『風景の中で人と言葉とが繋がるとき』
文字数 430文字
ぽっかりと
薄桃色の雲が浮かぶ日暮れ前
ふと
あの人はいまどうしているのかな
と思い出す
小説を書いているだろうか
子育てと仕事に忙殺されてはいないだろうか
同じ街のどこかに住む人と
創作の場ですれ違っただけ
それでも心は
薄桃色の雲をみると
青い山並みをみると
読んだ物語を思い出す
あの人とともに
紅葉に染まる白樺並木
美しさに見惚れて歩く昼下がり
「白樺は秋がいい」
詩を書いていたその人は言った
いや正確には 詩の中で そう表現していた
青空と新緑の葉
その中に映える白い幹
初夏のまぶしい陽射しが似合う
それが私の持つ白樺のイメージだった
あのあと その人は 白樺のない
遠く南の島へと越していった
今はどんな樹々にかこまれて
どんな詩を書いているだろう
白樺の秋を味わいながら
詩のフレーズを思い返す
その人とともに
言葉を紡いでくれていることで
繋がることができた人たちが確かにいた
今は遠い遠い彼等が
目の前の風景に溶け込む瞬間がある
想いを馳せるだけで切なさすら生むけれど
それはきっと 幸せとよんでいいのだろう