第8話 易者の助力

エピソード文字数 1,323文字


 髪の毛はぐしゃぐしゃ、顔に三本の筋を作って引き返した五郎。
「いまのはなんだ? 化物か? いや、なにかタネがあるに決まってる。今度こそ、あいつらをギャフンと言わせてやるぜ」

 ひとりつぶやきつつ、肩で風を切って町を歩いている。すると、彼に声をかけるものがいた。
「もしもし、なにかお悩みでは?」
 みやると、易者がひとり、これ以上ないってぐらいの真顔で五郎を見つめているのである。
「ほっとけ!」
 五郎は、拳を振り回して脅した。

「痛い目にあいたいのかよ!」
「いけませんな。あなたには、モノノケの類いが取り憑いておる。わたしには、それがわかります。なぜなら先祖が陰陽師でして、モノノケと戦ったこともあるのです。ご相談にのりますよ」
 むしろ事務的な口調で、易者。

 五郎は、易者をしげしげ、観察した。額にこぶがついていて、浅黒い肌をしている。服は易者らしい質のいい着物姿だ。手に虫メガネをかかげている。
「そうかい、それじゃあ相談に乗ってもらおうか」五郎は、自分の手相を易者に見せながら、怒涛のように口走った。

「あと少しで長屋の連中を追い出せるはずだったのに、壊したはずのものがぜーんぶ、直ってやがるんだ! 長屋の連中、みんな弁当ひろげて芸者を呼んで大騒ぎさ。どこからカネが出てるのかは知らねーが、胸くそ悪いったらねえや」
 五郎は、むしゃくしゃする胸のうちを吐き出し、自分の悩みを打ち明けた。
「長屋の連中、とは?」
 五郎は、問われるままに、事情を説明した。
「その長屋に住んでおられるのは、八っつあんとその妻トメ、ご隠居、そして浪人の小鳥遊の四人。それで全員ですね?」

 菅原は、右指を折って確認した。
「一番手強いのは小鳥遊だ。ヤツは浪人だし、昔はかなりの剣豪だったらしい。もっとも、いまはすっかり見る影もない。鍛錬もせずに部屋に引きこもってばかりいる。なにせヤツは貧乏旗本の三男坊。時代も変わっちまって、食うや食わずの生活さ」

 五郎はバカにしきっている。
「あの長屋でマトモと言えるのは、八っつあんだけでな。ヤツには棺桶に右足を突っ込んだ奥さんのトメがいる。二人とももう六十、たいした障害じゃねえし、ご隠居に至っては骨董と酒以外は興味がねえんだ。だからみんなを追い出すのは、チョロいはずだったんだ」

 最後のあたりは、グチが入っている。
 易者は改めて、巨大な虫メガネで、とっくりと五郎の右手を見やった。
「おそらく、長屋のご隠居さんが、趣味の骨董品を売り払ってお金を作ったのでしょう。どなたか、強力な味方をそのお金で雇ったに違いありません」
 五郎は、勢いよく易者の机に手を叩きつけた。机が音を立てて揺らいだ。
「骨董品は、ぜんぶダメにしたはずだ!」

「ふむ……。きみょうな波動を感じます。これはあやかしの波動……。元陰陽師としては、放っておくことはできません。よければわたしを、雇っていただきませんか。そのあやかしを、わたしの呪術で退治してみせます」

 五郎は、巨大な虫メガネの向こうに見える、青白い痩せた顔を、とっくりと眺めた。
 どことなく、うさんくさい。
 ほかに味方のアテは、なかった。
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