孤独な犬

文字数 523文字

私はむかしあなたの犬だった

服を着ることが許された一人称が「私」の犬だ

私はあなたの云うことをふんふん聞いて、爪で床をカチカチ叩いて、犬語でそれっぽく答えると、よしよしいい子だねと撫ででくれた

髪の毛の根元から先端まで1秒の半分くらいのあいだ、あなたの細い指が通過する、それは私をせわしく、せわしく呼吸させる

あなたは優しい
大丈夫?と撫でるのを止めてしまうから
私は止めないでと云う
あなたは優しい
止めないでまた撫でてくれる

私はあなたの犬がよかった

私がいらなくなったって、あなたが処分してくれるのだったらどんな痛いのでも受け入れる……や、受け入れたい、拝受したい

でも

あなたは最後の魔法で私を人間にした

私に痛いのを授けなかった

痛いのはあなたが引き取ってしまったから

残ったものは言葉

「僕の智慧、想像、思考の全てがあなたに宿りますように」

私はあなたの遺書を読む

それは魔法ではなく呪いだったと気づく

私は愛されたかった人がやっと誰か分かったのに

もうこの世界のどこを探したってあなたは見つからないので

あなたと同じ場所に行こうとした

けれどあなたがいなかったら痛いのだって耐えれそうにない

私が痛いのが怖いことだってあなたに教えてもらわなかったら知ることもなかったのに

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