【31】意外な趣味
文字数 4,114文字
この日は朝から翼と幸栄さんが会社の備品の買い物へと出掛けていた為、珍しく男二人で留守を預かっていた。
"プルルルルルルルっ"
『はい、輪廻會舘でございます。……?あ、すみません、はい…、承知しました。明日の午前中にお待ちしております。』
「あ、寿郎出てくれてありがとう!何?難しい顔しちゃって、予約の電話だったの?」
俺が席を外していた為、珍しく電話を取った寿郎が眉間にシワをよせて、何やら考え事をしている様子だ。
『いやね、弟の家族葬の予約をしたいって電話だったんだけど、依頼者の声に聞き覚えがあってさ?どこかで聞いた声に似ているんだけど、それを思い出せないんだ…。俺、どこで聞いたんだろう…?』
「聞き覚えのある声ね~。ま、そんなに考え込まなくても、明日依頼人きたらわかるんじゃないの~?すぐに思い出せないと、モヤモヤするのはわかるけどさ!」
『ま、確かにそうだな。明日の午前中に来館するそうだから準備しておかないとな。』
「了解~、三人が帰ってくるまでに書類だけでも準備しておこう!男二人じゃ何もできないと思われるのも癇に触るからな~!」
『じゃあ匠?俺、霊柩車にガソリン入れて、ついでに洗車してくるけど大丈夫?』
「いつも悪いね!よろしく頼むよ。てか、寿郎?少し気になったんだけど…依頼人って年配の人だったの?弟の葬儀って事はさ、親や家族がいないって事だよな?」
『んー、多分だけど俺らより若いと思う。聞いた感じではもしかしたら、まだ20代とかもあり得る感じかもな…。』
『まじか…そうだとしたら、また複雑な理由がありそうだよな~。引き留めて悪い!気をつけて行ってきてな!』
寿郎が會舘を出てすぐに、翼と幸栄さんが荷物を抱えて戻ってきた。
「翼、幸栄さん、おかえりなさい。買い出しありがとう!荷物多かったから俺行けばよかったよね~?気が利かなくて申し訳ない!」
『匠君、ただいま帰りました!たまには翼と二人で旦那の愚痴を言いながら買い物するのも楽しいのよ?ね、翼?』
「あ、うんそうだねー!あれ?霊柩車ないけど、寿郎君はいつものガソリンスタンド?」
『何なの、旦那の愚痴って!どうせ俺が頼りないとか寿郎が愛想ないとかそんなこと言ってたんでしょ~?あ、寿郎は明日予約入ったからさ推理通り洗車とガソリンを入れに、二人が帰って来る少し前に出て行ったよ!』
「寿郎君は綺麗好きだもんね~?いつもマメに洗車してくれてるし。どこかの誰かさんにも少しは見習ってほしいわね?」
「…ん?翼さんは誰の事を
言っているんですかね~?」
事務所で荷物を片付けながらくだらない会話を繰り広げていると、先ほど出ていったばかりの見覚えのある霊柩車が駐車場へと戻ってきた。洗車と給油を終わらすには少し早い時間だ。財布でも忘れたか?車を降りて走って建物の方へと向かってくる寿郎。あいつがこんなに走っているのを俺は見たことがない気がするが、もしかしてトイレ…?
『 匠!匠ー!俺、思い出したんだよ!』
「はい?いきなり走って戻ってきたと思ったら俺の名前を連呼して…どうした?一体何を思い出したんだよ?」
『ほら?俺がスタンドに行く前に
話していた依頼主の声の話だよ!』
「あぁ…あれね、寿郎…まだ
思い出そうとしていたんだな。」
『当たり前だろ?!匠みたいにすぐ忘れる軽いヤツじゃないからな俺は?』
珍しく興奮気味に話している寿郎をみて翼と幸栄さんは、きょとんとした顔をしている。
『ちょっと、ちょっと、二人とも?一体何の話をしているの?寿郎も珍しく興奮しているみたいだしさ?気になるんですけど!』
「それがね?二人が出掛けて留守番している時に予約の電話がかかってきたのよ、俺近くにいなかったから寿郎が出たんだけどさ、その依頼主の声をどこかで聞いた記憶があるんだけど思い出せない!って言いながらガソリンスタンドへと出掛けて行ったのよ。もしかして寿郎…それを思い出せたから急いで帰ってきたの?」
『そうそう!いや、これは洗車している場合じゃないくらい一大事なのよ!ここを出てさいつものように、FMラジオを聴きながら走っていたんだよ。今日の番組はロックをメインにリクエスト曲を流してたんだけど、ガソリンスタンドまであと信号1つの所を走っていたら、"次のリクエスト曲は、突然活動を休止した謎だらけの覆面バンドのデビューシングル"…。って俺の大好きな曲が流れ出したわけ。それを聞いて思い出したんだ!"あ!あの依頼の電話の声だ!"って。俺は確信してしまったからどうしても早く、匠に話したくなって戻って来たってことでした。』
今まで寿郎の口から聞いたことのない量の言葉が突然発せられ、戸惑いを隠せない翼と呆れた様子で見守っている幸栄さん。
「…、寿郎君ってそんなに喋れたんだね。いつも一言二言しか話さないからさ?好きなことになるとそんなに喋るなんて…ちょっと驚きでしたわ。」
『寿郎、普段無口だけどさ音楽、とりわけロックの話になると私興味ないのに、お構いなしに"ウザい"くらい熱く語りだすのよ?』
『ウザくて悪かったな?』
「まぁまぁ!でも、寿郎?その声が本人かどうかはわからないだろ?歌っている声と話す声違う奴なんて沢山いると思うぞ?」
『匠はまだまだだな!俺がどれだけそのバンドの曲を聴いたかわかるか?毎朝、毎晩、通勤中!幸栄に何度も"いい加減にして"ってキレられるくらい数えきれないほど聴いてきたんだ!俺が間違うわけがない。』
『そうそう、朝ってさ緩やかな音楽で微睡みを楽しみながらゆっくりと起きたいじゃない?でもうちは朝昼晩、一日中関係なしに容赦のないハードロックをかけられてるの…。今はもう慣れてきたけどさ、初めは頭が変になりそうだったわよ…』
「…寿郎君がロック好きってのは知ってたけどさ?幸栄も中々大変な生活をしていたのね…。ま、うちでは朝からよくわからない古典落語とやらが流れていますけど…」
『ふふっ、何それ?お互い旦那には苦労させられていますわね?で、寿郎?予約の電話を掛けてきた人がそのバンドの人だったの?』
『百パーセントと言われたら、そこまでの自信はないけど…でも俺があの声を間違えるわけはない!…と思う。』
「わかったよ寿郎、俺は信じる!でもそのバンドはどうして突然活動を休止したんだ?」
『匠、ありがとう!…それが、理由がわからないんだよな。昨日、ネットニュースに小さく載っていただけなんだ、"活動休止"って。やっと人気が出だしてさ、これからって時だったから本当に驚いていたんだよな、俺。』
「う~ん…。寿郎の勘が的中していて、依頼主が覆面バンドの人だとする。と言う事はだよ?依頼主が弟のって、言ってたんだよな?バンドの活動が休止するって理由も弟に関係してそうだよな?バンドのメンバーってどんな構成か知ってるか?」
『メンバーで公表されてわかっている事は、ボーカルが響、ギターが奏。ドラムは弾、ベースは弦。幼なじみの四人組って事だけだな。四人共が覆面被っているから、素顔もわからないし謎だらけのバンドなんだよ!でも音楽性は本物で本気でカッコいい!これだけは確かだ!』
「まぁ、とにかく明日になれば全てがわかる!俺達にできることは、有名人だろうが一般人だろうが、分け隔てなくしっかりと準備をして故人とご遺族が最期のお別れをする手助けをする!それだけだよな。そういうことで寿郎、洗車と給油の続き頼んだぞ?」
『そうだな!了解、行ってくるよ!』
まだ興奮している様子の寿郎を、ガソリンスタンドへ送り出すと、お使いに行ってくれていた弥生ちゃんが入れ違いで戻ってきた。
『ただいま戻りました~!何か今、結構な声量で歌っている寿郎さんらしき人とすれ違ったんですけど…あれって本人ですか?』
「お帰り弥生ちゃん、お使いありがとう!店を出た後に買い忘れに気づいちゃってさ…助かりました、!…あ、見ちゃったのね?あれが、寿郎君の本性みたいよ?」
『えぇ?そうなんですか!意外です!ところで皆さんお揃いで、何かあったんですか?』
戻ってきた弥生ちゃんにも、明日の依頼人についての内容を共有する。
『…なるほど、私もそのバンドのことは知っています!詳しいわけではないんですけど、"覆面してる不思議なバンドにはまってる"って友達が言ってました!』
「へぇ?やっぱり若い子は凄いな!
俺も聴いてみたくなってきたよ!」
「匠君は、そういうのすぐ飽きるでしょ?帰って落語聴きながら一人で咄家ごっこしてるほうが楽しいわよ?きっと。」
『匠さんにそんな趣味があるなんて…。皆さん本当個性的な人達ばかりで面白いです!』
すっかり職場に馴染んでくれたようで誘った俺と翼は一安心だ。きっと、天国の飛鳥さんも喜んでくれているはず。人数が増えたこともあり明日の準備も寿郎が戻ってくるまでに終わらせることができた。
「さて皆様?今日はもうそろそろ終わりにして、また明日いつもの時間、いつもの笑顔で元気に会いましょう!」
いつもは言わない台詞を突然言い始めた俺に皆が"ポカーン"と口を開けて凝視してくる。
視線が痛い…。
『翼さん?、匠さんっていつもこんな風に挨拶で一日を締めくくるんですか?』
「いや、締めくくらないわね。こんな学校の先生みたいなこと言い出したのは今日が初めてよ!まぁ弥生ちゃんがここで働くようになってから少し締めの挨拶は増えたような気はするけど。」
『そうよ~弥生ちゃん!前までは"そろそろ止めようぜ?ビールが俺を呼んでいる!"とかワケわからないことばかり言ってたわ』
「弥生ちゃんが、ここに馴染んでくれて元気に笑ってるのが、嬉しいのかもね?」
『私も本当、ここで働けて幸せです!
明日も精一杯頑張りますね!』
そして寿郎は俺の挨拶も途中に車へと戻ると車内から覆面バンドのCDを探してきて事務所の自分のデスクの中へこっそりと忍ばせていた。
"プルルルルルルルっ"
『はい、輪廻會舘でございます。……?あ、すみません、はい…、承知しました。明日の午前中にお待ちしております。』
「あ、寿郎出てくれてありがとう!何?難しい顔しちゃって、予約の電話だったの?」
俺が席を外していた為、珍しく電話を取った寿郎が眉間にシワをよせて、何やら考え事をしている様子だ。
『いやね、弟の家族葬の予約をしたいって電話だったんだけど、依頼者の声に聞き覚えがあってさ?どこかで聞いた声に似ているんだけど、それを思い出せないんだ…。俺、どこで聞いたんだろう…?』
「聞き覚えのある声ね~。ま、そんなに考え込まなくても、明日依頼人きたらわかるんじゃないの~?すぐに思い出せないと、モヤモヤするのはわかるけどさ!」
『ま、確かにそうだな。明日の午前中に来館するそうだから準備しておかないとな。』
「了解~、三人が帰ってくるまでに書類だけでも準備しておこう!男二人じゃ何もできないと思われるのも癇に触るからな~!」
『じゃあ匠?俺、霊柩車にガソリン入れて、ついでに洗車してくるけど大丈夫?』
「いつも悪いね!よろしく頼むよ。てか、寿郎?少し気になったんだけど…依頼人って年配の人だったの?弟の葬儀って事はさ、親や家族がいないって事だよな?」
『んー、多分だけど俺らより若いと思う。聞いた感じではもしかしたら、まだ20代とかもあり得る感じかもな…。』
『まじか…そうだとしたら、また複雑な理由がありそうだよな~。引き留めて悪い!気をつけて行ってきてな!』
寿郎が會舘を出てすぐに、翼と幸栄さんが荷物を抱えて戻ってきた。
「翼、幸栄さん、おかえりなさい。買い出しありがとう!荷物多かったから俺行けばよかったよね~?気が利かなくて申し訳ない!」
『匠君、ただいま帰りました!たまには翼と二人で旦那の愚痴を言いながら買い物するのも楽しいのよ?ね、翼?』
「あ、うんそうだねー!あれ?霊柩車ないけど、寿郎君はいつものガソリンスタンド?」
『何なの、旦那の愚痴って!どうせ俺が頼りないとか寿郎が愛想ないとかそんなこと言ってたんでしょ~?あ、寿郎は明日予約入ったからさ推理通り洗車とガソリンを入れに、二人が帰って来る少し前に出て行ったよ!』
「寿郎君は綺麗好きだもんね~?いつもマメに洗車してくれてるし。どこかの誰かさんにも少しは見習ってほしいわね?」
「…ん?翼さんは誰の事を
言っているんですかね~?」
事務所で荷物を片付けながらくだらない会話を繰り広げていると、先ほど出ていったばかりの見覚えのある霊柩車が駐車場へと戻ってきた。洗車と給油を終わらすには少し早い時間だ。財布でも忘れたか?車を降りて走って建物の方へと向かってくる寿郎。あいつがこんなに走っているのを俺は見たことがない気がするが、もしかしてトイレ…?
『 匠!匠ー!俺、思い出したんだよ!』
「はい?いきなり走って戻ってきたと思ったら俺の名前を連呼して…どうした?一体何を思い出したんだよ?」
『ほら?俺がスタンドに行く前に
話していた依頼主の声の話だよ!』
「あぁ…あれね、寿郎…まだ
思い出そうとしていたんだな。」
『当たり前だろ?!匠みたいにすぐ忘れる軽いヤツじゃないからな俺は?』
珍しく興奮気味に話している寿郎をみて翼と幸栄さんは、きょとんとした顔をしている。
『ちょっと、ちょっと、二人とも?一体何の話をしているの?寿郎も珍しく興奮しているみたいだしさ?気になるんですけど!』
「それがね?二人が出掛けて留守番している時に予約の電話がかかってきたのよ、俺近くにいなかったから寿郎が出たんだけどさ、その依頼主の声をどこかで聞いた記憶があるんだけど思い出せない!って言いながらガソリンスタンドへと出掛けて行ったのよ。もしかして寿郎…それを思い出せたから急いで帰ってきたの?」
『そうそう!いや、これは洗車している場合じゃないくらい一大事なのよ!ここを出てさいつものように、FMラジオを聴きながら走っていたんだよ。今日の番組はロックをメインにリクエスト曲を流してたんだけど、ガソリンスタンドまであと信号1つの所を走っていたら、"次のリクエスト曲は、突然活動を休止した謎だらけの覆面バンドのデビューシングル"…。って俺の大好きな曲が流れ出したわけ。それを聞いて思い出したんだ!"あ!あの依頼の電話の声だ!"って。俺は確信してしまったからどうしても早く、匠に話したくなって戻って来たってことでした。』
今まで寿郎の口から聞いたことのない量の言葉が突然発せられ、戸惑いを隠せない翼と呆れた様子で見守っている幸栄さん。
「…、寿郎君ってそんなに喋れたんだね。いつも一言二言しか話さないからさ?好きなことになるとそんなに喋るなんて…ちょっと驚きでしたわ。」
『寿郎、普段無口だけどさ音楽、とりわけロックの話になると私興味ないのに、お構いなしに"ウザい"くらい熱く語りだすのよ?』
『ウザくて悪かったな?』
「まぁまぁ!でも、寿郎?その声が本人かどうかはわからないだろ?歌っている声と話す声違う奴なんて沢山いると思うぞ?」
『匠はまだまだだな!俺がどれだけそのバンドの曲を聴いたかわかるか?毎朝、毎晩、通勤中!幸栄に何度も"いい加減にして"ってキレられるくらい数えきれないほど聴いてきたんだ!俺が間違うわけがない。』
『そうそう、朝ってさ緩やかな音楽で微睡みを楽しみながらゆっくりと起きたいじゃない?でもうちは朝昼晩、一日中関係なしに容赦のないハードロックをかけられてるの…。今はもう慣れてきたけどさ、初めは頭が変になりそうだったわよ…』
「…寿郎君がロック好きってのは知ってたけどさ?幸栄も中々大変な生活をしていたのね…。ま、うちでは朝からよくわからない古典落語とやらが流れていますけど…」
『ふふっ、何それ?お互い旦那には苦労させられていますわね?で、寿郎?予約の電話を掛けてきた人がそのバンドの人だったの?』
『百パーセントと言われたら、そこまでの自信はないけど…でも俺があの声を間違えるわけはない!…と思う。』
「わかったよ寿郎、俺は信じる!でもそのバンドはどうして突然活動を休止したんだ?」
『匠、ありがとう!…それが、理由がわからないんだよな。昨日、ネットニュースに小さく載っていただけなんだ、"活動休止"って。やっと人気が出だしてさ、これからって時だったから本当に驚いていたんだよな、俺。』
「う~ん…。寿郎の勘が的中していて、依頼主が覆面バンドの人だとする。と言う事はだよ?依頼主が弟のって、言ってたんだよな?バンドの活動が休止するって理由も弟に関係してそうだよな?バンドのメンバーってどんな構成か知ってるか?」
『メンバーで公表されてわかっている事は、ボーカルが響、ギターが奏。ドラムは弾、ベースは弦。幼なじみの四人組って事だけだな。四人共が覆面被っているから、素顔もわからないし謎だらけのバンドなんだよ!でも音楽性は本物で本気でカッコいい!これだけは確かだ!』
「まぁ、とにかく明日になれば全てがわかる!俺達にできることは、有名人だろうが一般人だろうが、分け隔てなくしっかりと準備をして故人とご遺族が最期のお別れをする手助けをする!それだけだよな。そういうことで寿郎、洗車と給油の続き頼んだぞ?」
『そうだな!了解、行ってくるよ!』
まだ興奮している様子の寿郎を、ガソリンスタンドへ送り出すと、お使いに行ってくれていた弥生ちゃんが入れ違いで戻ってきた。
『ただいま戻りました~!何か今、結構な声量で歌っている寿郎さんらしき人とすれ違ったんですけど…あれって本人ですか?』
「お帰り弥生ちゃん、お使いありがとう!店を出た後に買い忘れに気づいちゃってさ…助かりました、!…あ、見ちゃったのね?あれが、寿郎君の本性みたいよ?」
『えぇ?そうなんですか!意外です!ところで皆さんお揃いで、何かあったんですか?』
戻ってきた弥生ちゃんにも、明日の依頼人についての内容を共有する。
『…なるほど、私もそのバンドのことは知っています!詳しいわけではないんですけど、"覆面してる不思議なバンドにはまってる"って友達が言ってました!』
「へぇ?やっぱり若い子は凄いな!
俺も聴いてみたくなってきたよ!」
「匠君は、そういうのすぐ飽きるでしょ?帰って落語聴きながら一人で咄家ごっこしてるほうが楽しいわよ?きっと。」
『匠さんにそんな趣味があるなんて…。皆さん本当個性的な人達ばかりで面白いです!』
すっかり職場に馴染んでくれたようで誘った俺と翼は一安心だ。きっと、天国の飛鳥さんも喜んでくれているはず。人数が増えたこともあり明日の準備も寿郎が戻ってくるまでに終わらせることができた。
「さて皆様?今日はもうそろそろ終わりにして、また明日いつもの時間、いつもの笑顔で元気に会いましょう!」
いつもは言わない台詞を突然言い始めた俺に皆が"ポカーン"と口を開けて凝視してくる。
視線が痛い…。
『翼さん?、匠さんっていつもこんな風に挨拶で一日を締めくくるんですか?』
「いや、締めくくらないわね。こんな学校の先生みたいなこと言い出したのは今日が初めてよ!まぁ弥生ちゃんがここで働くようになってから少し締めの挨拶は増えたような気はするけど。」
『そうよ~弥生ちゃん!前までは"そろそろ止めようぜ?ビールが俺を呼んでいる!"とかワケわからないことばかり言ってたわ』
「弥生ちゃんが、ここに馴染んでくれて元気に笑ってるのが、嬉しいのかもね?」
『私も本当、ここで働けて幸せです!
明日も精一杯頑張りますね!』
そして寿郎は俺の挨拶も途中に車へと戻ると車内から覆面バンドのCDを探してきて事務所の自分のデスクの中へこっそりと忍ばせていた。