第12話:イラクの攻撃と敗走、多国籍軍の勝利

文字数 2,049文字

 その結果、クウェート方面に軍を集中させたイラクは出鼻をくじかれ、急遽、イラク領内の防衛を固めた。巡航ミサイルが活躍しアメリカ海軍は、288基の「トマホーク」巡航ミサイルを使用し、アメリカ空軍は、B52から35基のAGM86C、CALCMを発射した。

 CNNは空襲の様子を生中継して世界に実況報道した。1月27日にアメリカ中央軍司令官であったアメリカ陸軍のシュワルツコフ大将は「絶対航空優勢」を宣言した。こうして戦争が多国籍軍側に有利に進んでいることを強調した。アメリカ空軍はイラク軍防空組織に最初期から攻撃を加えた。

 そして、イラク軍防空システムは、早期の段階でほぼ完全に破壊された。これにより戦闘開始直後からイラク空軍の組織的な防空戦闘は困難となった。そのため、多くの航空機がイランなどの周辺国へと退避した。ただし、開戦初日には、イラク空軍のミグ25によりF18が撃墜された。

 またイラクの防空体制がまだ機能している状況下でJP233による攻撃を行ったイギリス空軍のトーネードは、多国籍軍の攻撃機としては、最も多くの犠牲を出した。一方、フセイン大統領は、アラブ・イスラーム対イスラエルとその支持者・ユダヤ教・キリスト教などの異教徒の構図を築こうと考えた。

 1月18日からイスラエルへ向けスカッドミサイル「アル・フセイン」と「アル・ファジャラ」計43基を発射した。こうしてイスラエル最大の都市テルアビブなどに着弾し死傷者が出た。イスラエルは開戦直前にモサッドなどによりフセイン大統領が攻撃準備をしていることを知り1月16日に全土へ非常事態宣言を出した。

 しかし、42日間に18回39発のミサイル攻撃を受けた。そのうち10回の攻撃で226名が負傷した。その他、2名がミサイルの直撃で。5名がミサイル警報のショックで7名が対化学攻撃用ガスマスクの取り扱いミスで死亡した。イスラエル世論は、イラクへの怒りで沸騰した。

 しかしイラクからの挑発を受けイスラエルが参戦し「異教徒間戦争」となるというフセインの目論見通りになることを恐れたアメリカや国連の要請でイスラエル政府は動かずフセイン大統領のもくろみは、完全に失敗した。続いてイラクはサウジアラビアとバーレーンに対して同数程度のミサイルで攻撃を行った。

 これは、「異教徒に加担した裏切り者を制裁することで、アラブ世界の結束を図ろう」という試みであった。しかし、「不法な侵略者イラク対国際社会」の構図は、揺らがなかった。アメリカは急遽イスラエルや湾岸諸国にパトリオット地対空ミサイルシステムを配備して迎撃し当時は、ほとんど打ち落としたと主張していた。

 しかし、本来これは、対航空機用の兵器である。その後の研究報告により、それほど役立っていなかったことが判明した。またスカッドを捕捉、破壊するためイギリス特殊空挺部隊偵察チームがイラク後方に潜入したが、偵察チームの多くはイラク軍に捕捉され、死傷者が出た。

 特にアンディ・マクナブ軍曹の指揮する偵察チーム、コールサイン「ブラヴォー・ツー・ゼロ」は8名中3名が死亡し、マクナブを含めて4名が捕虜となった。ただし、1人クリス・ライアン伍長だけがシリアへの脱出に成功した。1月29日、イラク軍はサウジアラビア領のペルシャ湾上にあるカフジ油田を奇襲攻撃。

 しかし、戦略も何もなく、また多国籍軍の抵抗にあって失敗し翌30日に撤退。1か月以上に亘って行われた恒常的空爆によりイラク南部の軍事施設はほとんど破壊された。その結果、2月14日に空爆が停止され、同日、多国籍軍は地上戦「砂漠の剣」作戦に突入した。クウェートを包囲する形でイラク領に次々と侵攻した。

 大統領親衛隊や共和国防衛隊を除く主要のイラク軍は、度重なる空爆で消耗し、装備も貧弱で士気がなかった。一部では、油田に火を放って視界を妨害しようとしたが多国籍軍は、熱線映像式暗視装置を持っていたため、煙の向こうのイラク軍部隊は、反撃もできずにいた。そして一方的に撃破されたあげく続々と投降した。

 イラクは2月25日にスカッドミサイルでサウジアラビアを攻撃しダーラン近郊の第14補給分遣隊兵舎に命中させた。その結果、28人を殺害、百人以上を負傷させた。しかし、抵抗はここまで。地上戦開始から百時間後、イラク軍は二本の幹線道路に長蛇の列を作って撤退を開始した。

 2月26日から翌日、米軍機が猛爆したため、そこは死のハイウェイと化し夜が明けた頃には無数の焼け焦げた車両と焼死体が散乱していた。多国籍軍2月27日にはクウェート市を解放し、敗走するイラク軍を追った。28日の朝、戦闘が終結した。

「ブッシュ大統領は、記者会見で「クウェートは解放され、イラク軍は敗北した」
「我々の戦闘目的は達成された。多国籍軍の勝利である」
「また、国連の全人類のそして法の支配の勝利であると述べた」
「一方で、イラクのフセイン大統領は、あなたがたは勝利したのだ」
「イラク国民よ、イラクこそ勝者である」
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