ベテラン交渉人の失敗 2

文字数 516文字

「今から交渉に入る。合図を出すまで待機するように頼んだぞ」

「各班、機動隊にも伝えます!」

警察官は無線で待機の指示を出しながら、菓子パンと水を用意しに去った。

「さて行くか」

橘は雑居ビルに入った。

エレベーターは音が鳴る。

犯人は音に敏感だ。

なるべく刺激は避けたい。

橘は階段をゆっくり歩いていく。

階段は窓が無く、冷ややかなコンクリートの壁がずっと続く。

足をそっと動かしても、足音が僅かに反響する。

七階に到着した。

人気の無い漫画喫茶があった。

店内に入るには、自動ドアを通る必要がある。

ここで間違いなく気がつくだろう。

橘は店内へと入った。

広いフロアに幾つもの小部屋が並んでいる。

奥には漫画が並ぶ本棚がずらりとあり、その隣にはドリンクバーがある。

邪魔にならない程度のBGMが流れている。

小部屋の並ぶほうの照明は少し暗くなっている。

店内は変わらず、客をもてなしていた。

しかし、ひと気の無い店内は少し不気味だ。

犯人がどこに居てもおかしくない。

本棚に向かい、一つ漫画本を手に取る。

慎重に立て篭もっている小部屋に向かう。

該当の小部屋に着いた。

「だ、誰だ!」

男性の息も吐かぬ口調が、その小部屋から聞こえた。

「漫画本を読みに来たんだ」

橘は穏やかな口調で返す。
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