「三号室での生活は茶番だったようだね」

文字数 6,312文字

This is a monolog of miu takano.

つい英語で説明しちゃってごめんね。
私は何をするにしても、とっさに英語が出る癖があるの。
別に狙ってやってるわけじゃないから許してね?

さてと。今は2018年の12月27日。
一般生徒はクリスマスの後に冬休みに入った。
太盛君たち囚人たちは明日からだよ。

(7号室は完全な収容所なので
 年末年始も帰宅させないけど)

これから私がしたいこと。それはね。

「ミ、ミウ? まず話をしようじゃないか。
 人は話せば分かりあえると思う」

太盛君は、ベッドで寝かされています。
私が部下に命じて拘束したの。動かないように
いくつものベルトで両手両足、首、胴体まで縛った。

彼が唯一動かせるのは口と目だけだと思う。

「私は太盛君に手を上げるつもりはないから」

どの口がそれを言うのかと、太盛君が非難するような目で
見て来た。それも一瞬で、すぐ恐怖のため顔が引きつる。

まったくもう……。すぐ私をそういう目で見るんだから。

「私が許せないのは、そこの女だけ」

カナは、太盛君と同じ格好でベッドで寝かされている。
太盛君と仲良く隣同士。太盛君と違うのは、その女の
口がガムテープで塞がれていること。

「ここはどこなんだ? 俺は目が覚めたらこんなとこに
 いたわけだから、何が起きたのかさっぱり分からない」

「地下だよ。太盛君。
 私は君に罰を与えるためにここに招待したの」

太盛君ったら、唇まで真っ青。
全身から血の気が引いてるみたい。

実は太盛君のおびえた顔を見るのも大好き。
でもそんなことが知られたらまた彼に嫌われちゃう。

私は左手をカナの首へ伸ばした。

カナは恐怖し、ガタガタと上体を揺らし始めた。
ベッドが軽く揺れただけで、もちろんベルトからは
逃げることができない。

「首を絞めてあげようか?」

カナは涙を流しながら私を睨んだ。
そうだよね。自分の命が相手の片手に握られているなんて
悔しいし、哀しいよね。分かる分かる。
私はね。あなたのそういう顔がもっと早くから見たかったの。

今までは太盛君に嫌われるといけないからと思って
遠慮してたけど、もうそんな気にならない。
好きなようにやってみようと思ったの。

私の手元には報告書がある。
諜報広報員のトモハルから渡された、
三号室での出来事が記載されている。

日記帳でも日報とでも呼べる内容ね。

『三号室での堀太盛は、小倉カナか斎藤マリエかを
 選ぶわけでもなく、あいまいな態度を取ることに
 よって両名の人間関係が険悪なものになってしまった』

『さらに松本イツキが斎藤に対して熱烈な好意を抱いており、
 問題をさらに複雑にさせた。横田リエも元担任でありながら
 修羅場が加速するように仕向けるなど、止めるつもりが
 ないどころか、楽しんでいる』

『堀太盛が小倉カナを愛してると宣言したのは口先だけ。
 結局、彼の愛情は斎藤にだけ向けられるようになる。
 小倉と斎藤が言い争いをすると、常に斎藤の味方をする。
 小倉が斎藤に暴力を振るうと、体を張って止めさせる』

トモハルの派遣を決めたのは私。
太盛君が小倉と付き合うように仕向けさせた。

まず、マリエ。あのゴミカスを太盛君から引き離すためにね。
私はマリエが憎い。爆破テロ犯のくせに。私たちを
まとめて殺そうとしたくせに。いつまでも太盛君に
付きまとうお邪魔虫。その執念の深さは折り紙付きだよ。

太盛君も小倉への愛着が強くて困っちゃった。

そんなにバカ女どもと一緒にいたいのなら、
好きにさせてあげるよ。
浮気性の太盛君にはマリエだけじゃなくて小倉も
必要なんでしょ? そしたら修羅場になるよね?
少なくとも太盛君はマリエより小倉を選ぶはず。

その過程でマリエは決定的な敗北を感じるはずだった。

それなのに。

『俺はマリエが好きだ!! 誰が何と言おうとマリエが
 一番大切なんだ!! たとえ全員を敵に回そうと
 俺はマリエを選ぶぞ!! 恨むなら恨めよ!!

トモハルがカナとの交際を強制させ、カップル申請書まで
書かせようとしたのに。太盛君は薄情にもカナとの交際を
否定し、マリエを選ぶという暴挙に出た。

私が一番気に入らないのはね。太盛君が斎藤を選ぶこと。
斉藤は、一番許せない。私は嫉妬深い性格を自覚してる。

斉藤は美しい。斎藤は綺麗。斎藤はかわいい。頭も良い。
小柄だし、年上の男性から愛される。
三年生の男子にファンが多い。どこからから噂で
聞いたけど、ナツキ君も昔ファンだったとか。

収容所七号室でもロシア人の看守から評判の美少女だった。
私はマリエほど美しくないのが分かってる。
だから、余計に許せないの。

「もう小倉さんは太盛君には必要ない人だから、
 壊しちゃってもいいよね?」

「な……ちょっとまっ」

「ごめんね。今の質問は太盛君じゃなくて
 斎藤さんに聞いたの。ねえ。斎藤さん?」

斉藤マリエは私のそばに立っていた。
ごく普通の女子の制服姿。表情が死んでいる。

私の指示に従わなかったら
太盛君を拷問すると伝えてあるからね。

「小倉さんは、必要ない。そうだよね?」

「はい。副会長様」

「じゃあさ、あなたが処理しなさい」

「処理とは?」

「拷問して」

斉藤は激しく動揺し、言葉に詰まった。

「その顔はなに? 気が進まないの?
 殺せとは言ってないじゃない。
 ただ、二度と学園生活が送れなくなるまで
 痛めつけてあげればいいの」

私が良いと言うまでね。
斉藤はみなまで聞く前に床に崩れ落ち、
顔を両手で覆って泣き始めた。

「いやです……。私は人の子です。
 無抵抗の人を痛めつけるなんて、
 そんなことできません……」

私には泣く理由が分からない。
ロザリオ(十字架)を出す理由も分からない。
ほんとにこいつイラつくね。

「カナのこと大嫌いだったんでしょ?
 一緒の収容所で過ごすようになって
 から憎かったんでしょ?」

「それとこれとは話が別です……。
 仮にも太盛の恋人だった人です。
 痛めつけたら太盛に一生恨まれます」

「おい」

私は斎藤のわき腹を蹴り飛ばした。
斉藤は面白いように転んだ。
せき込み、痛そうにお腹を押さえている。

「太盛って呼び捨てにするな。年上の人の
 名前を呼び捨てなのは、彼女アピール?」

「す、すみませ…」

髪をわしづかみにしてから、勢いよく頬を
ひっぱたいた。

「今までは我慢してたけど、
 これからは容赦しないよ?」

私が髪の毛をむしるように掴み上げると、
斉藤が悲鳴を上げる。よほど痛いんだね。
きつく閉じた目から涙がこぼれ落ちてる。

「その顔も気に入らない。顔が整ってるから、
 自分以外の女はブスだと思ってるんだろうね。
 私のことも心の中では
 ブサイクだって見下してるんでしょ?」

「そんなこと一度も……」

私は部屋の周囲をかこっている護衛の一人に、
金属バッドを手渡してもらった。

この部屋は教室の半分くらいのスペース。
全面コンクリで固められた、冷たい地下室。
天井のわずかな照明。無機質すぎて余計に恐怖をあおる。

空調は完備。夏も冬も関係なく、
好き放題囚人を痛めつけられる。
どれだけ叫んでも絶対に外に音が漏れないからね。

「そいつを拘束しなさい」

「はっ」

この室内には12人の護衛がいる。
私の直属の護衛と執行部員で半分ずつ。

斉藤は垂直に立った丸太に縛り付けられた。
これは、軍隊では銃殺刑の時に使われるものだよ。
斉藤の手は後ろ手に、両足は閉じた状態で
足首にロープが巻かれた。

「金属バット・フルスイングの刑。校長先生を
 処罰する時に使ったもので私が名付けたの」

私は斎藤が恐怖をあおるために
金属バットを見せつけた。

「今からあなたの顔の前で素振りの練習をしようかな。
 太盛君の影響で甲子園見るようになったから」

「ひぃ」

あはは。斉藤の奥歯がガタガタと音を奏でてるよ♪

「ほらほら。どうしたの? いつもみたいに
 私に歯向かわないの? 私にたくさん言い返して
 くれたよね? あの時の勢いは消えちゃったの?」

「もう……二度と逆らいません」

「は?」

「えっ?」

「何が逆らわないだよ。ねえ?」

私は斎藤のお腹を、握りしめた拳で突いた。
斉藤は不意打ちだったみたいで、大きく口を開けたまま、
女とは思えないほど低い声でうめいている。

呼吸が止まったみたい。いい気味だよ。

「その状態じゃ何しゃべっても頭に入らないだろうけど、
 聞いてね? あなたは私の太盛君を横からシャリシャリ
 出てきて奪おうとした卑怯者なんだよ。泥棒猫。
 橘エリカと同じレベルのクソ」

「今まで私の言うことに何度反抗した?
 一回二回じゃないよね? 私があれだけ
 譲歩したのに、耳も貸そうとしないで」

「私はね。私を否定する奴が許せないの。
 あんたは拷問だけじゃ足りないよ。
 何年もかけて苦しめ続けて、生まれてきたことを
 公開させてやらないと気が済まない」

斉藤の顔が急変した。さっきまでおびえるだけだったのに、
飢えたライオンのような気迫さえ感じる。

「なら殺せよ!!

ほえた。

「あんたは人を痛めつけて、人が苦しんでる姿を
 見るのが好きなサディストなんだ!! だったら
 もう私は生きてなくていいよ!! 早く殺せよ!!
 私が死んだ後にあんたを呪い殺してやる!!

「私のあんたへの恨みは死んだあとも消えないぞ!!
 たとえ人間が裁かなくても主が必ず
 あんたを地獄の底に突き落とす!!
 このクソ女!! 死ねええええええ!!

つばが、私の髪にかかったよ。
うざいし汚いし、色々と殺したくなるね。

ちょっと待ってなさい。今怒りが頂点に達して
逆に冷静になっちゃった。目の前の女を拷問する方法を
色々と考えてるから。できるだけむごたらしく殺す方法を。

「ミウ」

太盛君の声だ。

「俺はミウと付き合いたい」

私の脳内に直接語り掛けるように響いた。

「この世界で一番の馬鹿は俺だって今気づいた。
 ミウは、俺のために生徒会で苦労していた。
 ミウが俺のことをどれだけ思っていてくれたか、
 全然考えなかった。だから俺は馬鹿だった」

「俺は斎藤のことも小倉のこともなんとも思ってない。
 俺が好きなのは高野ミウだけ。他の女のことは
 もう一生考えないことを誓う。ミウ。君のことが好きだ」

好きって言ってもらえると胸が熱くなるよ。
でもさ……。このタイミングで愛の告白をしても
全然盛り上がらないよね?

「ミウ。愛してる」

だからさ……

「嘘じゃないんだよ。本当にミウのことが好きなんだ。
 今すぐ君を抱きしめたい。ミウ。お願いだから
 目の前ではっきり告白させてくれ。
 ミウのことが大好きなんだ」

逆に冷めちゃうよ。斎藤を守るために必死なんだね。

「せまるく…」

「俺の告白への返事は?」

「返事って……」

「早く返事をくれ。さもないと自殺するからな」

太盛君が舌を噛み始めた。なんてことを……!!

私はとっさの判断で、太盛君のわきをくすぐった。
そしたら太盛君が大笑いして噛むのをやめた。

あはは。太盛君の笑顔、久しぶりに見たな♪
最近シリアスなことばかり続いてたからね。

太盛君はそのままの顔で言った。

「早く腕のベルトを解いてくれ」

「うん」

なんで許可しちゃったんだろう。
彼に言われると逆らえない自分がいる。

「ありがとうミウ。ついでに他のベルトも頼むよ」

つい了承してしまうと、もう彼は自由。
逃げ出すのかと思ったら、私を抱いてきた。

「もう君は俺のものだ。そして俺もミウのものだ。
 もう迷わないぞ。早くこっから出て遊びにでも行こうぜ」

「でも、まだ他の女たちが」

「そんな奴らはどうでもいいじゃないか」

太盛君は私の手を握って強引に地下室の扉へ歩き出した。
ちょっと……。これも太盛君の作戦なんだろうけど、
彼に手をつないでもらったうれしさで、何も言い返せない。

「太盛君。扉は指紋認証だから」

「じゃあ頼むよ」

副会長の私とナツキ会長以外に地下室へ自由に出入りできる人は
いない。イワノフとかは私たちが随行して入室できる。

エレベーターのB4が点灯している。
太盛君は初めて操作する割には、手慣れた動作で
閉じるボタンを押し、地上の一階へとエレベーターが上昇。
ふわっと浮く感じがする。

重力のせい? 違う。
太盛君が私の両手を握って唇を奪ってきたからだ。

こんなに濃厚なキス、どこで覚えたの?
大人の人がするように舌を入れて来た。
私も真似しようとしたけど、うまくいかない。

あっ、もう一階に着いちゃった。

扉が開くと、生徒会の執行部員たちが待っていた。
私達のキスシーンを目撃した彼らは、気まずそうに
目をそらした。

太盛君は見られてることも気にしないのか、
まだキスを続けようとする。
苦しくて窒息死しちゃう。

エレベーターの扉が閉まりそうになるので、慌てて
執行部員がボタンを操作し、開けたままにする。

「あっ」

太盛君。だめだよ、こんなところで胸まで触っちゃ。
キスだけじゃ満足できなかったの?

私は狭いエレベーターの一角に追い詰められているの。
彼が私に壁ドンするみたいな姿勢になっている。

またキスされて息が苦しくなった。
そんなにむさぼるようにしたら乱暴だよ。

執行部員たちの方をチラ見すると、誰もいなくなってる。
まあこんなシーンを見せられてら気まずいよね?

「ミウ。好きだ」

じわりと、悦びの感情が体の内側からこみ上げてくる。
彼の低い声。好き。たとえ嘘の言葉だったとしても
体が反応しちゃう。惚れた弱みだね。

「お前が好きだ」

魔法のように。呪文のように。
言い続けてくれると、私は
この人以外何も考えられなくなる。

確信犯だとしたら、女たらしなんだね。

「君たちは……」

今度はナツキ君か。騒ぎを聞いて駆けつけたのね。
ぜえぜえと肩で息をしてる。
太盛君は、私の肩を強く抱きながらこう宣言した。

「会長殿。高野ミウはただ今の時刻を持ちまして、
 俺の彼女となりました」

ナツキ君は30秒ほど時間を置いてから、短く返事した。

「了解した。あとでカップル申請書を書いておこう。
 君たちを正式な恋人同士と認める。ただし、条件があるが」

「条件?」

「堀太盛君を副会長の補佐として任命する。
 君は今日から彼女の秘書官、もしくは副官として
 行動しなさい」

太盛君も頭の回転が速いので、すぐに会長の意図を察したみたい。

「かしこまりました。俺が常にミウと
 行動を共にすればよろしいのですね?」

「そうだ」

「お願いがあるのですが、囚人の管理や取り締まりに
 ついても関わらせていただければと思います」

「許可しよう。副会長の補佐としての範囲内ならね。
 囚人の管理についてはミウと話し合ってから
 慎重に決めればいい」

「ありがとうございます!!

私だって馬鹿じゃないから太盛君の狙いは分かるよ。
あのバカ女二人を無罪にしたいのね。
本当に太盛君はお人よしなんだから。

だって。私があの2人を殺したいって気持ちが
少しも薄れてないことに気付いてないんだからさ。

「明日から冬休みだ」

会長が言う。

「そこで、ミウと太盛君は一緒に過ごすことを命じる。
 できればミウの家が理想だが、ミウはどうだ?」

「うちはパパが単身赴任だから部屋は開いてるよ?」

「彼が寝泊まりしても問題ないか?」

「全然。たぶんママも乗り気だよ。
 ずっと太盛君に会いたがっていたから」

「では、明日から1月3日まで太盛君は
 高野ミウの家で過ごすこと。
 生徒会会長として厳命する。分かったね?」

太盛君は少し引きつった顔をしたけど、
力強くうなずいた。立場上、絶対に逆らえないものね。

こうして彼は私の家で過ごすことになった。
ぶっちゃけ展開が早すぎて頭が着いて行かないんだけどね。

やった♪ めちゃくちゃな流れで彼と恋人関係に
戻れたから、波乱の予感がするのが悲しいけど。

早く太盛君を迎え入れる準備をするようにママに伝えなきゃ。
もし太盛君が脱走したり、外部と連絡を取ろうとしたら
また手足を縛ってお仕置きするってことも教えてあげよう。
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