第5話
文字数 1,363文字
スライの死の後も、挑戦者は城に押しかけました。しかし、九十八個を見つける者は現れませんでした。今度の者も駄目だろうか、と王様が考えていた矢先のことです。
「王様! 彼が九十八個を見つけました!」
顔も服も汚れたみすぼらしい男が、両側の兵士に支えられながら現れました。砂漠の乾燥と暑さにやられたのか、肌も唇も喉も、化石のようにかわいていました。
見かねた王様が水を与えさせると、男は礼を言って頭を下げました。
「面 を上げよ。お前の名は?」
「オネストといいます。……王様、無理を承知で申し上げます。どうか、日が落ちるまで時間をください! 残りの二個をどうにか探し出したいのです!」
再び頭を下げるオネスト。兵士の一人が王様に耳打ちします。
「王様、彼はエメラルド探しに熱心になるあまり、砂漠で干からびる程度には根性のある男です。先ほど検じたところ、エメラルドも全て本物。彼ならば、姫様を任せられるのでは?」
「うむ……」
兵士と入れ替わった家来が、耳打ちを引き継ぎます。
「聞いたところによると、オネストはかなりの善人。自身の困窮 にもかかわらず、食糧を分け、金を貸し、無償で他人の仕事を手伝っているそうです。国民は彼を聖人と呼んでいます。彼ならば、姫様を任せられるのでは?」
「うむ!」
王様は力強く頷くと、オネストの頭を上げさせました。オネストの汚れた顔の中には、淀 みのないエメラルドが二つ光っていました。同じ色の宝石を持つ者同士、王様は運命じみたものを感じ取りました。
「オネスト、お前が砂漠に戻る必要はない」
「そんな! 私は……」
「お前の心が清いことを、お前の行動とそこの家来の言葉とで確信した。わしは、お前を花婿として迎え入れたい」
「し、しかし、エメラルドが九十八個しか……」
「良いのだ。エメラルドは砂漠に九十八個しかなかったのだから。挑戦者の人間性を見極めるため、わしは嘘をついていたのだ。許してくれ……」
今度は王様が頭を下げるのを、オネストが必死に止めます。彼の慌てように、王様は笑みをこぼしました。
「実は、残りの二個はわしが持っているのだ。手ずから花婿に渡したくてな」
王様は、家来から恭 しく差し出されたそれ を受け取ると、オネストの掌の上に乗せました。
オネストが開いてみると、エメラルドがはめこまれた世にも美しい指輪が二つ、彼と対面しました。エメラルドは、若々しい青葉のそよぎを彼の脳裏に映し出しました。
「これは……」
「結婚指輪だ。一つはお前の手、一つは姫の手にはめてやってくれ」
オネストは妻となる女性に、一歩一歩を踏みしめるように歩み寄ると、彼女の左手をとりました。持ち上げた手は綿のように軽く、彼は感嘆の息をもらしました。
「私と結婚してくださいますか?」
「ええ、もちろん……」
王様がオネストの人柄を認めたかたわらで、姫もまたオネストに惹かれていました。オネストがどれほど善人なのか姫は知りませんでしたが、彼からの真摯な愛情を、顔を合わせた瞬間から感じていたのです。
愛情で繋がれた二人は、婚姻の印をつけた手を互いの背に回し、ひしと抱き合いました。
王様の目からは、涙の粒がしたたり、喜びの雨が降りました。
「王様! 彼が九十八個を見つけました!」
顔も服も汚れたみすぼらしい男が、両側の兵士に支えられながら現れました。砂漠の乾燥と暑さにやられたのか、肌も唇も喉も、化石のようにかわいていました。
見かねた王様が水を与えさせると、男は礼を言って頭を下げました。
「
「オネストといいます。……王様、無理を承知で申し上げます。どうか、日が落ちるまで時間をください! 残りの二個をどうにか探し出したいのです!」
再び頭を下げるオネスト。兵士の一人が王様に耳打ちします。
「王様、彼はエメラルド探しに熱心になるあまり、砂漠で干からびる程度には根性のある男です。先ほど検じたところ、エメラルドも全て本物。彼ならば、姫様を任せられるのでは?」
「うむ……」
兵士と入れ替わった家来が、耳打ちを引き継ぎます。
「聞いたところによると、オネストはかなりの善人。自身の
「うむ!」
王様は力強く頷くと、オネストの頭を上げさせました。オネストの汚れた顔の中には、
「オネスト、お前が砂漠に戻る必要はない」
「そんな! 私は……」
「お前の心が清いことを、お前の行動とそこの家来の言葉とで確信した。わしは、お前を花婿として迎え入れたい」
「し、しかし、エメラルドが九十八個しか……」
「良いのだ。エメラルドは砂漠に九十八個しかなかったのだから。挑戦者の人間性を見極めるため、わしは嘘をついていたのだ。許してくれ……」
今度は王様が頭を下げるのを、オネストが必死に止めます。彼の慌てように、王様は笑みをこぼしました。
「実は、残りの二個はわしが持っているのだ。手ずから花婿に渡したくてな」
王様は、家来から
オネストが開いてみると、エメラルドがはめこまれた世にも美しい指輪が二つ、彼と対面しました。エメラルドは、若々しい青葉のそよぎを彼の脳裏に映し出しました。
「これは……」
「結婚指輪だ。一つはお前の手、一つは姫の手にはめてやってくれ」
オネストは妻となる女性に、一歩一歩を踏みしめるように歩み寄ると、彼女の左手をとりました。持ち上げた手は綿のように軽く、彼は感嘆の息をもらしました。
「私と結婚してくださいますか?」
「ええ、もちろん……」
王様がオネストの人柄を認めたかたわらで、姫もまたオネストに惹かれていました。オネストがどれほど善人なのか姫は知りませんでしたが、彼からの真摯な愛情を、顔を合わせた瞬間から感じていたのです。
愛情で繋がれた二人は、婚姻の印をつけた手を互いの背に回し、ひしと抱き合いました。
王様の目からは、涙の粒がしたたり、喜びの雨が降りました。