第7話 交渉次第で何とかなる事もある
文字数 7,803文字
何がなんだか分からないあたしを前に、有沢伴は急に芝居がかった仕草で語り始めた。
「まさかこんな事になるなんて…」
それはあたしの台詞なんだけど……
なんて一々突っ込んでいたら絶対に話が進まないだろう。ので、あたしはぐっと堪えとりあえず話を聞いてやる事にしたのだった。
一週間前、有沢伴のマンションにて……
伴は連日の仕事続きでさすがに参っていた。学校へもろくに通うことすら出来ず引っ張りだこの人気っぷり。それはそれで幸せでありがたいことなのだが。
「…疲れた……やっさん俺過労死するかもしんねぇ……」
「若いくせに何言ってるんだよ…」
普段は割とお調子者でいい加減に見える伴だが、プロ意識もあればアイドルとしてのプライドもちゃんと持っている。それ故彼は仕事に関することで弱音は滅多に吐かない。
そんな割とタフな彼がこうしてあからさまにぐったりして弱音を吐くとは…相当らしい。口ではああ言ったが、黒沢もその様子を見てさすがに気の毒に思えてきた。
「まぁ…仕事があるのは良い事だけどさ…」
「そうだな…」
「で?明日の予定は?」
黒沢が淹れてくれた温かいお茶を手に、伴は今にも寝落ちしそうな虚ろな様子で何とか手帳を覗き込んだ。
そんな時だった。それがやって来たのは…
ピンポーン♪
突然鳴るインターホン。今の時刻は夜の十時前後だ。常識的に考えて誰かが訪れるには遅すぎる時間帯に当たるのだが……
来客確認用のモニターにろくに目もくれず、伴はついうっかりその来客をマンションの中へと招き入れてしまったのだった。
そして……、待つこと暫し。コツコツと慌ただしい様子の足音が近づいて来たかと思えば……
「伴ちゃん!いるんでしょ!!開けなさい!!」
「げっ!?こ、この声は……」
時間帯も近所への気遣いも全く感じられないやかましく甲高い声、そして何度も鳴らされるインターホン…その自己中心的な行動、声から伴はすぐさま何かを感じ取った。
勿論、嫌な方の。ただでさえ疲れているのに更に疲労感が増し、体が重くなった気がした。
ガチャッ…
「あら~!!黒沢さん!!お久しぶりねぇ~!!」
「お久しぶりです、光代さん…」
ドアが開かれるなりズカズカと入って来たのは中年の女性…しっかりパーマに厚化粧と真っ赤な口紅、ブランド物のピンク色のワンピースといったかなりインパクトのある外見だ。
黒沢に愛想良く挨拶を済ませるとさっそく部屋を物色し、ドカッとソファーへ腰を下す様子がまた憎らしく厚かましい。
叔母の光代。世話好きで少し図々しい厄介な性格だ。色々と心配して様子を見に来てくれるのだが…如何せん彼女のする事は余計な事が多い。それに自分が正しいと疑わない物凄く面倒くさい性格でもある。
「光代叔母さん…何の用だよ…?俺疲れてるからすぐ寝たいんだけど…」
「あら!?本当!!ひっどい顔してるわねぇ~!!黒沢さん!あなたちゃんと伴ちゃんの健康にも気を使ってくれているんでしょうね!?これだから男所帯って…嫌だわぁ~!!」
「…やっさんはちゃんと面倒見てくれてるよ…健康管理もばっちりだ。っておい!!洗濯物くらい自分で畳むからやめろよ!!」
「あんた可愛い柄のパンツ履いてるのねぇ…み、みかんって…ふふ…芸能人が…」
「や、やめろって!!下着物色すんな!!あ!クローゼットも開けんなよ!!」
「地味ねぇ…伴ちゃんいつもジャージばっか着てるんでしょ!?本当あんたって子はそこんとこはずぼらなんだから!叔母さんの買ってあげたお洋服は!?」
「あんなの恥ずかしくて着れねーよ!!」
年頃の甥っ子の部屋を無遠慮に物色し、掃除までし始める厚かましい叔母。伴は昔から彼女が苦手で鬱陶しく思っていた。出来れば放っておいて欲しいとも…。勿論いい面も沢山ありはするのだが。
それは黒沢も同じらしく…。あれこれ世話を焼き始め口煩く伴に話しまくる光代を見ながら小さくため息を吐いていた。
いくら非常識な彼女でもこんな時間に訪れるのには何か深い訳があるはずだ。それは絶対にろくでもない訳に違いないが。
「伴ちゃん、あんた今お付き合いしてる子はいるの?」
「はぁ?叔母さん…俺一応芸能人。今が旬のアイドルだぞ?いる訳ねーだろ……欲しいけど…。」
「あらぁ!あんたモテないのねぇ!!」
「ちっげーよ!!人気アイドルがスキャンダル沙汰起こしたら大変だろ!?事務所からも男女交際暫く厳禁って言われてるし…第一、社長が許しても時が許さねーよ。」
「時君?あの子は常にモテモテよねぇ~!!叔母さんもあの子好きだわぁ!写真集買っちゃってね!」
「…サイン貰って来てやるから大人しく帰ってくれよ…」
「嫌よ!!サイン貰うくらいならついでに握手してハグしてもらわないと!!ってそうじゃないのよ!!今日は伴ちゃんに大事な話があって来たのよ!!」
「聞きたくねーから帰ってくれ!!」
「まぁ!!叔母さんに向かってなんて口の利き方すんの!?あんたのおむつ替えてあげたの誰だと思ってるの!本当あんたは昔から夜泣きが酷くて私がいなかったら…」
「その辺りは感謝してるから!!てかいつまでも昔の話出すなよ!!」
「まぁ!あんたって子は本当いつからそんな可愛気の無い子に…芸能界っていうのは本当怖いところなのねぇ…あんなに可愛かった伴ちゃんがこんなに…ううっ!叔母さん悲しい!!」
「すみませんでした!!」
これ以上何か反論しても仕方がない…不利な立場に立たされるだけだ。
今までの経験から悟った伴は、不満を飲み込み気持ちを落ち着け何とか本題へと戻した。その『大事な話』とやらを聞いてさっさと帰ってもらうために。
「…伴ちゃん、あなたお見合いなさい。」
「は?」
「叔母さんね、先日良い話を頂いて…ジャーン!!」
鞄をごそごそ。取り出したのは白いA4サイズくらいのアルバムのような物体。それを開き得意げに伴に見せるた。
そこには…着物姿の少女が一人……。中々に可愛らしい容姿をしていたので、伴はついうっかり見入ってしまった。
「ってジャーンじゃねーよ!!」
「あんたこういう清楚可憐な子好きでしょ?しかも美人さんよ!良いとこのお嬢様でね!!」
「…確かに可愛いけど…ってだからそうじゃねーよ!」
「何が不満なの!?」
「全部だよ!!」
「…あんた…やっぱりいるのね?お付き合いしてる子が!!」
「だから何でそうなるんだよ!!」
いつもの事とは言え、光代の行動は唐突過ぎる…今回は特に酷い。
キッチンで大人しく事の成り行きを見つめていた黒沢は眩暈すら覚えたという…
「…伴ちゃん、この子とお付き合いしているのね!!」
「はぁ?って…だから勝手に人の部屋漁るんじゃねーよ!!」
光代が突然突き付けたのは…あの時の写真だった。
そう…あの時記念にとノリで撮らされた蕾とのツーショット写真。紫乃の家で夕飯をご馳走になった時の。あの後、現像した写真を紫乃がご丁寧に送ってくれていたのだ。
ああ!!俺なんであんなとこに無防備に放り出して置いたんだ!!
伴はその瞬間頭を抱え叫びたくなった…ついでに紫乃にも恨みを覚えた。
「如月紫乃…ね…へぇ…紫乃ちゃんていうの?」
「へ?いや…それは…」
封筒に紫乃の名前が書かれていて、尚且つ女性的な名前なので勘違いしたのだろう。光代はそれを目ざとく発見しすぐさま住所まで確認した。
「…星花町ねぇ…どこ?それ?どんな家柄の子なの!?顔は…まぁ、中々可愛いけど…」
「…可愛いか?……ああ、まぁ……確かによく見りゃ……」
光代から写真をひったくり、改めてそこに写る蕾を見つめてみた。確かに、悪くはない。あの暴力的…アグレッシブな出会いとその後のインパクトのせいで、容姿にまで目がいかなかった。
(……俺、もしや結構勿体ない事してたか……??いや!それはないない!!あいつだぞ!?)
うっかりその気になりそうになったが、伴は直ぐに思いとどまった。
「伴ちゃん!今度その紫乃ちゃんとやらに会わせなさい!伴ちゃんに相応しい相手かどうか叔母さんが一度確かめないと気が済まないわ!!」
「いや!必要ねーし!!」
「何言ってんの!何処の馬の骨かも分からない子に可愛い伴ちゃんを任せられるわけないでしょ!?」
「いや、だから話聞いて…」
「いいわ!また来るからその時ここへ連れていらっしゃい!!」
バタンッ!!
光代はそう一気にまくしたてると大股で部屋を出て行った…伴の説明など聞かずに…
こうして光代は嵐の様にやって来て嵐の様に去って行った…という。
そして語りを戻し現在……。
「…ってことがあったわけだ。分かった?」
一通り話し終えた有沢伴は何故かあたしから目を反らし、数歩距離を取り後退った。
「…なるほど、つまり叔母さんは蕾ちゃんの事を伴君の彼女だと思い込んでしまってるわけか…俺の名前で…」
「そうっす…」
と、混乱するあたしに代わり紫乃さんが確認すると有沢伴は深く頷いた。
なんて唐突過ぎる話なんだろう…。いきなりお見合いって。めちゃくちゃ過ぎるだろ。
あれ?これって何かあたしと似ているような……??
「光代叔母さんは一度思い込んだら一直線、こうだと言ったら絶対実行する恐ろしい人なんです…俺も正直どうしたらいいか…」
「…確かに、話を聞いただけでもかなり個性的な女性みたいだ。どうする?蕾ちゃん?」
「頼む!!一度で良いから!!俺の彼女になってください!!」
「こらこら、伴君…男の子が簡単に土下座するのはやめなさい。あと、蕾ちゃんも混乱してまたドロップキックしようとするのはやめようね?暴力じゃ何も解決出来ないよ?」
紫乃さんに指摘され、あたしは無意識のうちにまたドロップキックしようとしていた事に気が付いた。
あたしの足元で土下座して頼み込む有沢伴…そんな異様な光景を前に紫乃さんは冷静だった。その横で父にプロレス技を掛けている母も気にせず。
というか娘の一大事になんでツッコミの一つも入れない!?うちの両親…!!
紫乃さんに諭され、黒沢さんにまで頭を下げられ……
「…無理よ……」
「そこを何とか!!」
ガシッ!!
がばっと起き上がった有沢伴に手を握られ頼み込まれたあたしは……
ゾクッ…
「き、気安く触んな!!気持ち悪い!!」
「ぐはっ!!」
全身に鳥肌を立たせ、渾身の一撃。有沢伴の顎にアッパーを食らわせたのであった。
ああ、気持ちが悪い!!悪寒が!!
「ああ!!し、しまったつい癖で!!」
「…か、顔はやめろ…顔だけは!!」
「ご、ごめん!!けど本当無理っていうか…」
「…いや、俺もうっかりしてたし…」
「ただ手を握られただけでもこうなのよ?ああ…気持ち悪い…鳥肌と蕁麻疹が…」
「…俺ちょっと傷つくんだけど…なんかウィルス扱いされた気分…」
「だってしょうがないじゃない!!本当にアイドルとかイケメンとか無理なんだって!生理的に受け付けない!!」
「現役アイドル前にそれ一番傷つくぞ!?ちょ、距離取るなよ!!なんで紫乃さん間に挟んでんだよ!!」
「壁があれば多少問題はないかと…」
「余計傷つくんだよ!その壁とか作るの!!てか紫乃さん平気なのになんで俺は駄目なんだよ…?この人もイケメンだろ!?」
「紫乃さんは紫乃さんだもん。それ以外何でもないし。」
「理由になってねーよ!!」
「だからそれは…『紫乃さん』っていう一種の種族的な!」
「フェアリー扱い!?」
「どっちかってーともっと黒くてカオス的な…」
「どんな種族だ!!」
と、紫乃さんを間に挟みなんだか失礼な事を言いまくったあたしだが…当然この後笑顔で諭された。落ち着こうと。
「…まぁ、俺は蕾ちゃんが幼い頃から一緒にいるから…そういう意味では特殊なのかもしれないね。」
「なるほど…じゃあ俺も一緒にいたら慣れるとか?」
「…さぁ…どうだろうね?やってみないと分からないんじゃないかな?」
「よし!じゃあ俺これから毎日蕾に会いに来る!!初めは無理でも毎日顔合わせて手でも握ってりゃ慣れるだろ?俺って頭良い~!!」
「…なるほどそう来たか……。うん、良いんじゃないかな?ねぇ、蕾ちゃん?」
未だ混乱して何も言えないあたしを他所に紫乃さんと有沢伴、二人の間で何故か勝手に話は進み決まっていく…
毎日来る?有沢伴が?家に?しかもあたしの会いに??
そんなの…想像しただけで………
「じょ、冗談じゃない!!何の拷問よ!?」
「…わかった!じゃあこうしよう!!俺のこのお願い聞いてくれたらお前の好きな芸能人のサイン貰って来てやるよ!!なんなら会わせたって良い!可能ならだけど。」
「ええ!?マジで!?」
「食いつきはやっ!?」
「…あの演歌界のドン…
「お前新ちゃんのファンなの!?渋すぎだろ!!」
あの歌って踊れるダンディーおじ様…世のマダム達の心を掴んで離さない 渋すぎる声…演歌界のドン!『嗚呼、我が道よ』は爆発的な大ヒットを遂げ今となっても人々に愛される名曲、演歌の神的な曲だ。
あたしは彼の歌声を聞いたその時(当時五歳だったか)から虜になり、今じゃマダムのお姉様方に交じってファンクラブの一員。コンサートには欠かさず行っているほどの大ファンだった。
「あの何年経ってもブレない歌声…そんじょそこらの歌手とは比べ物にならない…」
「嫌だこの子うっとりしてる!本気で言ってんの!?」
「…あの方こそまさに神!マダムのお姉様方に遠慮してサインすら貰えず遠くで見守る日々…いつかサインの一つでも…欲を言えば握手して名前で呼んで頂けたらと何度願ったことか!!」
「…じゃあ…交渉成立って事で良いですか?」
「…し、仕方ないわね…でもあんたの為なんかじゃないんだからね!新様の為なんだから!!」
「はいはい…ああ、何かここまで来たらちょっと引くわ…。どおりで俺見てもはしゃがない訳だ…」
こうしてあたしと有沢伴の交渉は成立したのであった。物凄く単純な条件を飲んで…
こいつと一緒にいるのは嫌だけど…新様のサインゲットの為!頑張って耐えるしかない!!あわよくば本人に会えるかもしれないんだから!!
何故かがっくり疲れ切った様に肩を落とす奴(有沢伴)の事などお構いなし。あたしは新様のサインに目を輝かせ期待に満ちていた。と、同時にやっぱり嫌だという憂鬱な気持ちも抱いていた。
ああ、乙女心って本当複雑だなぁ……
*****
「…新様程の大物に最近人気出て来た若手アイドルがサインなんか貰えるんだろうか…しかも知り合いの為にって…」
浮かれまくって一晩明けると急に冷静になって来た。確かに新様はダンディーで優しい…きっとそうに決まっている。そんな彼にあんな若手がへらへらと『あ、サインいっすか?』なんてノリで来たら…
「…なんか凄く不安になって来た…電話して釘刺しておかないと!」
と、スマホを取り出し固まる……。
そう言えばあたし…あいつの連絡先って知らないんだった!?昨日連絡先どうのって言っていた気もしたけど、浮かれまくってて記憶にないんだよね。
し、しまった…大失態!!
「…と言っても…特に話すことなんてないんだよなぁ…」
スマホを持て余しながらぶつぶつ独り言を言いながら駅へと向かう。
そうだよ、新様の事はともかくとして…あたしあいつと特別話すことなんて何も無いじゃん。アイドルと一般女子高生って…どこに共通点があるっていうんだ?ないだろ?
でも毎日来るって話してたし…。いや、そもそもそれは本気で言っていたのか?あの気迫は本気だったけど……。こう…追い詰められた感が溢れてて。
ブーブー…
そんな時だった。タイミング良くスマホが震えたのは…
「…誰だろ?」
見た事のない番号に不審に思いながらもとりあえず出てみると…
『あ、俺俺!』
「…詐欺はお断りしてます。」
『馬鹿ちげーよ!俺だって!有沢伴!!』
「…いたずら電話もお断りしているのですが…」
『どんだけ疑り深いんだよ!?…新ちゃんのサイン欲しいんだろ?とりあえず交渉しといてやったからわざわざ報告してやろうと思ったのに…』
「え!?マジで!?有沢さんたら凄い行動力の速さ!!」
『まぁな…俺は思い立ったらすぐ行動する男…っておい!?』
「ノリツッコミも朝からばっちりね!凄い凄~い…」
『なんだろう…スッゲー腹立つんだけど。何なんだよお前……。とにかくオッケーって事らしいから楽しみにしとけよ?そして感謝しろ!』
「嘘本当に!?嬉しい~!!あたしあんたと会ってからなんかろくな事無いような気がしてたけど…今初めて出会ってよかったと思ってる!心から!!」
『現金な奴だな…ま、一応感謝してくれんならいいや。それより、約束忘れてねーよな?お前昨日浮かれまくって話全然聞いてなかったけど…』
「…覚えてるわよ。可哀想なアイドル様の彼女のふりをしろってことでしょ?新様のため…仕方ないわ…」
『ああ、一応覚えてたんだ…良かった…』
「それで?あんた本当に毎日来るつもり?確かにあたしイケメンもアイドルも嫌いだけど、当日一日くらいならなんとかやり過ごせる気もするんだけど…多分…」
『光代叔母さんを侮るな…あの人はお前が思っている以上にヤバい…』
「…わ、わかったわよ…」
なんだろう?例の叔母さんの話を聞いていると良子叔母さんの顔が浮かんでくるんだけど…
電話の向こうからでも分かる有沢伴の緊迫した雰囲気…相当厄介な人であることは間違いないようだ。
「受けたからには責任は持つ…協力出来ることはするから…」
『そう言ってくれると助かる!お前って意外と良い奴なんだな!!』
「別にあんたの為じゃないし!」
『そうだけど…俺もお前と出会って良かったかも!じゃっ、そろそろ仕事だから切るわ。またな。』
ツーツー…
有沢伴は言いたいことだけさっさと言って通話を切ったのだった。
あたしと出会えて良かったって…調子の良い事を………
けどあたしの中で彼に対して見方が変わったのは確かだ。それはただの人気者のアイドルと言うだけでいい気になっていたり、他人を見下したりなんて事する人間ではないという事。
あたしが思い描いていた人物像と違った普通の人間だと言う事だ。そうでなければあんな必死になって頼み込んだりしなければ、さっきみたいな言葉を口にしたりしないだろう。
「…なんか良く分からない奴……」