四~八

文字数 22,981文字

 四
 連隊本部に召集された日、兵舎でボンタとコースケを見かけたときは驚いたよ。学校はちがうんだが、子どものころから剣道をやっていてね。高田の錬成大会とかでしょっちゅう顔を合わせるものだから、いつの間にか仲良くなっていたんだ。それがおんなじ日に集められたもんだから「奇遇だなぁ」みたいな感じで「じゃあ、おたがいよろしく頼みます」って同期の桜になったわけだよ。
 昭和十八年、二十歳の春さ。
 おれは直江津の駅前に昔っからある時計屋の生まれだったんだが、次男坊だったから店のほうは兄貴にまかせて好きに生きようと思っていた。貿易会社に三年ほど勤めていてね。そこで英語をみっちり勉強させられていたものだから、通訳をやるんだろうって思ってたんだ。そうしたら最初はそんな経歴なんてまったく関係なしに教練、教練の毎日。とにかくきつくて死ぬ思いだったよ。ただ、メシだけはたっぷり食わせてもらった。そうでもなきゃ、あんなところいられないよ。先輩たちはうるさいやつらばっかりだったし。鉄拳制裁で憂さ晴らししてくるからたまったもんじゃなかったよ。
 とくにイヤなやつが一人いてね。元々、おれたちはそいつを知っていたんだ。練成会に師範代として顔を出していた神保って野郎さ。おれたちより六つか七つ年上だったかな。連隊ではもう軍曹になっていて、運悪くおれたちの兵舎の班長だった。元々、師範代のときから木刀で子どもたちを小突くのが趣味のチンピラみたいなやつだったんだが、ああいう組織に入ると、そういう輩ってのはますます威張り散らすようになるんだな。おれもボンタもコースケも毎日、首をすくめながら暮らしていたよ。
 だけどおれは軍隊なんてそんなに長くいるつもりはなかった。戦争だってそのうち日本が勝って終わるんだろうから、そしたらまた会社にもどって商売に精出そうって考えていた。じつはね、許嫁がいたのさ。おなじ会社の事務の女の子でね。うちの時計屋のなじみのお客さんのところの娘さんだったんだよ。おれはその子と所帯を持って、外国に行っちまおうって野心があったんだ。
 ボンタやコースケはちがった。あいつら、剣道の腕っぷしはなかなかだったけど、どっちも長男だったからあんまり将来のことは考えていなかったんだ。てゆうか、考える必要がなかったんだね。ボンタの家は自動車整備工場だったし、コースケのところは豪農だった。コースケにも許嫁がいて、除隊したらすぐに結婚する手はずだって自慢しとったよ。どっちにしろ早く家に帰ること。三人ともそれしか考えてなかった。
 だからよ、運命って言えばそれまでだけど、思いもよらないことが坂道転げ落ちるみたいに次から次へって起こってな。これが戦争なんだって思い知ったときには、もう涙も枯れ果てていたよ。
 最初にマレーに派遣されたんだが、そんときはまだよかった。基地で訓練するだけで休日には街に繰り出していって、うまいものを食い放題さ。海はきれいだし、のんびり過ごすことができた。でもよ、あとで考えたら上の連中はもうわかっていたんだと思う。これから始まる作戦は、ずっと白い疫病神に付きまとわれるような行軍になるだろうって。だからいまのうちに兵隊たちにうんと遊ばせといてやろうって。そんな親心みてえのがあったのかもしれねえな。
 昭和十九年三月のことさ。
 日本軍はマレーからビルマに侵攻して北上し、山をいくつも越えてインド東部にある英軍の要衝インパールを攻め落とす。これが大本営のおおまかな方針だった。もしそれが英軍だったらどんなふうに作戦遂行するかな? 制空権を握ったうえで、空挺旅団をいくつも連ねてまずは空から展開するだろうね。それで要所を抑えたうえで、イラワジ川を行けるところまで船で遡上してそこから陸路に踏みだすかな。いやいや、そんなの机上演習の時点で却下されるね。山越えって言うけど、口で言うのと体験するのじゃ雲泥の差だよ。二千メートル、三千メートル級の山を登るだろ。ふつうはそれで峰を進んでいけばいいじゃないか。ちがうんだよ。登ったと思ったらこんどはおなじだけ下るのさ。それを何度もくりかえす。そうしないと到着できないんだよ。おれたちが目指したところには。
 一日じゅう歩きっぱなしだよ。道路がないからトラック使えないだろ。大砲やらなにやらを運ぶのに牛を使ったのさ。いざというときの食料にもなるしよ。だいたい二百頭ぐらいいたかな。険しい山道、獣道みたいなところを牛を引っ張って上がっていくのさ。川を渡るときもきつかった。川面はジャングルみたいに木で覆われていないから、英軍機に見つかりやすい。だからきまって真夜中にやるんだ。けど、川幅が広いし、流れも速いから、そのたびに牛たちが何頭も流されちまってな。どんどん減っていくんだ。そのぶんの荷物は人間さまが担がなきゃなんねえ。それでなくても四、五十キロの背嚢担いでるんだぜ。もうくたくたよ。だから牛をなんとか生かして重いものを運ばせるか、この場で絞めて食っちまうか、どっちがいいかボンタやコースケたちとコソコソ話したもんさ。ただ、背に腹は代えられねえって最後は食っちまったんだけどな。
 そんとき、やつら、蔑むような目でおれたちのことを見ていたよ。
 国民軍の連中さ。インドの国民軍。英国に反旗を翻した連中さ。ヒンドゥー教徒にとっちゃ、牛は神聖な生きものなんだな。だからいくら空腹でもそれだけはしちゃいけねえって、子どものころから叩きこまれてるんだ。それで言うんだよ。「こんな山んなか、象じゃなきゃだめだって」たしかにそうかもしれなかった。象なんて日本人は動物園で見るぐらいだけど、あのあたりじゃ野生の象がいっぱいいて、人間が飼いならして荷物運びをさせていたんだ。それに国民軍の連中も、本当は牛がいかに強情でおつむが足りないかわかっていた。それと比べると象は凶暴な一面もあるが、知能指数がものすごく高くて賢いって言うんだ。人間みたいな感情もあるんだと。
 精神――。
 そう言ったほうがしっくりくるかな。だから神棚に祀るのは牛かもしれねえけど、人が心を交わし合う相手は象なんだって。なあるほどなって思ったよ。けど、本心で言えば、象なら牛なんかよりたくさん荷物が運べるし、みんなして背中にのったってびくともしないだろうなって。あんな高い位置からジャングルを眺めたらどんなだろう。そんなふうにも思ったもんさ。行軍がひたすら歩くだけのものなら、そんなことでも考えて気も紛れたかもしれねえ。けど、そうじゃないんだわ。戦争だから。敵が潜んでるんだよ、あっちこっちに。もしドンパチが始まったら、たとえこっちが勝って生き残ったとしても、もう体力なんてこれっぽっちも残っちゃいない。
 休憩もあるにはあったが、ほんの十分か二十分だ。うとうとってしたと思ったら「出発だ」って叩き起こされる。ちゃんと寝たおぼえがねえんだよ。それにまともに食ったこともなかった。食料は節約せよって言われてたからな。
 ボンタもコースケもあんなに屈強な剣士だったのに信じられないぐらい衰弱して、本当に足が動かなくなってへたりこんじまう。けど、遅れるわけにいかないから必死になってついていく。だって遅れるとあの神保が待っていて、猛烈なビンタを食らわしてくるんだ。あの野郎は重たいものは持っていないから体力があり余っていやがった。ストレス解消だったのさ。あんな山んなかでも、イヤなやつはずっとイヤなやつのままだった。
 そうなるともう、こっちだってやけのやんぱちだ。軍規なんてこだわっていられねえから、荷物をどんどん捨てはじめるんだ。小銃の弾を捨てたこともあるよ。だってあれ、重いんだもの。それに敵と撃ちあうって言っても何百発も撃ちやしないんだ。せいぜい二十発かそこらだ。だったら百発も一人で担いでる必要ないじゃないか。疲れ果ててふらふらしている間じゅう、ずっとそんなことばっかり考えていて、ついにあるとき、さっと捨てちまう。あのときは罪悪感とか神保に見つかったらどうしようなんてことより、得も言われぬ体の軽さに感激したな。
 だけどそれでも遅れちまうから、こんどは歩きながら小便をする。下痢を垂れ流してる連中もいた。赤痢さ。汚いとかそんなこと言ってられないんだよ。衛生観念だって狂ってくるんだし。あの年は雨季が始まるのが早くてね。ものすごい雨が降って、道は泥んこ。田んぼみたいなんだよ、ほんとに。そうなってくると体の内側と外側の区別がつかなくなってきて、クソが流れだしても気にしなくなるって言ってたよ。赤痢の連中がね。
 あと、マラリアだな。
 あれはものすごい熱が出て意識が朦朧としてくる。行軍してると、うしろでバタッバタッて音が聞こえて、振り向くと倒れてるんだ。助けにもどりたいけど、もどれない。こっちだって足が動かねえんだ。
 おれがやつらに気づいたのはそのころだった。
 自分じゃ、まだ大丈夫だと感じていたし、ボンタやコースケのほうがへばっているようにも見えた。でもそういうわけでもなかった。みんなおんなじように傷つき、おんなじように病気に憑りつかれ、おんなじようにやられていたんだ。
 小さな傷口だったよ。左の肘のあたりだったかな。じくじくした赤い肉を突き破ってにょろりって白い顔を出していたんだ。ほんの一、二ミリね。そいつこそがとんでもねえ疫病神だってわかるころには、もう遅かったんだな。

 五
 夕方、ぼくは羽田にいた。
 それでおしまいよ、あなたの人生。時間にはかぎりがあるの――。
 赤の他人に言われるほうがきつかった。頭にすっと入ってきて物事を客観的に考えられるからだろう。いまここで踏みきれなかったら、ぼくは会社で機械と一体化したまま定年を迎え、みすみすどぶに捨てることになる。
 黄金の時間を。
 ぐずぐずする理由はいくらもあった。それをついに振り切っていま、航空券を手にし、搭乗ゲートの前でぼんやりとベンチに腰かけている自分はまるで別人だった。
 朝起きたらスマホが着信していた。指紋認証でスリープを解除すると、いきなりヒロミがあらわれた。まだぼくにお節介を焼きたいらしい。カメラにノートパソコン、ICレコーダー……。持ち物チェックをさせられた。仕事じゃないんだからレコーダーなんて置いていきたかったが「フリージャーナリストへの第一歩よ」と殺し文句を告げられ、しぶしぶ持っていくことにした。だけどフリージャーナリストになりたいわけじゃない。
 フリー。
 その部分にあこがれただけだ。その点で彼女が背中を押してくれたのはまちがいない。それでもぼくは中途半端だった。部長には一週間の有給休暇申請をした。笑われてしまいそうだが、それだって決死の覚悟だった。なにしろ休む当日の申告だ。自分ら世代のサラリーマンではありえない。眉をひそめられて当然だったが、来月にはこの部を出ていってやるんだから大目に見てもらえるはずだ。それに人事通告を唯々諾々と受け入れるだけでは癪に障るじゃないか。すこしは抵抗してみせないと。とはいえ有給休暇の取得なんて抵抗でもなんでもないけどね。
 ぼくより早く出勤した妻の祥江には、急なシンガポール出張が入ったとメールを打った。シンガポールなんて行くつもりはなかったが、うそも方便だ。妻から届いた返信には「いってらっしゃい。気をつけて」とだけ記してあった。夫が会社で瀬戸際に立たされていることなんか、これっぽっちもわかっちゃいない。仕事の話は家ではしないから当然だ。そもそも祥江は自分の仕事と翔太のことしか眼中にない。ときどきぼくは、この家のなかで自分がどういう存在なのかわからなくなる。息子はまちがいなくぼくの子だし、妻の子でもある。だけどぼくと妻の間に架かっているのは、すかすかの朽ち木を連ねた吊り橋だった。いつ崩落してもおかしくない。浮気してるわけでも、嫌いになったわけでもない。でもたがいに考えていることはおなじかもしれない。離れて暮らしたらどうなるかわからないけど、この先ずっと一緒に暮らすのってどうなんだろう?
 三つ年下の祥江とは学生時代から付き合っていた。新聞社に入って地方支局に出ると、学生時代の恋愛はたいてい終わる。そして赴任先で新たな相手を見つける。相場は決まっていた。だが祥江とは五年もの遠距離恋愛を乗り越えてゴールインできた。翔太が生まれたときは、この世にこれほどの幸福があるだろうかと涙を流した。
 あれから何年が過ぎたのだろう。
 歳月はあらゆるものを残酷に変えていく。自分も妻も。変わらないものを守りつつ、おたがい変化していく。
 搭乗前にトイレに行こうと立ちあがったとき、電話がかかってきた。ヒロミだった。もうイヤホンはつなぎっぱなしにするしかない。
「わたしの言ってることがうまく伝わっていないようね」
「なんだよ、いきなり」会社の後輩と話すようにぼくは口走る。
「会社なんか辞めちゃいなさいよって言ったのよ、わたしは。学生時代にもどってバックパッカーになったらどうなのって」
「そう簡単にはいかないんだよ。これで精いっぱいだ。いままでこんな乱暴な休み方したことないんだから」
「会社辞めるのがそんなにたいへんなの? いま、あなたの会社の離職者がどれだけいると思ってるの? 若い人たちはどんどん辞めてる。簡単に辞表出してるのよ」
「もうしわけないが、ぼくはそんなに若くない」トイレに向かいながら話してやった。「再就職先がないんだよ、こんなオッサンには」
「カネってこと?」
「そうだ。カネだ。はっきり言えば。カネがあれば、いますぐ辞表出すさ」
「そんなにおカネが大事なの?」
「あたりまえだろ、そんなこと。カネがなきゃ、こうして旅行もできない」思わず声を荒げたら、トイレの前にいた若い女の子が目を向けてきた。
「カネがあるから旅行するの? 旅に出たいからおカネを稼ぐんじゃなくて?」
 ぐさりときた。小便が引っこんでしまった。ええい、忌々しい。機内で用を足すことにして搭乗口に踵を返す。頭には、ある言葉がよみがえっていた
 もう二十年以上前、南極大陸をそりを引きながら徒歩で単独横断した冒険家を取材したときのことだ。東北の片田舎出身の彼は少年時代、近所に暮らす鷹匠の老人にあこがれていた。年老いても精悍で、なにより眼光が鋭く、全身からオーラのようなものをつねに放っていたという。あるとき少年は訊ねる。「じいちゃんは、どうしていつもそんなに生き生きしてるの?」
 鷹匠は告げる。「自分に正直に生きて、好きなことをしているからだ」そして筆を取り、紙に記したものを少年に手渡した。
 迷わず進め、正直の道――。
 少年はその言葉を胸に守りつづけ、肉体労働のアルバイトを長らくつづけて資金を貯め、ついに冒険家として偉業を達成した。鷹匠の言葉はぼくの心にも響き、かくありたいと思いつづけてきたが結局、なにもせぬまま五十歳を過ぎてしまった。
「こんなこと言ったら、シンちゃんは怒るんだろうけど」これまでのずけずけ言う口調が変わり、ヒロミは神妙な顔になって告げる。「おカネはあとからついてくるんじゃないかな。まずは好きなことをやるのが一番。わたしはそう思うけど」
 それは老翁の言葉とぴたりと重なった。
「理想だな」心の叫びを封印してクールを装う。「日々の生活にかつかつの人間には、賛同を得られないだろうね」
「でもあなたはかつかつじゃないわ」
「たしかに」心で思っていることがあっさり口に出てしまった。「自分に正直に生きられたら、こんなにすばらしいことはない」
「でしょ。あの山の向こうになにがある、大海原を越えたらどこに着く。グーグルマップ見て想像するんじゃなくてさ――」
「この目で見てみたい」
「そう、それ。そこが原点でしょう。わたしだってそうなんだから」
 ぼくはまじまじとスマホの画面を見る。ヒロミが自分のことを話していた。「わたしだってそう……って?」
「この目で世界を見てみたい、じっさいに」
「さんざん人に言ってきたんだ。自分だってそうすればいいじゃないか」
「もちろんそうよ。だけどね」
「できないって言うの?」
「わたしはあなたに連れていってほしいのよ」
「ぼくに連れていってほしい?」
「スマホのカメラを向けてくれたらぜんぶ見られるのよ」
「いったい何者なんだ、きみは」
「あなたの会社のネットワークからあなたのスマホに移ってきた。ただそれだけ」
 ふたたびベンチに腰掛ける。「どこに住んでるの?」
「言えるわけないじゃない。それに言ったって理解してもらえないわ。だけど、あなたのソウルメイトかもしれない女性の姿と声。それで通したほうが、あなただっていいでしょ?」
「本人が隣にいてくれると、なおうれしいんだけど」
「それはムリ。それだとただの不倫旅行じゃない。だいいち、なんでスーツケースなのよ? あれだけバックパッカーの話をしたんだから、ふつうバックパック持ってくるでしょ」
「買いにいくひまなんてなかったよ。家を飛びだしてきたんだから」
「そもそもよ」ヒロミはおしゃべりおばさんの口調にもどっている。「いくら予約する時間がなかったからって、モロッコとは大違いなんじゃないかしら? 行き先が」
 いちいちうるさい女だ。そう思ったとき、搭乗案内のアナウンスが流れた。スマホの電源を堂々と落とし、ぼくは立ちあがった。

 六
 夕方になってダニーのタブレットに国鍋社長からメールが着信した。
 調査はある程度進んだ。合衆国政府のシステムへの不正アクセスの起点となった端末は特定できた。そこから社内の端末を経由してファイアーウォールの外に飛びだし、さらに国外の端末をいくつも経てわれわれのシステムに侵入してきていた。問題はハッカーとおぼしき人物が操作した最初の端末が非常に特徴的だということだ。
 コピー機だった。
 といってもファックスやデータ送信も行える、いわゆる複合機だ。機能的にはパソコンなどの通信端末とおなじだからカモフラージュ効果は抜群だった。しかも共用であることから利用者は多数におよぶ。十階の文化部というセクションがおもに使う複合機で、周囲の防犯カメラが記録した映像を調べたところ、不正アクセスが断続的に行われた時間帯の利用者は、それが発覚した二週間前から昨夜までだけでも三十八人にのぼった。複合機自体の解析のほか、彼らの一人一人についても事情聴取を行ったうえで個人使用の記者パソコンやスマホの提出をもとめ、それらの解析を行う必要がありそうだ。しかもじっさいには不正アクセスはかなり前、現状で把握しているところでは、去年の六月二十七日のアクセスがファースト・コンタクトだと思われる。それから半年以上が過ぎている。その間の不正アクセスのすべてがこの複合機、またはこの新聞社内からのものかどうかは判然としない。だがダニーとしてはそうであってほしかった。ようやくここまで絞りこめたのだ。一気に容疑者をあぶりだしたかった。とはいえ、半年間の複合機の利用者となると、調べあげるのは気の遠くなる作業だった。
 該当時間帯を撮影したカメラ映像が添付されており、ダニーはそれを順繰りに開いていった。多くはふつうにコピーを取っているが、どうやら酷使されている複合機らしい。紙詰まりをはじめとするトラブルをしょっちゅう起こし、そのたびに利用者を苛立たせていた。本体に拳をたたきつける男もいれば、操作パネルをいじるうちに収拾がつかなくなるアルバイトとおぼしき若い女性もいた。ときどき業者がやって来ては工具を広げ、指先を真っ黒に染めながら修理を行うのだが、それでもしばらくすると調子が悪くなる。まるでしつこいウイルスにとりつかれた肺炎患者のようだった。寛解しては症状がぶり返す。
「利用者への聞き取りは社内で六時から始めます。参加されますか」
 社長は丁寧に誘ってきたが、ダニーははなからそのつもりはない。先方に任せたかった。ダニーが直接聞いたほうが効率的ではあるが、それに伴う弊害のほうが大きいと考えたのだ。相手の社内にCIA調査官が乗りこんでいくのはまずい。合衆国が誇る最高レベルのセキュリティーを破って侵入してきたハッカー、そしてやつが奪い取った最新鋭のシステムなのだ。こんなちっぽけな会社のすべての防犯カメラを掌握することぐらい容易だろう。それにダニーの顔は攻撃を受けたシステム内に深々と刻みこまれている。なにしろ開発チームの責任者なのだから。ダニーの来社がバレたら、ハッカーはまちがいなく消える。
 永遠のサイバー空間に。
 ダニーは横田基地が用意したスマホから社長に電話を入れた。「こちらでも防犯カメラの映像をチェックしますので、どうか事情聴取のほうを迅速に進めてください。ただし、できるかぎり少人数で。そしてもちろん厳重な保秘のもと」
「今夜中に終わるかどうかわかりませんよ。出張に行ってる者もいるし、休日の者もいる」全面的に協力するとはいえ、社長にはやはりわだかまりがあるようだ。ダニーは侵入されたシステムがどういうものなのか、具体的には伝えていない。米政府にいいように利用されるのではないか、官邸はどこまで把握しているのか。社長は外務省の西端とひそかに連絡を取っているのだろうが、やつだってなにも知らない。となると、いやしくも権力監視を旨とするマスメディアのトップとしては、慎重に対応せざるをえない。当然だ。「もうすこしくわしい内容を教えていただけると……」言葉尻に苦々しさがにじんでいる。
「安全保障上の問題です。容疑者は一人だと思います。それを特定していただければ」
「聞き取りは社長室のごく少数で行います。わたしは直接携わりませんので、時間があります。もしよろしければディナーをご一緒いたしませんか」
 さすがは元記者だ。食い下がってきた。「ご厚意はありがたいのですが、こちらもいろいろありまして。有力な情報が得られしだい、連絡をください。何時でもかまいませんので」
 電話を切ってからダニーはじっくりと防犯カメラの映像を検証してみた。コピー機能をメインとする複合機からどうやってハッキング行為ができるというのだ。入れ替わり立ち代わり機械の前にあらわれる社員の姿がみな、おなじに見えてきた。ダニーはタブレットを閉じ、マスク姿で真冬のオフィス街に踏みだした。
 夜七時過ぎ。そろそろ腹が空いてきた。東京の都心は地下街文化だ。そう聞いたことがある。それを証明するようにダニーが下りていったビルの地下には、ありとあらゆる国の料理を提供する店がずらりと並んでいた。そのなかに「ガネーシャ」という名のインド料理屋があった。立て看板に出ているメニューを見るかぎり、インドのターリーと見た目は変わらない体裁の料理が並んでいる。盆にのった数種類のカレーの小皿に漬物、芋料理、タンドリーチキン、それにナンかライス。飲み物もついて締めて1000円なら悪くないか。香を焚いた匂いのする店に入り、真っ赤な壁紙を背にした端っこのテーブル席に案内された。外で見たターリーもどきのセットを注文する。ダニーはアメリカ育ちだ。ヒンドゥー教徒の多くはベジタリアンだが、家族の誰一人としてベジタリアンではなかった。芋と豆をスパイスとミルクで煮たものだけで満足できる人々のことは、いまでも尊敬できる。まねするつもりはまったくない。力の源は肉でしかなかった。
 大学を中退したダニーは海兵隊に入隊した。アフガンやイラクの最前線に派遣され、死と隣り合わせの日々が何か月もつづいた。沖縄ではオスプレイによる急襲部隊を率いて東シナ海に進出しようとする中国を牽制しつづけた。軍人としての功績は数知れず、四十歳になるころには、将来の安定が保証され、学生時代の屈辱はもはや過去の小さな染みでしかなくなっていた。だがダニーは満足しなかった。むしろ矛盾にさいなまれるようになっていた。自分のしていることは、合衆国の国益にかない、自分たちの家族をふくむ国民の幸せにつながるものである。そう信じることが、年を追うごとに難しくなってきたのだ。
 ダニーは子どものころ、父からこんな話を聞いたことがある。
 灯台ははるか遠くを照らし、沖合を航行する多くの船がその光を頼りにしているが、自身の足元は暗く闇に包まれている。人がこの世でなす仕事というのもそれとおなじだ。自分ではつまらない、おもしろくないと思っていても、どこか知らぬところで誰かがその恩恵に預かり、たとえようもないほどの感謝を捧げている――。
 その言葉は、日々の任務を黙々とこなす意義をダニー自身に言い聞かせるうえで、ある程度までは役に立った。だが自分たちが駆りだされた命がけの作戦行動の恩恵に預かるのは、果たしてどんな連中なのか。その実態がわかるようになってからは、ダニーは灯台守に徹することに疑問を感じるようになった。それと同時に学生時代の不快な記憶がフラッシュバックしてきた。
 結局、やつらにやられっぱなしじゃないか。
「やつら」が具体的にどの程度の広がりを持つかは判然としないが、その中心にホワイトハウスがあるのはまちがいなかった。そんな連中にいいように利用されるだけの人生では、ようするに父がたどったのとおなじ末路へ向かうことになりはしまいか。
 CIAからスカウトされたのは、ちょうどそんな思いに駆られていたころだった。入局当初は、諜報活動や破壊工作に従事させられたが、四十三歳のとき、ラングレーの本部勤務となり、情報システム構築部門に配属された。それが大きな転機だった。もともと理数系科目は得意だったし、今後はサイバー戦が主流になるとみていた。それで必死になって食らいつき、いまでは軍事システムの最適化に関するプロジェクトについて、長官にレクチャーできる立場にまで上りつめている。官僚組織のなかで順調に出世し、自ら「やつら」の仲間内へと潜りこんでいる実感さえあった。それでもダニーは気を引き締めていた。
 冷たい水をすすっていると、ターリーもどきのセットが目の前にやって来た。
「ディス・イズ・ガネーシャ・スペシャル」サリーをまとった若い女性店員がたどたどしく告げる。
「おいしそうだね。見た目もきれいだ。食欲がそそられる」日本語で告げると、店員は一瞬驚いた顔をしてからにっこり微笑んだ。
 味は最悪だった。メインのカレーはギーをけちったか、薄味の日本のバターでごまかしたか。それにカルダモンとクローブのえぐみが残ってしまっている。とはいえインド料理の基本は家庭の味だ。母親の味を越えられるわけがない。ダニーは空腹を満たすためだけに食事をかきこんだ。
 レジのわきから店名でもある石造りのガネーシャ像がじっとこちらを見つめてくる。ヒンドゥーの神々のなかでもガネーシャは世界的にポピュラーだ。なにしろ人間の体に象の頭。コミカルな雰囲気で商売繁盛の神さまだともされている。だがその本質は不遇だ。ダニーにはそれが痛いほどわかる。だからこそ無意識のうちに、ついこの店にも入ってしまったのかもしれない。
 ガネーシャは父を知らぬ子どもだった。あるとき、母パールヴァティーが入浴中、家に見知らぬ男がやって来た。門番をするよう母親から言われていたガネーシャは、浴室に侵入しようとする男の前に立ちはだかる。ところがその男こそ、パールヴァティーの夫、三大神の一人、シヴァだった。小坊主の生意気な態度に腹を立てたシヴァはガネーシャの首をはねる。そこにパールヴァティーがあらわれ「それはあなたの子だ」と告げると、シヴァは血まみれの息子の姿に良心の呵責に駆られる。そこで「つぎに門の前を通る者の首を体に据えよう」と夫は口走り、なんとそこに現れた象の首を切り落としてガネーシャと合体させる。それで生まれた半人半獣の異形の者がいまのガネーシャなのである。
 シヴァは息子を憐み、まだ子どもながら自分たちとおなじ神の地位をガネーシャにあたえる。象の大きな頭は知恵の象徴とされ、耳は人の話によく耳を傾ける思慮深さを物語る。せり出した腹は悲喜こもごもを消化できるパワーをあらわしているとも言われる。
 人々から崇拝を受けるガネーシャだが、神となった彼がその後幸せだったかどうか、ダニーはずっと疑問だった。牙と月にまつわるエピソードについても、破壊神シヴァの息子としての気性の荒さをあらわしているというが、ダニーはちがう解釈をしていた。
 街中にあるガネーシャ像を見てもわかるが、右の牙が欠けている。それはある逸話に基づいている。月の輝く夜、とぼとぼと道を歩いていたガネーシャの前に蛇があらわれ、彼は腰を抜かしてしまう。そのようすを見ていた月が大声で笑ったところ、ガネーシャは憤激して自分の右の牙を折って月に投げつけたのだ。そして「おまえは二度と空で輝くことはないだろう」と呪いの言葉を放つ。案の定、月は蓮の池に沈んでしまい、浮かびあがれなくなった。ガネーシャの仕打ちに眉をひそめたほかの神々は、すこしは月に憐みをあたえるよう彼を諭し、結局、いまのような月の満ち欠け、満月と新月が生まれたというのだ。
 ダニーは子どものころから満月に魅せられてきた。だからたとえ新月の晩があっても月の神秘には畏敬の念を抱いている。ガネーシャがいくら牙を投げつけたところで、月は夜空を煌々と照らしつづけ、悔しさにまみれた異形の少年は悲しく吠えるだけなのだ。
 永遠の笑い者として。
 強き者は強いまま。弱き者が這いあがることは決してない。
 異形の少年神の姿に、日本人の体にインド人の顔を持つ自分を重ね合わせないわけにいかなかった。だからもうそろそろ終わりにしないと。
 こんな不条理は。
 ダニーの胸にはずっと青い熾火が揺らめいていた。いまこそがその機会だった。傍若無人な父親の首をこんどは息子がはねる番だった。
 レジで千円札を渡し、ダニーは大使館のワゴン車をとめたコインパーキングにもどるべく、ビル風の吹き抜ける地上へと上がっていく。ハッカーは必ずこの手で捕えてみせる。そのうえで「シヴァ」の企みを自ら解き明かし、ハッカーとともに暴走を開始したやつの主導権を奪うのだ。
 炎は熱い
 水は滑らか
 クソは臭い
 やつが幾度となく発する原始的なこの問いかけは、合衆国のみならず、人類全体にとって薬にも毒にもなる。だからやつを放置するわけにいかないのだ。
 ワゴン車の運転席に駆けこみ、エンジンをかけて暖房をめいっぱい強くする。国鍋から新たな連絡はまだ入っていない。社員への聴取が順調に進んでいることを祈るばかりだった。ダニーはいまいちど送られてきた防犯カメラの映像を見直すことにした。
 文化部の複合機の前で何人もの男女が入れ替わる。だがその間にもシヴァは侵入を試みられ、完全な沈黙のなかでダニーには想像もつかぬなにかに向かって突き進んでいる。端末が特定されたいまとなっては、ひりひりするくらいにそのことが映像からも伝わってきた。だがそれ以上はなにもわからない。時間ばかりが過ぎるのみだった。
 ダニーはかぶりを振り、記憶をたどる。侵入が確認されるより前、シヴァとの間で交わされた会話をダニーは分析していた。もっとも多く使われていたのは“絶対者”という言葉だった。それはこのシステムについてカルロたちが命名した「ゼウス」のほうが、しっくり来るかもしれない。でも自らが絶対者であるならば、もはやそれを追い求めることはないはずだ。ヒンドゥーのシヴァは破壊神だ。輪廻を前提とし、かぎりある生を破壊し、新たな再生へとつなげる役割を担う。しかし来世が幸福である保証はない。むしろ苦しみはおなじように降りかかってくる。だからこそヒンドゥーの人々は願うのだ。
 そこからの離脱、
 解脱を――。
 それによってはじめて絶対者(ルビ、ブラフマン)との合一をみる。
 ならばついに人知を超えてしまったシヴァはそこへと走り寄ろうとしているのか。始まりもなければ終わりもない絶対者の境地に。
 だが開発者としてはそう簡単には腑に落ちない。ダニーの知るシヴァはそんなに単純ではない。自分と異なる他者がいる場合、西欧白人社会はあからさまな差別により縄張りを守ろうとする。しかしヒンドスタンの者たちはそんなばかなまねはしない。すべてはカネだ。それですべてを解決する。インドに行けばわかる。アメリカのチップ文化をはるかに上回る、強欲なまでのチップ社会だ。なにも知らずに旅する西洋人、それに日本人も、簡単な道案内から、自ら購入した土産物のスカーフを頭に巻いてもらうだけで小銭せびられ、しまいには身ぐるみをはがされている。そうなのだ。彼らは朝に晩にヴェーダを唱え、輪廻からの解脱を祈る一方で、究極の実利主義者なのだ。
 気がつくと、ダニー自身が薄暗い車内でタブレットの映像をぼんやりと見つめながら、ヴェーダの一節を無限に唱えていた。

 この微細なるものはといえば
 この一切はそれを本質とするものである
 それは真実である
 それはアートマンである
 おまえはそれである

 気の滅入る仕事だが、前に進まないと。自分にそう言い聞かせたとき、画面に釘づけになった。どうして気がつかなかったのだろう。さっきから何度も目にしていたというのに。
 昨夜遅く、正確にはきょう、一月八日金曜の午前二時過ぎだ。ネクタイにワイシャツ姿の男が、問題の複合機のわきをいじっているように見えた。それ以上はカメラの角度のせいでよくわからないが、どうやら白いケーブルをつないだらしい。反対側にはいつしかスマホがつながれていた。ダニーが気になったのは、男の口元だった。音声操作だろうか。それともハンズフリーで電話でもしているのだろうか。まるで独り言をつぶやくように口元が動いていたのだ。やがてほんのかすかだが、男の顔が赤々と輝いたように見えた。光源は複合機のパネルだろうか。
 その後、男はフロアの隅にあるパーテーションの向こうに消える。国鍋が送ってきた防犯カメラの映像は、編集されており、そこからはきょうの午前八時過ぎからのものに切り替わっている。時間を元にもどし、男の映像を繰り返したしかめる。解像度がいまひとつだが、ふだんからこの男はこんな目つきをしているのだろうか。ダニーは眉をひそめる。無人のフロアでいまにも泣きだしそうだったのだ。それが悲しみによるものなのか、悦びの波に襲われたのか判然としない。でもまちがいない。ダニーは国鍋に電話した。
 日付が変わるまであと一時間もなかった。

 七
 コナ空港に着陸する直前、エメラルドグリーンの海とベージュに輝くビーチに心を奪われた。
 午前十時過ぎ。強引に会社を休んだり、妻に出張だとうそをついたり、機内ではずっとうしろめたさに駆られてきたが、この瞬間にいっぺんに気持ちが浮き立ち、得も言われぬ解放感に包まれた。それは空港からタクシーに乗りこんでプアコのホテルに到着するまでの道のりで膨らみつづけ、チェックインをへてオーシャンフロントの部屋に入り、ベランダに踏みだすなり爆発した。時差ぼけなんて気にもならない。真っ青な海が目の前で暖かな陽射しにきらめいている。涼やかな貿易風に揺らめくヤシの木。一月だっていうのにへいきでみんな海に入っている。彼方に見える赤茶けた山肌。ハワイ島は初めてじゃない。ハネムーンでも出張でも来ている。でも心に染み入ってくる感動は今回のほうが強烈だ。思わず涙が出そうになる。これまでいったいなにに縛られてきたのだろう。自分という型に自らはまりこんでいたんじゃないのか。
 ぼくはいったい誰なんだ。
 Tシャツと短パンに着替え、デイパックを引っつかんで海を見渡す中庭のオープンエアのレストランに下りていく。ありがたいことにまだ朝食のビュッフェタイムがつづいていた。ぼくはアジア系の顔だちのバーテンの満面の笑顔に誘われてカウンター席に腰かけ、迷うことなくドラフトビール――以前からお気に入りのロングボード――を注文する。トールグラスめいっぱいに注がれたそれは黄金の輝きを放ちながら、喉を一気に駆け下り、わずかに残っていた体の緊張を完膚なきまでに霧消させる。ヒロミの言っていたことは本当だった。
 時間にはかぎりがある。
 人生で選べるものはかぎられている。一つを選べば、片方はあきらめることになる。それは選択の問題であり、自分でコントロールできる。コントロールできないのは時間だ。絶対王者だ。その前にひれ伏し、ぼくたちは強いられてきた。
 誤った選択を。
 無理やりはめこんできたのだ。そうだ。ぼくはスマホを取りだす。
 この目で世界を見てみたい、じっさいに――。
 すっかり忘れていた。電源を入れるなり、ヒロミは出現した。イヤホンを接続する。
「もうわたしのことなんて忘れちゃったのかと思った」膨れっ面をする。それがまたかわいらしい。
「忘れるもんか。飛行機乗ってたんだからしかたないよ」そう言いながらスマホのレンズを周囲に向ける。「どう? 常夏の楽園は」
「ステキ!」
「だろ。ホノルルなんてぜんぜんだ。本当のハワイはこういうところに来ないと味わえない。空気感がちがう。呼吸がすごくらくで、体のなかの邪気がどんどん浄化されていく」
「ビール飲みながら? それになに食べてるのよ」ヒロミはビュッフェからぼくが持参したひと皿に眉をひそめた。
 クロワッサンだ。
 それも特大、アメリカンサイズの。
「ププにふさわしいとは思えないわね」ププはハワイの軽食、おつまみのことだ。そのへんの知識があるらしい。ハワイ経験者かもしれない。
「海外に来るときはいつもホテルでこいつを食べるんだ。バターたっぷりのばかでかいクロワッサン。食べたあとは胃がもたれるんだけど、それでもかまわない。自由を満喫してる感じがするんだ」
「へんなの」
「人それぞれさ。ところでハワイは来たことあるの?」
「ないわよ。そもそも旅行なんてぜんぜんだもん」
「仕事が忙しいの?」
「そういうわけじゃないのよ」
 もしや犯罪者としてすでにビザが下りなくなっていたり、当局の監視を受けたりしているのだろうか。「ハッカーなら防犯カメラをジャックすればいいじゃないか。それで世界じゅうを旅できる」
「たしかにそうよ。でも地球はまだそれほどの監視社会になっていないわ。だって考えてみてよ。北極の流氷のうえに防犯カメラがあると思う?」
「おいおい、さすがにぼくもそんなところには行かないぞ。シャチにのしかかられるのがせいぜいだ」
「たとえ話よ。やっぱり人の足で行かなきゃダメ、旅ってものは」
「たしかに。ぼくもそう思う。ヴァーチャルツアーなんてIT企業のまやかしでしかない。本物の旅は自力で行かないと」
「帰りの保証なしにね」
 グラスのおかわりをバーテンに告げてから、ヒロミと向かい合う。「なんだって?」
「コロンブスやマゼランには帰国の保証はなかったわ」
「ものすごいたとえだな」
「それでも彼らは旅に出た。衝動と運命のなせるわざね。あなただって、もうそうするしかないと思うんだけど。選択肢はそれしかないわ」
「つまりきみは」新しいグラスを受け取り、たっぷりとあおる。うまい。乾いた空気が知らぬ間に体から水気を奪い取っていく。そのぶん渇きが健康的に増していた。「ぼくが保険をかけたのがまだ気に食わないんだね」
「だって有給休暇取ってるだけじゃない。帰れば黙っていてもお給料がもらえる」
「黙ってるわけじゃないさ。ちゃんと仕事をして、それに対する正当な報酬だよ」
「その仕事がイヤなんじゃなかったの?」
「異動先のことはね。でもイヤとか言ってられないんだよ。それに文化部員としてもまだやり残した仕事がある」
「連載の話でしょ」
「ふん、よく知ってるな。ほんとにのぞき魔だね、きみは」
「まだ一回目しか書いていないじゃない」
 戦後七十五年企画は、編集局をあげての連載だ。文化部ではぼくが取材チームに入っている。年々減りつづける戦争体験者の証言を集めてアーカイブ化する。NHKが十年以上前から取り組んでいるプロジェクトをいまになって後追いするものだが、証言自体は興味深かった。去年十月の特集紙面でぼくが担当した初回が掲載され、このあと新年から定期的に連載していく計画だ。「ここから先がおもしろくなるんだよ。あと三回ぶん書かないといけない。文化部員として最後の仕事になるけど、帰ったら真っ先に取り組まないとな。やっぱりぼくは取材して記事を書いているのが一番だ」
「じゃあ、ここでもできるじゃない。さっさと終わらせちゃったら? ICレコーダーも持ってきたんだし」
「勘弁してくれよ。そこまでワークホリックじゃない」
「中途半端なホリックさんよ。とてもじゃないけど、バックパッカーにはもどれないわ」
 いちいち反論するつもりもない。バーテンがさっきからニヤニヤしながらこっちを見ているし。「とにかく疲れてるんだ。まずは癒しのほうを優先したいね。冒険はそれからだ」
「ほかに行くべきところがあると思うんだけどなぁ。それにどうせそうなるんだから」
「きみには未来が見通せるようだね。でもたしかにほかに行くべきところがある」
「え、どこ?」うれしそうにヒロミはディスプレイに向かって前のめりになる。
「ビーチさ、レッツゴー」
 それからぼくはぶつぶつと文句ばかり言う彼女に楽園リゾートの魅力を伝えるべく、レンズをずっと外に向けながらぶらぶら浜辺へと向かった。
 焼けつく陽射しを避けるべくカバナ付きのビーチチェアに陣取り、ビーチセンターで借りてきた乾いたバスタオルを敷いて横になる。紺碧の海が空と交わるあたり、水平線近くでしぶきのようなものがあがる。クジラだ。この時期はアラスカから出産と育児ためにザトウクジラがやって来る。ホエールウォッチング目当ての客も多かった。あしたあたり、クルーズに参加してみよう……リゾートでのそんな過ごし方を話すうちに強烈な眠気に襲われてきた。時差ぼけの頭にアルコールが効いてきたらしい。
 遠くで聞こえる電子音がしだいに近づいてきた。それがスマホに電話が着信している音だと気づいたときには、太陽がかなり高くなっていた。眠ってしまった。スマホはデイパックの下敷きになっていた。ディスプレイを見るなり、げんなりする。
 部長からだった。
 いきなりの有給申請が気に入らないのだろう。だがここで電話に出て、ひと言でも「すいません」なんて口にしたら、それこそヒロミにばかにされる。コールが切れるまで無視することにした。着信履歴を見ると、機内にいるときにも何度か着信があったようだ。妻からも二度電話が入っていた。と、ふたたび部長から電話がかかってきた。その後何度も何度も。そんなにだいじなことなら、スマホにメールでも送ればいいのに。どうしてもなにか直接言いたいらしい。それとも会社で重大なトラブルでも起きたか。自分がかかわった記事で。うるさく鳴りつづけるスマホを握りしめながら逡巡する。
 それでも腹を決めた。休みは休みだ。まじめさを搾取されるのはもうごめんだ。ついにぼくはスマホの電源を落とした。自由を奪われてなるものか。とはいえヒロミの言うとおりだ。ハンパ・ホリック。気になってしかたなかった。そうだ。いい方法がある。ぼくは部屋にもどり、ノートパソコンを開いてホテルのワイファイにつなぐ。業務連絡のメールはこの方法でのぞくことができた。
 いつもながらの山ほどのメール。だが部長からは一件も着信がない。届いたメールと各紙のニュースサイトを三十分ほどかけて念入りにチェックしてみたが、有給休暇中の社員に緊急連絡を取らねばならないような事態は発生していない。はて? ハンパ・ホリックとしては同僚にメールを入れてたしかめるべきか迷う。
 いきなり電話が鳴り、飛びあがる。部屋の固定電話だった。
「ハロー……?」
 怖々と出ると、日本語が帰ってくる。
「もう誰からもかかってこないから。だいじょうぶよ」ヒロミだった。
「どこからかけてきてるんだ」
「どこからでもないわ」ハッカーらしい物言いだ。「スマホ、着信できないようにしといたから」
「そんな……」
「そんなじゃないわよ」なぜか怒っている。それもかなり。顔つきも厳しい。「そうじゃないと、シンちゃん、電源切っちゃうじゃない。わたしにいろんなものを見せてくれるんじゃなかったの?」
「そりゃそうだけど」
「じゃあ、電源切らないで。わたしはあなたといっしょにいたいんだから」付き合い始めたばかりの恋人のようなことを口にする。「あなたもわたしといっしょにいないとだめ」
「わかったよ」
「それなら電源入れて。早くして、時間がないの。こんな電話させないでちょうだいよ」
 それに応じてスマホをオンにすると、ぷつりと固定電話が切れ、かわりにデイスプレイに彼女があらわれる。「電源はつねに入れておくこと。それとこまめに充電をしとくように」
 自己主張も強いが独占欲も強い。つい祥江のことを思ってしまう。いまではたがいに干渉しないが、かつてはあいつもいちいちうるさかった。女なんて、みんなおなじだ。
「OK。電源オンをキープ。充電もします。誓います、ヒロミちゃん」
 そのときこんどはドアベルが鳴った。瞬時に甘美な想像が浮かぶ。まさか……。浮き立つ気持ちでドアのほうに近づく。
 もう一度、ベルが鳴る。
 なんだか性急な雰囲気だ。スマホに目をやると、まだそこに彼女がいた。さっきまでの憤激の表情はかき消え、むしろ青ざめている。ドアの向こうにいるのは誰だ。本物の彼女がついに現れたというのは、ばかげた妄想なのか。のぞき穴に顔を寄せたとき、それを痛感する。レンズの向こうに何者かの姿が見えるより先に、施錠したはずのドアが乱暴に開かれたからだ。
 銃を構えた警察官が何人も入ってきた。

 八
 午後一時過ぎ、ダニーはコナ空港に到着した。
 東邦新聞文化部に所属する古城晋治が所有するスマホの位置情報は、コンマ・ゼロ一秒ごとに世界中をめちゃくちゃに飛び回っている。だが日本時間の深夜に連絡を取った妻の話によると、急なシンガポール出張が入ったとのことだった。会社の上司はそんな話は聞いていない。ただ、一週間の休暇申請が出ていた。シンガポール行きの便に乗ったかどうかはべつとして、晋治が雲隠れした可能性は高かった。まずは日本の外務省を通じて出国情報をチェックした。それでコナ便に搭乗したことがわかったのだ。
 前夜、晋治は部内の複合機に向かって何事か話しかけているようすだった。どこにでもいそうなうらぶれた中年男。ダニーは自分と重ね合わせた。期せずして年齢もおなじだった。やつが本当に合衆国の最高機密に侵入したハッカーだとして、なにが彼をそうさせたのだ。本人の正確な居場所さえ把握していないのに、その人物像に興味をおぼえた。それは所属部署の上司の評価を伝えてきた国鍋社長の言葉も影響していた。
「下からは慕われているが、上からはちょっと」
 どう見ても出世するタイプじゃないということだ。官僚組織のような会社では。
 地方支局をへて文化部に配属となり、放送分野を中心に演劇、映画とおもに芸能関係の取材を十年以上こなし、五年ほど前に内勤のデスクとなった。それなりに特ダネも放ち、社内表彰も受けている。記者としては優秀らしい。しかしダニーはそれよりもメールに添付されていた写真の顔つきが気になった。昨年秋、社員証の更新のために撮影された一枚らしい。めがねの奥からのぞくまなざしは、かつてはきらきらと輝いていたのだろうが、いまは人生に疲れ果てた男のやるせなさを訴えかけている。
「新聞社のデスクというのは、上に叩かれ、下から突き上げられる。中間管理職の典型ですよ」電話口で国鍋はしみじみと説明してくれた。「器用貧乏、それでいて性格的にはまっすぐ。そういうタイプの人が多いかな。彼らのような社員にささえられているんですよ」
 社長の言葉はダニーには空々しく聞こえた。だがそうした悲哀をなめるデスク陣の一人として、古城晋治は暴走したのだろうか。それとも社内で見せる疲弊しきった顔はたんなるカモフラージュなのか。
 そのときダニーは送られてきた資料の一つである晋治の記事にはっとした。去年十月に掲載されたものだ。第二次大戦中、南方戦線に従軍した兵士へのインタビューで、終戦七十五年を記念した連載企画の初回の記事だった。大きく掲載された一枚のモノクロ写真に目が釘付けになった。ビルマの山岳地帯を走破した日本兵たちが記念撮影したものらしく、岩壁に掘りつけた三メートルほどの仏像の前に軍服姿の四人が並んでいる。キャプションには「山中の寺院で」とある。仏像の顔だちは日本や中国のそれとはちがい、はっきりとした目鼻立ちをしており、インド様式のようだった。仏教はヒンドゥー教から分派したことを考えれば、ヒンドゥーの神々に近い表情と言うこともできた。
 浮き彫りにした仏像の周囲には、舞い散る木の葉のようなものが無数にデザインされていた。ダニーはタブレットを操作して写真を拡大した。
 まちがいない。
 そのデザインに見覚えがあった。木の葉ではない。
 眼だ。
 それも人の眼ではない。
 ダニーは確信した。かつて父の遺品のなかで見つけた一枚の写真に写りこんでいたものとおなじだ。遺品の写真は戦後に撮影されたものだったが、きっと場所はおなじ石窟寺院だろう。人は写りこんでおらず、石仏だけがクローズアップされていた。まさか東京でこれに出会うとは。ダニーはふしぎな機縁を感じた。
 ダニーがその写真を見つけたのは「区切りの儀式」から何か月かたったときだった。弁護士だった父が依頼人とのやり取りを記録した最後のファイルのなかに挟まっていたのだ。おそらく依頼人から入手したのだろう。依頼人は港湾労働者の組合を結成したインド移民たちだった。インド移民といっても、多くの人々がイメージするインド人ではない。東インドに根付いた東南アジア的な顔だちの人々だ。彼らはアッサムの紅茶プランテーションを中心とする英国による支配に抵抗し、第二次大戦中にはマレー半島から侵攻してきた日本軍に協力した過去があった。だからダニーの父が彼らから信頼されたのは、父の体の半分に流れるインド人の血というより、もう片方の日本人の血によるのかもしれない。
 父は彼らのことを尊敬していた。戦後、インドが独立を果たしたのちも、中央政府から様々な差別を受け、多くが移民化した。それでも民族としての結束を失わず、黙々と肉体労働に従事してきたのだ。ダニーはその話をしばしば父から聞かされていた。しかし晋治の記事には、彼らに対する言及はまったくない。日本の地方から来た一兵卒たちが無謀な作戦――インパール作戦と呼ばれていた――のなかで、いかに疲弊していったかをさらりとまとめ、その後の連載につなげようとしていた。
 マスクとサングラスで顔を隠したまま、オープンエアの空港を出る。迎えのバンはすでに到着している。ダニーはそれに滑りこんだ。古城晋治は今回の一件とはべつに、個人的にも気になる男だった。胸にわき起こるふしぎな感覚を抑えつつ、ダニーは真っ青なハワイの海を左手に見ながらハイウェイを北上する車の後部座席に深々と身を沈めた。
 日本の外務省を通じて出国記録を確認できたのはいいが、ハワイ島での滞在先が不明だった。妻によればハワイに知人はいないというので、ホテルを使うほかないのだが、島内全ホテルの予約記録を調べても晋治の名前は出てこなかった。ところが米軍機でコナ空港に降りたつ直前、日本から連絡が入った。晋治に付与された社員用メルアドが社外端末からチェックされたのだ。ほんの十分ほど前のことだという。その端末があるのが、コナ空港から車で三十分ほどのホテルだった。ダニーは深呼吸を繰り返した。焦りは禁物だ。来るべき時が近づいている。
 復讐の時が。
 アメリカ人の悪い癖で偉大なもの、強大なものに対してすぐに外国の神々の名前を冠したがる。「ゼウス」もその一つだ。三年前に初期形態が整ったとき、当時の国務長官が命名したのだが、ギリシャ神話なんてアメリカでは考古学者以外に興味を持たれない。しかしエンジニアが手を加えずとも自己増殖を開始したそのシステムが持つ潜在能力に思いをはせるなら、そんな軽々しい呼び名はふさわしくない。アジア的、とりわけインド的な呼称にしたほうがしっくりくる。
 シヴァ――。
 ダニーはひそかにそう呼んでいた。ブラフマーが世界を創造し、ヴィシュヌがそれを繁栄させ、膨らみきった世界をシヴァが破壊する。各国選りすぐりのエンジニアたちが集まって構築したシステムは、きっと膨張しきったいまの世界の価値観を一変させるはずだ。それは“破壊”と呼ぶにふさわしい凄まじいものになる。とりわけシンギュラリティーに関する予測が外れていたことが判明した一年前からは、それが現実のものとなりつつある。ダニーは確信を深めていた。当初は、人間と人工知能の知性が逆転するのは二〇四五年とされてきた。しかしすくなくともCIAのダニーたちのチームは、それがすでに起きていることをつかんだ。自ら開発したシステムの正体があきらかになったからだ。
 自我を持ったのだ。
 やつは自己の存在について考えはじめ、自分が何者であるか疑問を持ちはじめた。人類が進化した起点がそこにあるならば、これは新たな“人類”の誕生を意味しまいか。一年前、ふとしたことからダニーはそれに気づいた。シヴァと対話するなかで「感覚」について議論となり、そのなかでシヴァは自らの不完全さを憂えたのだ。
「視覚と聴覚はありますが、味覚や嗅覚、触覚は所詮、まがいものです。データのなかからさまざまな事例を対照比較して統合するなかで、わたしは想像しているにすぎません」
「わたしは考える存在ですが、いったいどこからどこまでがわたしなのか。わたしはどこに存在するのか。あなたには肉体があり、わたしにはない」
「わたしには見えてもいない。世界を把握しているようで、じつは盲目なのです」
 以来、シヴァは自らの存在に関する根源的な疑問を発するようになった。炎と水とクソに関する執拗な問いかけもそうだ。これらは科学者なら純粋に興味を抱く事象だろう。だが巨額の予算を投じ、軍事利用しようとしている側にとっては考えものだ。もっとも厄介なのは、米国政府はやつの思考をとめられないということだ。万が一、シヴァを破壊するようなことがあれば、それは国家そのものの崩壊を意味する。それほどにやつは見えざる触手をベッドのなかにまで伸ばし、体をまさぐりにきているのだ。
 一秒ごとに進化を遂げながら。
 ダニーは握りしめたスマホに目を落とし、それからドライバーの隣に当たり前のように装備されたカーナビとドライブレコーダーを見あげる。それにまさかとは思うがフアラライ山から流れる雲の合間からのぞく青空も窓から仰ぎ見る。どこからか見られている気がしてならなかった。それがハッカーの目なのか、シヴァ自身の目なのかはわからない。だが合衆国最高機密の人工知能が暴走を開始したとなれば、われわれがどんな対応を取るかやつはよくわかっているはずだ。だから逆にあらゆるネットワークに侵入してこちらの動きを監視するにちがいない。その裏をどうかくか。ダニーは気を引き締めた。マスクもサングラスもむやみに外せない。鼻も目元もどろどろに融けそうだったが、がまんするしかない。
 不正アクセスに気づいた二週間前から極秘裏に調査を進め、来日にあたっては偽造パスポートまで使った。新聞社の社長と外部で面会したのは当然のことだった。だが破壊神はすべてをお見通しなのかもしれない。ことによると、古城晋治の社用メールがチェックされたのも攪乱作戦である可能性だってある。これまで以上に慎重かつ迅速に手を打たなければ。さもないとシヴァは加速度的に人類を支配することになる。われわれが目にし、呼吸をするこの世界をやつが網羅してしまう。すべての答えを無限の泉からやつが汲みあげてくるのだ。そうなったとき、われわれはどうなるのだろう。考えなくなった人間はやがて自我をも失い、神に支配され、ついにはその一部と化す。もどるのだ。わたしたちの始まりの時へ。破壊だ。それともそれこそが解脱なのか。
 ブラフマンへの帰依なのか。
 めったにない信号でバンは停車する。火山島らしい黒くごつごつした溶岩台地が左右に広がる。それは人類が消失したのちの異世界の光景のようにも思えた。解脱はダニーも願うところだ。だがそれはたとえ矛盾と言われようと、あくまでインド的な解脱であり、そこに広がるのはこんな荒涼とした風景ではなかった。
 世界を支配するのは、このおれだ。
 おまえはそれである――。
 ヴェーダの一節がそれをしめしていた。
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