人外系アイドル行進曲

エピソードの総文字数=1,870文字

「いっくぞぉー!」
 流歌がそう叫んでスチールマンに飛びかかり、拳を打ち込もうとした。が、
「甘いっ! 甘いぞっ」
 スチールマンが軽くそれをいなす。ひるまずに流歌が猛スピードで連打するが、スチールマンはことごとくかわしていく。
(ルカちゃんのスピードも人間離れしてるけど、これは格が違うわ……)
 ステージに立つ真夜は二人のアクションを必死に目で追っていた。テレビでプロのボクシングやプロレスの試合を目にすることはあるが、流歌はスピードだけならそれ以上ではないか。そしてその流歌を子ども扱いしているスチールマン……鎌倉健の運動能力がどれだけのものなのか、真夜には想像もつかない。
 打ち合わせの際に流歌が「他の仕事もある中でアクションを覚えるなんて無理だと思うっす……」と、申し訳なさそうに言うと、
「そりゃそうだと思う。だから、君は何も考えずに僕に攻撃してくれればいいよ。手加減も必要ない。全力でOKだ。僕なら、フルスピードの君の攻撃についていける」
 鎌倉はそう笑って答えていた。
 そして現実にその通りの状況になっている。流歌が繰り出す突きも蹴りも、鎌倉はすべて見切っているようだ。男女の差もあるだろうし、日頃からの鍛錬の差もあるのだろう。流歌はダンスのレッスンはしているが、格闘技には縁が無かったという。
「子どもの頃は兄ちゃんと取っ組み合いの喧嘩をして流血沙汰になったのもしょっちゅうだったっす。その時の感じを思い出してやってみます!」
 などと言っていたので真夜はハラハラしていたのだが、無用の心配だったようだ。鎌倉は自分の防御どころか、攻撃の反動で流歌が怪我をしないように気を遣っているように見える。
「ほらほら、どうした。そんなものかオオカミ少女ちゃん」
 鎌倉は軽口を叩く余裕すらある。
(完敗だねえ、ルカちゃん)
 真夜は苦笑するしかなかった。が、当の流歌は攻撃をかわされ続けるうえに煽られて、頭に血が昇ってきたようだ。
「こんのおおぉぉっ!」
 助走をつけて鎌倉に殴りかかったが、破れかぶれが通用するはずはなかった。流歌の拳が鎌倉に当たりそうになった瞬間、
「あれっ?」
 流歌の体が一〇メートルほど宙に浮いていた。合気道のような投げ技を使ったのか、鎌鼬だけに風を操ったのか。真夜には想像もつかない。
「受け止めてやるんだ!」
 鎌倉の叫び声が聞こえて、真夜は我に返った。流歌の体が不自然なまでにゆっくりと落ちてくる。真夜は急いで落下点に向かった。これも打ち合わせ通りだった。鎌倉がちょっとしたつむじ風を吹かせてくれるおかげで、流歌の体が地面に叩きつけられることはない。とはいっても、どんくさい真夜にしてみれば余裕があるわけでもない。
「ルカ!」
 パラシュートのようにふわりふわりと落下してくる流歌の体を、真夜はしっかりと両手で抱き止める。いわゆるお姫様抱っこの形だ。
「とっとっとっ!」
 ついよろめいてしまった……が、背後から何か強い力に支えられ、倒れ込まずに済んだ。真夜が顔を回して背後を確認すると、支えてくれていたのは当然フランだった。何も言わず、口元をほんの少し緩めてこちらを見ている。真夜も無言のまま笑顔で返事をしてやった。真夜は再び正面に向き直り、流歌に声をかけてやる。
「大丈夫?」
「真夜さ……カーミラ様ぁぁぁーっ!」
 流歌が強烈に抱きついてきた。
「痛い痛い痛いっ!」
「ありがとうございますーっ!」
「別にそんな……」
 と、客席から大きな拍手が起こった。真夜は思わず流歌と顔を見合わせた。流歌もまた、きょとんとしている。雰囲気的に、この拍手はスチールマンに向けられたものというよりも……。
「やれやれ、まいったね。正義のヒーローはこちらのはずなのに」
 鎌倉のスチールマンがオーバーに肩をすくめて言った。客席からは笑いが漏れる。
「女の子ががんばっているところを見ると応援したくなるのが人情というものなんでしょう。なんだか、戦うのがバカバカしくなってきちゃったな。どうだろう君たち、一時休戦といかないか?」
 鎌倉がそう言うと、再び客席から拍手が起こった。真夜は流歌、フランと顔を見合わせて笑う。客席のリアクションまで含めて、こんなに台本通りに進むなんて!
 真夜は流歌をステージに下ろすと、
「仕方ないですね。では、仲直りの記念ということで……」
 憎きヒーローを指差して叫んだ。
「スチールマンのテーマソング『鋼の心だ! スチールマン』を一緒に歌いましょうか! 会場の皆さんもね!」

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