1 ✿ ジョンと修道士

エピソード文字数 1,344文字

帯刀家にジョンがやってきたのと時を同じくして。


東京下町の古い旅館を、一人の若い男がたずねた。

予約していた者だ。すぐに部屋へ案内してくれ

男は受付を済ませ、古びた六畳間に案内された。


女将が部屋を出ていくと、帽子、サングラス、カツラを外した。

ぼっろい旅館。依頼者ケチくせぇ

赤国際手配書が発行された、ブレイク・アンショーだ。


ぶつぶつ言いながらトランクの荷物を整理していると、スマホが鳴った。

ええ…はい、そうですね。サツはまいたので。大丈夫です。


無事、宿に入れました。ご心配なく

それを聞いて安心した。

ところで、多々良たたら 陶司とうじと、連絡はついたか?

はい先ほど、挨拶がてらに会ってきました。
仕事が早いな
『今回の仕事は自分が指揮をとる』意気込んでいましたよ。

あいつには、おまえと協力して仕事に臨むように念を押した。

きっとやりやすいはずだ

そうですか。…それにしても、彼をリーダーにするとはね。


くくっ、あなたも人が悪い


          ◆    


ジョンは、悪夢にうなされていた。


夢の中で、真っ先に飛び込んだのは赤くうねる炎だった。

(またこの夢だ・・・)

ジョンは燃える聖堂の中にたたずみ、面持ちをうつむけた。

(これほど美しい場所がなぜ・・・。ここは神に守られた場所のはずなのに)

信じていたものが足下から崩れる、そんな恐ろしさだ。

うっ・・・うっ・・・・・・あついよ、シスター・マリー

聖堂の中央で、若いシスターが床に膝をつき、五歳ほどの少年を抱きしめていた。

大丈夫よ。1人でよくがんばったわね。


さぁ、すぐにお外へ出ましょう

パリイン!!


聖堂のステンドグラスが一斉に割れ、光の欠片が降り注ぐ。


そちらに気を取られ、再び彼らを見るとなぜか泣いていた少年の姿は消えていた。

(あの少年はどこに・・・?)
大丈夫・・・大丈夫よ・・・

シスターはうわごとのようにつぶやきながら、薔薇の花冠 を編んでいた。


ギギギ・・・


彼女の頭上で、炎をまとった梁がきしみをあげる。

危ない!!

燃える梁大量のがれきが、ジョンと修道女に降り注ぐ。


騒音灼熱が襲い、長い闇が訪れた。


目を開けると火は消えていて、陽光の差す聖堂の焼け跡にジョンは立ち尽くしていた。

瓦礫や草むらは濡れていた。ここに雨が降ったことをうかがえる。


ふと、水たまりに映った自分の姿を見て、ジョン息をのんだ

修道士…?

何度か「彼」を夢に見た。


夢の中で「彼」と話したこともある。

今日は僕が「彼」になっている・・・。同じ『には変わりはないけれど。


…あれ? ロザリオがない

普段、肌身離さず身につけているものがないと違和感があった。


修道士なら、なおさら不自然だ。


ふと足下を見ると、瓦礫の上に  すす汚れた十字架  2つ重なり合って落ちていた。

この十字架はもしや彼女の…。もう1つの十字架は…? あの少年の…?

ジョンは、落ちていた2つの十字架の一つを手にとる。

いや違う。この十字架のものだ。僕は……おそらくこの場所で・・・。

その時、空から羽音が聞こえた。


頭のフードをはらい、雨上がりの空を見上げる。

あの鳩は・・・
おいで

虹の方角へ、高く手を伸ばした。

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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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