番外:幻の大集合

文字数 3,305文字

季節外れの雪が降った日

「妖怪退治」を理由に一人で外出したお姉ちゃんを、私はこっそり尾行した

結論から言うと、お姉ちゃんは嘘なんてついていなかった
どう見ても、「それ」は人外だった

……妖怪かどうかは分からないけど

お姉ちゃんは、「それ」を発見するや否や、躊躇なく襲い掛かった

「それ」は必死に逃げ惑ったけど、あっという間に距離を詰められて、殴る蹴るの暴行を受けた

原型を留めないほどにボコボコにされた「それ」がぼそりと呟いた


「なんで、俺ばかりが、こんな目にあう」

その瞬間だった
「それ」が巨大化したのは……そして、お姉ちゃんは……あいつに取り込まれて……ううっ
……そっかぁ。ありがとう、教えてくれて
……ほんとに、助けてくれるの? お姉ちゃんのこと
だいじょーぶ。安心して、こー見えてもわたし、少しはやるんだよぉ?
ぶおおおおおおっ!!
……イワタ。かわいそうに
それじゃ、行ってくるね♪
飛んだ……!?
ぶおおおおおおっ!!
イワタ、りぽだよ、分かる?
ごおおおおおお……
ほら、さっきまで一緒に雪合戦してたよね?

また、一緒にやろーよ♪

……がああああああっ!!

(全力チョッピングライト)

きゃ!?
ガキーンッ
……あれ?
ふぅー、危ない、危ない

あなた、ひょっとしてあのパンチをはじき返したの?

すごーい!

んー? まあね♡

てか、あんたこそ、何で宙に浮かんでるのさ?

えっと……なんとなく、かなぁ
くくっ……いいね。あんたもただ者じゃなさそう♡


でも、流石にアレは相手が悪いよ……ぬいぐるみにした子が『覚醒』するなんて初めてだ

イワッチョにそこまでの潜在能力があったなんてねぇ

!!

あなた、イワタと知り合いなの?

??

あんたこそ……

ドガーンッ!!
!?
オ……オ゛オ゛オ゛
いいぞ、ナナナ。雷はヤツに効くようだ
うう……でもまだ全然元気そう……早く死んでくれないかしら……
あと数発撃てば、流石にヤツも立ってられないだろう
数発!? 冗談じゃないわよ! 一発撃つだけでどんだけ体力消耗すると思ってんの??

ああ、やっぱ逃げとくべきだったわ……

……BOSEが巻き込まれて死んでもいいのか?
しつこい!! 分かってるわよ!!

だからこーやって戦ってるんじゃないの!!

愚痴くらい大目に見てよ!!

……悪かったよ(最初はどうなることかと思ったが……どうやら一応、腹はくくってるようだな)
だめだよっ!!
へぇ?
イワタを攻撃しちゃだめ!

中に「お姉ちゃん」もいるんだよ!?

……なにあんた?

あんたも魔法少女?

ほぇ?
……
!! お、お前は、まさか……
……シーッ♡
(マジでまだ生きてたのか……『伝説の魔法少女』)
な、なんなのよ。つーか、攻撃しちゃだめって、じゃあどうすんのよ「アレ」
アガアアアアアアッ!!
ほら、私の「電撃魔法」で動きを抑えたおかげでまだ本格的な被害こそ出てないけど……そろそろヤバいわよ!?
でも……「お姉ちゃん」が……
あー、確かにいるね、あの中に、ヒト
え……
雪とあいつの叫び声でゆっくり寝られないの……


だから、ちょっとだけ手伝ってあげる

(だれだ?)
(だれかな?)
もう! 次から次へとなんなのよ!!
ぼくはね、忍者なの。以上

それじゃ、いくよ


忍法・強制排泄の術!!

ぐ、おおお……お?


……お゛おおお゛おお゛お゛んっ!!

ぷりんっ
あ、出てきた
「お姉ちゃん」だ! 良かったぁ♪
……なんか、汚いわね
それじゃ、あとはよろしくなの
お姉ちゃん!!
う……むう、ここは
良かった! 生きてる!
……そうか、私はあの妖怪に食べられて……


……不甲斐ない

だからぁ、もう手遅れなの、分かる?

イワッチョから自我は完全に失われて、今のアレはただのバケモノってわけ

あんたもさっき、殺されかけたじゃん?

でも、イワタはさっきまでわたしたちと一緒に雪合戦してたの!

ともだちなんだよ! イワタは!

あんたらの意見なんてどうでもいいわ

体力が回復次第、速攻で撃つし

早くしてなの

空腹だから忍術はもう使いたくないの

……なんだ。妙なオナゴだらけだな
お姉ちゃん、帰ろう

きっとこの(妙な)人たちが何とかしてくれるよ

……そうはいかん
え……?
実はな……あいつの腹の中にいる間、私はあいつの精神と繋がっていたんだ


……あいつは死にたがっていた

死に……
わけも分からず、バケモノになって……暴れまわって……本当はそんなことしたくないのに……誰か、俺を止めてくれ……


あいつはひたすら、そう願っていたよ

ガガアアアアアアッ!!
うわああああ!
南無阿弥陀仏!
ひいいいいっ
ああっ、街のみんながっ……!


イワタ、やめてぇ!!

ナナナ、まだか!?
急かさないでよっ!!(雪を降らせるのに莫大な魔力を使ったせいで体力の戻りが遅い……!)
ゴッ
!?
え……なにが、起こったの……?
パンチ一撃でひっくり返した……あの巨体を……

(何者?)

イワタ……
君は、あいつの友達なのか?
う……うんっ
そうか……すまんな
!……ううん


わたしもね


ほんとは、分かってたから


わたし、未来のことがね、少しだけ視えるの


だから、分かってたんだぁ……


イワタはもう……

グギャア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!
お姉ちゃん……
心配ない。もう、あんなヘマはしない
10年ぶりに……全力を出そう


ぐおぉぉぉっ……百パーセント中のぉ……

ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛
百パーセントぉ!!


ん門前払いぃぃぃぃっ!!!

カッ
!!
……
……アリガ……
数分後……
……ただのパンチで跡形もなく消し飛ばすなんて


なんなのよあいつ

あいつも魔法少女なわけ??

いや……少なくとも、俺は知らん

別の次元の『ナニカ』だろうな……おそらく

へぇ……♡
……ぐすっ
あの……お姉ちゃんを助けようとしてくれて……ありがとうね
え……ううん

わたしは結局、なんの役にも立たなかったよぉ

……イワタも助けられなかった

キミのお姉ちゃんを助けたのは実際、ボクなの

だからお礼してくれてもいいの

あ、じゃあ……殴っていいよ、好きなだけ
え……え、遠慮しておくの
あ! BOSEくんっ! 大丈夫!?
あ……椎名さん

はは……不覚だよ……あの怪獣の足踏みだけで……このザマさ

早く救急車呼ばないとっ(思ったより傷が深い……!)
多分、間に合わ、ないよ……なんせ、周囲がこんな状況じゃ……ね
うう……痛いよぉ
誰か……助けてくれぇ
うっ……(よく見たら、人的被害が既にかなり……)
え!? カネジュン??

どうして……まっすぐお家に帰ることって言ったのに……

……だって、りぽりんの様子、おかしかったから……
うぅ、血が……止まらないよぉ……
(ありゃー、大変なことになっちゃったなぁ。責任ちょっとは感じちゃうなぁ)
……(眠いの。そろそろ帰ってもいいかな?)


……ねぇ、あんたさ

さっきの忍術とかで、この状況なんとかできたりしない?

……お腹空いてるし眠いから無理なの
(全快だったら可能ってことか)

あとでご飯おごるからさぁ、頼むよぉ♡

……牛丼大盛でもいいの?
極厚ステーキでもいいよ?♡
絶対、約束なの


……忍法・超回復の術&記憶喪失の術!!

パアアアッ
はあ……はあ……こ、これで……この事件を目撃した者全員の記憶は消えたの……あと……負傷者も完璧に治したの……ぜえ……ぜえ
……あれ、あたし、こんなとこで何してたんだっけ?
あ、駄目だ……チカラが人間並みに……

このままじゃ悪い男の子に襲われちゃうの……


忍法、変化の術!!

ボンッ
…………
…………
さあ、早く、極厚ステーキを奢ってくれないか
はい?

悪いけど、ナンパはお断りでーす♡

え……


……ひどいの

それぞれ、腑に落ちない気持ちを抱えたまま、ぼんやりとした頭のまま、なんとなく帰路についたという……
そして数日後
最近、お姉ちゃんがちょくちょく一人で家を抜け出してること、私、知ってるんだよ?
……そうか

いや、別に隠したかったわけではなく、言っても信じてもらえないと思っていてな


……実は、私な、最近、妖怪退治をしているんだ

……
その妖怪どもが、実にいい感じでな

人間に比べてかなりタフだし、程よく抵抗してくるし……最期なんてさ、断末魔をあげて消滅するんだよ! 最高だ……あいつらは

……ねえ、お姉ちゃん

なんだ?
なんか、前にもこんな会話しなかったっけ?
……そうか?
!?
そっか、やっぱり気のせいかな

(……てかお姉ちゃん、妖怪とか絶対ウソでしょ)

…………気のせい、だろうな
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登場人物紹介

門前原逸魅(もんぜんばらいつみ)。

双子の姉。16歳。

生まれつき、人間離れした戦闘力を持つ。

彼女にとって、性欲の発散≒暴力であるが、常人相手では軽く小突いただけで殺しかねないため、定期的に妹をサンドバックにすることで紛らわしている。

しかし、最近は彼女曰く『妖怪退治』に精を出している模様で、肌のツヤが良い。

門前原逸雲(もんぜんばらいつも)。

双子の妹。16歳。

生まれつき、異様に頑丈な身体を持つ。

彼女にとって、人生=姉である。つまりは姉を崇拝している。

姉の性欲(≒暴欲)を発散させるため、サンドバックの役目を買って出たのは13歳の頃であった。

しかし、最近は姉が『妖怪退治』に精を出しているようで面白くない。

妖怪など姉の嘘であり、本当は自分よりも魅力的なサンドバックと出会ったのだろうと確信している。


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