最終話 日常病めれど物語

文字数 450文字

 夏風の再訪、ノックオン。

 ベランダに干されたバスタオルを、風が腕のように使いトン、トントンと窓を叩くのだ。
 居留守(いるす)を決め込みたい気分なのだが、連日の熱帯夜になかなか寝付けない上、こう何度も窓を叩かれては……。
——どうぞ。
 窓を叩く音が消える。

 吹く風も日常を生きている。
 穏やかで時に荒々しく。
 四季の匂い、芽吹く命を運んだり。
 疎まれる、害となるようなものも運ばなければならない。
 流されるように生きる中でもそれを止めない。

 時折、帽子を飛ばそうとするくらいの遊びには付き合ってあげよう。
 こうして、窓をノックする時は耳を傾けてあげよう。

 私も日常を生きる。
 時の流れには(あらが)えず、歩みを合わせ、表裏の葛藤(かっとう)を抱える。
 止めたくなる。
 病めて当然だ。

 ただ、病んでしまい、お医者様から病気のお墨付(すみつ)きをもらっても大丈夫。
 あの日感じた風は便り、鳥は目覚まし、空はどこにだって広がっている。
 そう思うだけで、また物語に出会えるのだ。
 私——あなた——がただ、そう思うだけで。

 さぁ、次はどこへ出掛けよう。
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