(一)-5

文字数 282文字

 切符を受け取った私たちは、待合室の木製の長いすに腰掛けた。くたびれた座布団が敷いてあったので、おしりは冷たくなかった。
 次の列車は一三時一七分の洞爺行きだった。列車が来るまで一時間ほどあった。
 椅子に腰掛けてなんとなく黙っていると、「なあ」と彼が言った。
「俺、内地へ出稼ぎに行って、金を稼いで帰ってくるからさ。そのときは俺と一緒になってくれないか。それで、一緒に暮らさないか」
 しばらくの沈黙のあとの、彼の口から出た言葉に私は驚いた。
 確かに、私もそうなったらいいな、ってなんとなく思っていた。でもまさか、今ここで、そんなことを言われるとは思わなかった。

(続く)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み