第16話女子大生 五月 京都出身

文字数 1,239文字

今日の飛鳥目当ての客は、すぐ近くの大学の女子大生、五月。
飛鳥が、「いらっしゃいませ、五月さん」と、やさしく声をかけると、花のような笑顔。
「うれしい、感激や」と、関西のイントネーション、飛鳥の前に座る。

飛鳥は、やさしい顔のまま、「東京は慣れました?」と、ラズベリー風味の冷水を五月の前に置く。

五月は、その冷水を一口飲んで、「はぁ・・・ええ感じや」と満足そうな顔。
「ほんま、慣れた・・・とまではいかんけど」
「気持ちが、すっきりや、ワクワクの連続で」

飛鳥
「かなり、カルチャーショックがあるかなと」

五月は首を横に振る。
「そうやないんです、とにかく京都から離れたくて」
「息が詰まりそうやった、いや、詰まって、死にそうやったから」
「ここに来て、生き返ったみたい」

飛鳥は、五月の前にロシアンティーを置く。
「日本から離れてしまいました」との、言葉も添える。

五月は、ジャムにも注目。
「あら・・・リンゴのジャム?」
「ええ香りや・・・また、ワクワクする」
紅茶を美味しそうに飲み、話を続ける。
「家柄も、親も関係なくて、自分の力を試したくて」
「それが、東京ではできる、と思うて」

飛鳥が頷くと、五月はまた続ける。
「とにかく京都は、生まれた場所、お家柄が大事」
「全ての基本なんです」
「それを破ったら、ぱぁっと広がって、いつまでも後ろ指や」
「それやから、挨拶、気づかい、それも大事、絶対に気を抜けん」
「結局、実力とか実績とか、後回しになって、それが嫌や」
「死に物狂いで努力して・・・例えば一等賞取るやろ?」
「それでも、格上のお屋敷のお嬢さんに、すみませんって・・・頭下げなあかん」
「だから、真面目にやっても、つまらんことで、足をすくわれる」
「そんな、意地悪をすることが大事で、好きな連中も多くて」
「いや、そんな連中ばかりや、そんな連中しか住んでおらんもの」
「いけず・・・言うんやけどな」
「ほんま、辛かった」

飛鳥は話題を変えた。
「英文学が専攻ですよね」

五月が頷くと、一冊の洋書を五月の前に置く。
「この間、話題にした、キャサリン・マンスフィールドの短編集の原書です」
「人形の家が有名かな、原文のほうが味わいがあります」

五月の目がパッと輝いた。
「え・・・貸していただけるんです?」
「うちな、探しとったんです、その人の原書」
「でも、京都で探すと、まあ、噂になるやろ?」
「あそこのお嬢様が洋書を探しとる?」
「まあ・・・お偉いことでって・・・皮肉ばかりになるから」
「親も街を歩けんようになっても、困るし」
「だから、諦めとったけど」

飛鳥は、やわらかい顔。
「ご心配なく、ここは東京の神保町です」
「本を探す、渡すは当たり前」
「そもそも、古本で、300円もしませんし、私も読み終わったので」

五月は、10分ぐらい、食い入るように原書を読み、顔を上げた。
「飛鳥さん、訳したら、添削してもらえます?」

飛鳥は、含みのある顔。
「はい、何度でも、お持ちください」

五月は、「もう・・・商売も上手や」と言いながら、目は飛鳥にくぎ付けになっている。
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