でこう漏らした。
「ちょっと、それじゃもう会えないみたいな台詞じゃん。こいつら二人はあたしが面倒みるから、心配しなくていいよ」
「お前こそ、俺らの足を引っ張るなよ」
「大丈夫だって」
 政彦の言葉に美鈴は笑顔で答えると、綾美の目を見つめてこう続けた。
「ここから先どんな事が起こるか分からないけど、英司の事を信じていれば大丈夫だからね。もちろん、英司が困ったら助けてあげないと駄目だよ」
「もちろん、当然よ」
 その二人の会話を聞いていると、英司は何だか恥ずかしくなった。
「それじゃ、また地獄で会おうぜ!」
 房人がサムズアップを決めると、英司もサムズアップを静かに決めて、綾美と共に川口ジャンクションの方角へと消えていった。



 お台場の東京国際ターミナル目の前にある、広大な駐車場に建てられたプレハブ作りの防衛省職員宿舎で目を覚ました岡谷一俊は、突然現れた使いの海自隊員に停泊しているひゅうがのFICに来るように言われた。彼はすぐさま迷彩柄の作業服に袖を通して、朝の澄み切った空気を存分に味わいながらひゅうがのタラップを駆け上がってFICに入ると、FICには何時に無く人が集まって騒然としており、何かが起こったのは容易に理解できた。岡谷は盟友の魚崎啓太郎を見つけて手招きすると、何があったのか尋ねた。
「なんの騒ぎだ?敵の大攻勢か」
「何日か前に寺田の村から情報を持った部隊が出発したという話をしたろ、その部隊からさっき連絡があった」
 魚崎の言葉を聞いて、岡谷は頭の眠気が一気に吹き飛んだ。
「本当か!?場所は何処だ」
「埼玉県の川口ジャンクション付近。蓮田市付近をパトロールしていた戦車に助けられたそうだ。助けた戦車はもう動かなくなったらしいが」
「それで?」
「こっちに向かってくるって、ついでに言うと今朝から関東一体の敵部隊の無線通信が急に激しくなった。どうやら、彼らとんでもない連中を連れてきたみたいだぞ」
 岡谷は魚崎の言葉を背中で聞きながら、近くにあったテーブルのパソコンを使って東京と埼玉一帯の地図を出し、埼玉県川口市と東京都北区の辺りをズームした。
「敵は今どの辺りだ?」
 岡谷がパソコンの画面を覗きながら呟く。
「自動車化されて尚且つ即応状態の敵部隊はそれ程多くないと思うけれどね、関東一帯に展開している敵部隊の戦力は軽く見積もっても軽装備の歩兵旅団、三千人くらいの規模じゃないかな?対戦車ミサイルと重迫撃砲も装備している」
 魚崎が答えた。
「そこまでの装備と規模となると、立派な反政府軍だな」
「けど参ったな、今の自衛隊には大敵だよ。中央即応集団の戦力は戦争前の六割だし、隊員を運ぶ装甲車もヘリも不足してるよ」
「第一師団をフル動員すればいい。それでも足りない戦力は他所から集められるだけかき集めよう。国民保護法を適用し警視庁と埼玉県警にも連絡しろ。必要なら海自と空自にも回してヘリと航空機の支援も要請しよう」
「確かにそうだけど、俺達にそこまでの権限は与えられていないよ?」
「そんなの上の連中に無線で叫んでやればいいだけのことだ。旧軍みたいに自分の面子のために部下の言う事を聞かないなんて事はしないだろう」
 岡谷はそう吐き捨てると、そのまま大股でFICを飛び出した。
「どこへ行くんだよ?」
「俺達も彼らのところに向かうんだよ。彼らを他人に任せっきりに出来るか」
 魚崎の言葉に、岡谷は肩で風を切りながら答えた。そしてそのまま通路を抜けて科員食堂に入ると、呑気に朝食を取っていた中田翔太を見つけこう怒鳴った。
「ナカダ!呑気に飯食っている場合じゃないぞ」
 岡谷の言葉に驚いた中田は掻きこんだ白飯を喉に詰まらせると、胸を叩きながら近くにあった緑茶で詰まった飯を流し込んで苦しそうに息を吐いて岡谷の方を振り向いた。
「いきなり叫ぶのは止めてくださいよ、マジで死ぬかと思ったじゃないですか!」
「そんなのはどうでもいい、これから忙しくなるぞ」
 岡谷は状況が全く飲み込めていない中田を無理矢理連れて、武器庫へと向かった。通緒路を行き交う幹部自衛官の数は次第に多くなり、中には陸自や海自だけでなく空自の制服を着た者までFICに出入りして、なにやら話しこんでいる様子だった。そんなところで議論しても事態は進展しないぞと岡谷は胸の中で呟きながら武器庫にたどり着くと、電子ロックを開けて中からHK416A7とM3フラッシュライトを取り付けたH&K・SFP9Mを取り出し、一緒に武器庫の中に放り込んでいた衛星携帯を取り出して、中央即応集団司令官の梨本剛馬陸将を呼び出した。
「梨本陸将、聞こえますか?」
「岡谷か、いきなりなんだ、衛星携帯なんか使いやがって」
 電話の向こうの梨本は落ち着いた様子だったが、岡谷はやや興奮気味にこう続けた。
「敵の情報を持った部隊がこっちに向かっています。それを追撃して、敵の大部隊が埼玉と東京の間に集結しつつあるのはご存知ですよね?」
「ああ、そっちから情報を貰って隷下の部隊に待機命令を出してある。だが上からの出動命令がないと動けん」
「米軍の動きは?」
「今の所は特に、支援が必要だと要請してはいるが、動いてくれるかな?そっちの方はどうだ、出動命令は出そうか?」
「今更になって偉いさんがあたふたしていますよ、敵戦力が集結する前に出動できないと」
「それはこっちも同じだ。どの部隊も燃料不足で動けん。そこ等じゅうの燃料をかき集めても一個旅団が動ける程度しか」
「すぐに出動できる部隊だけで結構です。敵の殲滅よりも、情報を持った部隊の保護を急ぎましょう」
「そうだな、俺はこれから統幕長と防衛大臣に直訴して出動命令を仰ぐ。上手く行けば治安出動に基づいて出動命令が出るだろう。お前は自分の任務を遂行しろ。以上」
 梨本は落ち着いた声で言うと、そのまま電話を切った。岡谷は衛星携帯を切りながら自分が取り乱していた事を反省すると、一旦銃をその場に置き、中田を連れてFICに戻った。
 FICでは案の定多くの隊員達が集まり、それぞれが集まって何やら意見を交わしている最中だった。中央の大型モニターには岡谷がパソコンの画面で映し出下のと同じ画面が表示され、敵の予想侵攻ルートが赤い矢印で示されていた。この調子ならこのゴタゴタも後数分で片付くだろう。
「どうだ、出動命令の方は出そうかい?」
 岡谷は近くに居た一等陸尉に尋ねた。
「もう状況は官邸のほうに伝えました。後は返事を待つばかりです。しかし、陸上戦闘となると、隊員を運ぶヘリが不足していますよ?」
「ヘリは必要なら12旅団のヘリを回してもらえばいいさ、それと海自の連中にここのヘリを借りるぞと伝えてくれ」
 岡谷はそう言い捨てると、再び中田を連れて士官室に向かって市街戦用の戦闘服を取りに向かった。
 士官室のロッカーから、難燃素材を用いた黒色の市街戦用戦闘服三着とプロテクター、それに88式鉄帽とゴーグルを中田に持たせると、そのまま武器庫へと向かった。
「ボス、もうちょっと待って下さいよ」
「うるせえ、俺に逆らえる身分かお前は」
 岡谷はぼやく中田を叱り付けながら武器庫に戻ると、中では魚崎が携帯用無線機を取り出している所だった。
「お帰り、無線機は全部OKだよ」
「よし、すぐに戦闘服に着替えてくれ。あと二十分で出発しよう」
「ボス、乗り込むにしても上の命令が必要ですよ」
 中田が岡谷に向かって尋ねると、岡谷は彼に向かってこう返した。
「そんなのは後で出る!だから言われたらすぐに出動できるようにしておくんだよ」
 中田は渋々承服したように頷くと、それから無駄口を叩く事はしないことにした。そして彼ら三人が迷彩柄の作業服から黒色の市街地用戦闘服に着替えて、装備を身に付けて居ると、さっきの一尉が彼らの元に息を切らしてやって来た。
「正式に出動の命令が出ました。埼玉県と東京都全域に治安出動が発令されました。空挺団と第一ヘリコプター団が出動したとのことです」
「大宮の中央即応連隊は?」
 魚崎が質問する。
「中即連は道路が使えない区間が何箇所かあるので、そこを迂回しての展開になります。また燃料不足のため展開できる戦力は七割程度です」
「定数不足に燃料不足か、空自からの支援は受けられそうか?」
 岡谷がレッグホルスターにグロック41を入れながら聞く。
「航空救難団の保有するヘリを支援に回すと連絡して来ました。戦闘機の支援が得られるかどうかは不明です」
「すぐに要請しろ。三沢だろうが築城だろうが呼べるところはすぐに呼べ!」
 岡谷が命令すると、一尉は敬礼してその場を去った。
 彼らが準備を整えて飛行甲板に上がると、搭載されているSH‐60Kシーホーク哨戒ヘリコプターが畳んでいたローターを広げて、飛行前の最終確認をしている所だった。
「魚崎三佐、戦闘にはブランクが」
 ヘリに向かう途中、無線機を背負った中田が魚崎に尋ねると、魚崎は中田のほうを向いて朗らかにこう言った。
「大丈夫、こう見えても富士学校の幹部レンジャー過程は修了してるし、実戦経験もある。戦場の匂いを嗅げば、感覚を取り戻せるよ」
 魚崎が担いだMINIMIのハンドガードを叩くと、岡谷がこう口を開いた。
「中田、魚崎の心配よりも自分の心配をしたらどうなんだ」
「分かっています。ようやくまともに俺の苗字を読んでくれましたね」
「うるせえ、オメーの愚痴を聞くのが嫌になったからだ」
 三人がシーホークの機内に乗り込むと、さっきの一尉が再び彼らの元にやって来た。ヘリのエンジンは起動し始め、タービンエンジンの高周波音とローターの風を切る音が周囲に響いていた。一尉は喉の奥から搾り出すような大声で岡谷にこう言った。
「敵の情報が入ってきました。規模はおよそ二千七百人。対戦車ミサイルに対空ミサイル、重迫撃砲まで装備しています。現在国道298号付近に展開中との事です」
「了解した。空自に支援戦闘機が出撃できるか確認してくれ、航空支援があればこっちが有利だ。それと中央即応連隊は敵側面に展開するように伝えろ。俺達は空から例の情報を持った部隊を探す」
「了解しました。前線航空管制は陸自のOH‐1がやってくれるそうです」
「了解だ!また何か情報が入ったら無線で伝えてくれ」
 岡谷がそう叫ぶと、一尉は頭を下げながらシーホークを離れた。岡谷はそれを確認すると、ひゅうが発着艦指揮所から発艦許可が降りて、ヘリはひゅうがから英司たちの居る方角に向かっていって飛んでいった。


 国道122号を東京方面に向かって進む軽装甲機動車の車内で、竹森はこの地区を担当する司令官から、川口から草加方面に展開する部隊の指揮を担当するように命令された。何でも、この先で増援に来た味方と合流して、指揮下に入れろとの事だった。きっと自分達を敵の部隊と対峙するときの、予備兵力に当てる腹積もりなのだろう。
 竹森は同乗する無線兵に無線の周波数を防災無線のチャンネルに合わせるように指示した。防災無線は思ったとおり彼らが埼玉県南部に展開した事を伝えており、敵を排除するために自衛隊が出動している事も伝えていた。付近に住んでいる住民は可能ならすぐにでも安全な所に避難するように指示していたが、戦闘が始まれば逃げる所なんて無いだろうし、自衛隊は民間人への誤射を防ぐ為に制約の多い戦いを強いられるだろう。だがこっちは国際法の適用外だ。民間人の被害なんてお構い無しで攻撃できる、と竹森は思った。政権奪還後の民心獲得には手こずりそうな事案だが、そんな時は反対派の住民をチベットやウィグルよろしく皆殺しにすれば良いだけの話だ。
 川口ジャンクションのすぐ手前まで来ると、空き地に遺棄された敵の74式戦車を見つけた。どうやらここまでは戦車で来たらしい。竹森は後に続く車列を停止させると、無線機を取り出して後続の装甲車への回線を開いた。
「どうやら敵はここで徒歩に変えたようだ」
「自衛隊を呼んだのは奴らの仕業ですかね?」
 後方の96式装輪装甲車に搭乗した宇野が答える。
「間違いないだろうな。我々はこのまま草加方面に展開し追撃に当たる。前進!」
 竹森がそう叫んで車列を進めると、川口ジャンクションに入る手前で武装勢力兵を乗せた73式中型トラックとクロコダイルⅡA装甲車に出会った。竹森は軽装甲機動車の窓を開けると、彼らに向かってこう叫んだ。
「何処の部隊だ?」
 すると、先頭の73式中型トラックの助手席から指揮官らしい男が頭を出して、竹森にこう返した。
「貴方達に合流して指揮下に入るように言われました。自分がこの部隊の指揮官であります」
「連絡にあったのは君らか、これから俺達は草加方面に展開する。いいな?」
「はい、うちの装甲車が先頭に立ちます」
 その後竹森は軽装甲機動車を降りて松井のクロコダイルⅡA装甲車に乗り換えた。車列は合流してきた方のクロコダイルⅡA装甲車を先頭に立てて、国道122号から川口市内を草加方面に進むと、兵員を下ろして歩くスピードで前進した。周囲には建物が幾つも並び、つい数日前まで彼らが居た森の匂いは完全に消え失せて、文明人の活動に最適化されたほんの僅かな緑があるだけの世界が彼らの周りを取り囲んでいる。こういった死角の多い市街地で一番恐ろしいのは、道端に設置された即席反応爆発物と、建物の影からロケット弾を打ち込んでくる敵だ。出来るならどこか高い建物の上に狙撃手を配置して、味方部隊の周囲に敵が潜んでいないか監視させたかったが、この辺りにそんな高い建物は無かった。
「どこかに潜んで、敵の動きを監視しましょうか?」
 兵員室の中から、ハッチを開けて外の様子を伺っている竹森に海下が聞いた。
「見晴らしの良い建物はこの辺りに無い。離れて狩りに出掛けるか?」
 竹森が兵員室を覗き込むと薄明かりに照らし出された海下の顔が静かに頷くのが見えた。表情は薄暗いせいでよく見えないが、きっと何かを必死に求めている時の顔だろう。そして今の海下を動かしているのは、きっと恋にも似た透明な感情の筈だ。
「いいだろう。監視の任務は他の者にさせる。お前は好きにしていいぞ」
「了解」
 海下はそう静かに答えると、そのまま装甲車後部の兵員ハッチから飛び降りて、そのまま町の中に消えていった。あと一時間もしない内に、この辺りは銃声と爆発音が鳴り響き、憎しみと狂気が入り混じる戦場になる。その時人々は迫り来る恐怖に震えながら、何も出来ずに運命に身を任せる事しか出来ない。竹森は何も出来ないそんな自分が嫌で銃を手に持ったが、気付かないうちにとんでもない所へ来てしまった。
 世界を破壊した戦争が始まる前、彼は丁度高校一年の楽しい次期を謳歌している最中だった。その時には燃える様な愛国心など微塵も無かったし、祖国の未来を憂いる事も無く、日本に住む自分の未来は明るく幸福である思っていた。しかし洗脳のように流れる経済危機のニュースに不安を覚え、やがて戦争が始まり刻々と変わる戦況が連日ニュースの一面を飾ると、ネットの掲示板で自国防衛のための憲法改正や核武装容認論の他、無能な政府に対する批判や各地の国粋主義運動などを目にするうちに、彼は自分が政治的に空白であった事を恥じるようになり、やがて保守派の論客が書いた政治関連の書籍に目を通すようになった。そうした情報の中から自分で考えた事を高校の同級生であり、学年で一番の変わり者である神無英斗に話すと、彼は妙に冷めた口調でこう語った。
「確かに政治的に空白で、何も考えずに流されるのは愚かだ。自分が死んだ後により良い世界を残せないなんて生きている意味が無いからな、けれど、だからと言って全体主義とか、第二次大戦前の偏狭なナショナリズムに煽られた状態になってはいけないと思う。マスコミや政治家が信用できないのは事実だけれど、それを英雄気取りでやっつけろとは俺は思わない。健全な国には権力に対してきっちり物を言うメディアが必要だと思うし、それに反論できるくらい政治家も賢くないといけない。勿論、それがちゃんと理解できるような国民が必要なんだと思う。そのための教育や、社会保障の制度なんかもね」
「だったら、何でお前は自分の考えを主張しないんだ?」
 彼が質問すると、英斗は眉一つ動かずにこう答えた。
「だって、今の俺は腐るほど居る唯の高校生だからさ。どんなに正論を声高に述べても、所詮高校生の浅知恵で終わるのがオチだよ。それに俺は、所謂〝強盛大国〟が理想だとは思わない。大国に生まれる事が人間の幸福とは限らないからさ」
 そのアナキストめいた英斗の言葉は、小さなナショナリズムが芽を出した彼にとってあまり良い返答ではなかったが、ここで大切な親友を失うわけにも行かず、黙っておく事にした。しかし振り返ってみれば、あの時の会話がその後の二人を決めたのかもしれない。
 それから暫くしたあくる日、沖縄本島の米軍基地が中国軍の攻撃を受けたという緊急速報が入ると、各地で武器を持った、極端な思想を持つ市民が蜂起して、日本国内は騒然となった。そしてその日の夜に彼の住む街に大勢の暴徒が集まり、ほぼ内戦状態と言っても差し支えない状態になった。そして暴徒達から逃げる時に彼の両親は殺され、たった一人の妹とも逸れてしまった。その後妹とは何とか再会できたが、一晩中暴徒の男達に犯された妹はその後のショックから立ち直る事が出来ず、逃げる途中で自殺してしまった。
 その後、逃げ延びた彼は英斗ら仲間達と共に民兵組織に入ると、仲間と一緒に各地の戦場を転々とし、誰よりも多くの人間を殺した。例え命乞いをしようが、女兵士だからというのは、彼にとって理由にはならなかった。そして戦争が終わり、彼は新しい国を創り上げる組織に、「先の戦争を、最も勇敢に戦った真の愛国者」として迎え入れられた時、彼は自分が過去の自分に二度と戻れないことを実感した。どんなに心の底から願っても、創り上げてきた罪の山を切り崩しても、もう親友達と笑顔で語り合う事が出来たときの自分に戻る事は出来ない。それに一番の親友だったはずの神無英斗は、彼自身の手で殺してしまった。
 逃げた英司もあの綾美と言う小娘に出会わなかったら、何年か後には今の自分のようになっていただろう。そう思うと、竹森は自分が酷く愚かで下らないような存在に思えてきた。
 竹森はそんな自分を鼻で笑って、それから何も考えないようにした。

 国道122号沿いのガソリンスタンドに隣接する中古車店の二階に潜んでいる房人達は、自分達を追ってきた車列が草加方面に向かうのを政彦が双眼鏡で見つけると、房人は地図を使って敵の侵攻ルートを確認して、美鈴の持っていた個人用無線機を使って同じ草加方面に向かった英司達に注意を促した。
「数は兵隊が五十人と車両六台だ。注意しろ」
「了解、恩に着る」
 無線の向こうで英司が答えると、房人は無線を切った。特に怯えた様子は無かったが、これからあれだけの数の敵から逃げないといけない事を考えると、英司と綾美の事が心配になった。
「何か言っていた?」
「〝恩に着る〟だって」
 美鈴が心配そうに尋ねると、房人は素っ気無く答えて、隣で双眼鏡を覗き込んでいる政彦に叫んだ。
「何か見えるか?」
「敵部隊多数視認、かなり居るぞ」
 政彦が双眼鏡を覗き着ながら答えると、房人に双眼鏡を渡した。
「こっちに向かってくる」
政彦がそう呟いて敵の方向を指差した。双眼鏡を通して房人の目に飛び込んできた光景は、多くの兵隊を乗せたトラックの群れと、それを援護する装甲車だった。さらに視線を車列の前後にずらすと、120mm迫撃砲を引いた車に、対戦車ミサイルや無反動砲を搭載した車両まで確認できた。
「結構な数だ。一個大隊はいるぞ」
「どうする?私らじゃ相手に出来ないよ」
 美鈴が呟くと、房人は双眼鏡を仕舞いながらどうやって敵を引き付けられるか考えた。こっちは三人しか居ないから真正面切って戦うわけに行かないが、ここは市街地で身を隠せる場所も多い。こちらから何か仕掛ければ敵の注意を向けさせられる事ができるかもしれない。大部隊というのは針の一刺しのような攻撃にも、神の鉄槌ように反撃してくるから、それを上手く使って敵を振り回せば、自衛隊が攻撃する隙を与える事ができる。だが問題は、どうやって敵の注意をこちらに引き付けるかだ。
「政彦、下に何か使えそうなものは無かったか?」
「使えそうなものっていったら、置きっぱなしなったエンジンオイルくらいだぞ?」
「それでいい。美鈴、ナパーム弾の作り方は覚えているよな?」
「覚えているよ、近くのガソリンスタンドに灯油かガソリンが残っていないか見てくる」
 美鈴がそう答えると、房人と一緒に軽やかな足取りで下に降りていった。房人は肩から提げていた雑嚢からデモリッションアッセンブリー一式が揃っていることを確認すると、遅れて着いて来た政彦がこう聞いた。
「何をするんだ?」
「派手な花火を上げるんだよ。ドカーンと」
 房人はにやりと笑うと、持っていたデモリッションアッセンブリーとレザーマンのEODナイフを取り出して作業の用意を始めた。爆薬の爆破方式は、ありがたい事に電気タイマーで爆破するタイプだった。
 房人が爆破用のC4爆薬に信管と起爆装置をセットしていると、隣のガソリンスタンドから美鈴がポリタンクを持って走ってきた。
「残っていた油はこれだけ、後は何にも残ってなかったわ」
「それだけか!?それじゃナパームは作れないぞ」
 房人が絶望したような叫び声を上げたが、美鈴は彼の手元をちらりと見た。
「爆薬の方はセットしたの?ならそいつは後で使う事にして、他の作戦を考えよう」
 冷静な口調で美鈴が言うと、房人は苦い顔で爆薬を雑嚢に仕舞うと、熱くなりそうな思考を必死に冷やしながら次の一手を考えた。のんびりしている場合ではないが、どうにかして敵の注意をこちらに向けさせ戦力を分散させないといけない。一個小隊程度の戦力と対戦車火器がもう少しあれば敵の先頭部隊に待ち伏せ攻撃できるが、それも出来ない。寺田から教わった戦闘技術や部隊戦術はきちんと覚えた筈なのに、こういう時にパッと思いつく物が無い。房人は自分の実戦経験の無さを心から悔やんだ。
 そうして下手な考えを必死に巡らせていると、北の方角からディーゼルエンジンのガラガラという音が聞こえてきた。房人は「隠れろ!」と咄嗟に叫ぶと、三人は中古車店の壁に飛び込むようにして隠れた。
 しばらく息を潜めていると、道路の向こうから荷台にM60機関銃を載せた乗一台の日産・バネットトラックがこちらにやって来た。恐らくさっき見つけた部隊の斥候だろう。房人はそう確信すると、隣に居た美鈴に小声でこう囁いた。
「敵が六〇メートルまで近づいたら、撃て」
「了解、そうしたら一斉射撃ね、二人は降りた兵隊をお願い」
 美鈴は静かに頷くと、M27IARの安全装置を解除した。その後ろで、政彦が89式小銃の発射モードを三点バーストに切り替える。
 トラックはそのまま進むと、彼らから丁度七〇メートルほど手前で一時停止して、荷台に乗っていた兵士二人を下ろすと、残った一人がM60機関銃について、照準越しに敵がいないか捜索し始めた。あのM60は韓国か台湾辺りから密輸されたのだろうかと美鈴が考えていると、後ろの房人が美鈴に向かって「今だ!」と小さく叫んだ。美鈴は勢い良く壁の影から飛び出すと、そのまま素早くトラックに照準を合わせて射撃した。運転席の敵を倒すと、後ろから飛び出した房人と政彦が降りた敵兵に対して射撃を加える。弾倉の弾が半分以下になるまでの銃撃を加えて、敵に反撃の機会を与えなかった。
 勝負はほんの数秒で着いた。トラックの運転席に乗っていた敵兵は上半身に弾丸を浴びて即死、荷台に居た兵士も顔を抑え阿鼻叫喚の叫びを上げていたが、政彦が弾を三発撃ち込んで黙らせた。美鈴は足早にトラックに近づいて異常が無い事を確認すると「クリア!」と大きく叫んだ。
「了解!こっちもクリアだ」
 房人が倒した敵兵の死体を確認しながら答えると、倒した敵兵のマガジンポーチからM16の三十発弾倉を三本引き抜き、さらにその敵兵の手榴弾を取り出して、安全ピンを抜き死体の下に隠した。
「これで敵は俺達に向かってくるかな?」
 政彦が周囲を警戒しながら呟く。
「さあ、でも敵はこれで俺達の存在に気づいた筈だ。移動するぞ!」
 房人はそう叫ぶと、二人を連れて川口方面に向かった。
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