第5話(8)

エピソード文字数 2,333文字

「おいっ、邪魔だって言ってんだろ! 聞こえてんのかっ?」

 ああ、聞こえてる。よーく聞こえてる。
 だからお前達に、アレを見せてやるよ。

「このガキが! なんとか言えってんだよっ!」
「こっちはさっきから喋ってるんだぞっ? 口を動かせや――」
「にゅぽぺは? ぽけろれげ?」

 俺は寄り目にしてベロを出し、蟹股で奇声を発した。

「「は?」」
「しゅぺりぽぺ! むぽれぺぽりぽぴぴ~!」
「「……はっ?」」
「むぺ? ぽけぽったー、びりびりぼー! しめーろべりん、ぐちょぼりがー!」
「「…………は? え?」」
「とぺぺむりーべる! だだいばん! ぴるぴるぽっぽろ! にょりんぱん!」

 ここで、鼻息すーはすーはーを追加。更に俺は、腰をリズミカルに横に振る。

「さーれぱたむ! かんどろべごだ! ちーらーるんべんっ、はしえのぽー!」
「…………コイツ……。急にどうしたんだ……?」
「ぽぽしまえぐー! みあちあるんるんっ。ばむろりーむるー!」
「…………わ、わかんねー。普通じゃ、ねぇよ……」
「ほみちのぺっちー! わいふじめんとい! ぐじびぐぴっちゃん!」
「「…………………………」」
「こみめりむったんっ! ちょらみちぬさぬさ! てきときとれっち、れおばえのぽりもとー!」
「…………か、完璧イカレテやがる……。も、もう行こうぜ……」
「あ、ああ……。なんなんだよこの男は……」

 奇行を目の当たりにした二人は青褪め、逃げるようにその場を去った。
 ……ふぅ。作戦、成功だな。

「ぁ……あの。兄様、その……です」
「はい、このようにヘンなのは消えました。別の男が来ても追い払うから、ゆっくり遊びなさいな」

 俺は敢えて一方的に喋って左目を瞑り、元の位置に戻って座る。そうして引き続き一休みをしていたら、クスッという笑い声が耳朶を打った。

「合点がいったわ。今日従兄くんが同行したのは、ガーディアンになる為だったのね」
「…………アイツはご覧の通り、絶世の美少女だからねぇ。必ず、しかもしつこく声をかけられるんだわ」

 だから、追い払わないといけない。けれど俺は異能なしだと弱くて、むこうが腕力を用いたら負けてしまう。
 そのためずっと、ああやって撃退してきた。人は喧嘩が強いヤツより不気味なヤツにビビる傾向があるので、あのようにしてきたのだ。

「今日は、育月の数少ない休日だからね。あんな連中に、楽しい時間を削れたくないんだよ」
「えっ? 数少ないって……?」
「農家は基本休みがなく、年中無休と言っていいんだ。休んじゃったら、育てたモノがダメになるからね」

 ちょっと怠ると、すぐ水の泡になる。家族だけでする農業ってのは、そういうもんだ。

「しかも育月の場合はピーマンを作りつつピーマンの研究をして、空いた時間は他の野菜の世話をしてる。大袈裟ではなく、一日の大半を農業に使ってるんだよ」

 中学生の頃は、全ての休日を。今現在は、全ての日を使っている。

「まあ育月は農業大好きっ子で、それは苦痛じゃなくてハッピー。でもさ、今のアイツの顔はどうなってる?」
「とても、活き活きしてるわ。ピーマンの時と同じくらい」
「そう。育月は、俺と同い年――普通の女の子でもあるからね。やっぱ、買い物とか海遊びとかも好きなんだよ」

 ここで俺は視線を従妹に向け、隣に戻す。

「なので1年に2回、思いっきり遊ぶ日を作ったんだ。農業は伯父さん伯母さんに任せて、朝から夜までパーッと騒ぐの」
「そっか。それで貴方は……」
「気分を害する要素を、すべて排除してる。二律背反するあの子の気持ちを知ってるから、何が何でも里帰りして、この予定をキャンセルしたくなかったんだよ」

 それと、今日は『アレ』もある。だから何があっても、一日ずらすことさえもしたくなかったんだ。

「………………妹を陰で守る、お兄ちゃんか。育月さんは幸せ者ね」

 シズナは、優しく一笑。そこに嫉妬の色は微塵もなく、彼女は穏やかに目尻を下げた。

「とっても立派なお兄さんがいて、そんな人に想ってもらえる。それって、すごく幸せな事だわ」
「いやぁ。俺はそんな立派じゃないし、育月もそこまで幸せじゃないと思うよ? 従兄は異能抜きだとひ弱で、あんな方法でしか撃退できないんだし」
「ううん。私だったら、その方が嬉しいわ」

 シズナは即座に、小さく首を振る。

「だって、精一杯自分を守ってくれているんだもの。彼女もきっとそう思ってるわよ」
「ぅーん、そっかなぁ。そうだといいんだけどねぇ」

 と返しましたが、それは有り得ないのよ。アイツにとって俺は下僕で、アレは当たり前の行動と思ってるんだもん……。

『なぁ優星。それは、お前が鈍感なだけじゃないのか?』

 ほぅ、だったら謎の声よ。密かに感謝してるヤツが、ボールを顔面に当てといて快哉を叫びますか?

『………………。前言撤回する』

 わかってくれれば、いいのです。
 でもね、カッコをつけるんじゃないんだけど――俺は、見返りを求めていない。アイツが休日を満喫できたら、それでいいのだ。

「私は本当に、育月さんが羨ましい。いつか私も、彼女のような存在になりたいわ」
「………………………………」
「? 従兄くん、怖い顔をしてどうしたの? 今、妙な事を発したかしら?」
「……いんや。そうじゃないんだ……」

 シズナは、なにも悪くない。こうなっているのは、この人が原因ではないのだ。

「??? なら、どうしてそうなっているの?」
「………………昨日、ね。育月に会いに行くって言ってた不審な女が、そこにいるんだよ……!」
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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