5-5刻印を賜わる者

文字数 808文字

 次の日、遺体の無い葬儀が行われた。空っぽの棺すら用意されず、ただ故人の名前が刻まれたプレートが庭の片隅に置かれただけ。それすらもそのへんから剥がしてきた壁板でしかなかった。

「それでいいのです。もうここには、人を埋められるだけの土が無い。焼くだけの燃料も惜しい」

 弔問に訪れた教父は厳かに告げた。幾重にも重ねたコンビニ袋の、半仮面の下の表情はうかがい知れない。

「灰は灰に、塵は塵に……」

 甘い声で静かに祈りを捧げ、しかる後、遺族にうやうやしく賜った。

「これを。定められし殉教ではありませんが、転生を遂げたことにちがいはありません」

 それは袋に入った赤い木札と釘が二本。

 薄紫の髪の美少女の親はありがたくおしいただいて、その日のうちに門口に打ち付けた。

「これでもう食べるのには困らない」

「ありがたいねえ、親孝行な娘だよ」

 大江の妻は受け取りはしたものの、袋を開けることなく引きだしの奥にしまいこんだ。だが『殉教』の名誉の印は幼い息子が持ち出して、母親の知らぬ間に門口に打ち付けていた。少し斜めに傾いてはいたが、二本の釘でしっかりと。


 そして、ミレは見ていた。信者の群れを引き連れた教父がどこから来て、どこに帰って行くかを、じっと見つめていた。

「やはりな」

 教父と転生教団は、光球の飛び去った方角から来て、戻って行った。


 魂を食う者と、転生を謳う者は、同じ場所から来たのだ。

(どこを斬るべきかはわかった。だが、斬るモノが無い!)

 ぎりぎりと拳を握るミレの肩を、ちょんちょんとつつく青白い指。

「うるさいな、今忙しい」

『はぁ? あんた私にそーゆー口きける立場?』

 響く声はどこか空々しく冷たい。決定的な空間の亀裂を超えて、常ならぬ彼方より響く外世の声。

「っ!」

 振り返るミレの目に飛びこんだのは。

『はぁい、お元気?』

「お前はっ!」

 もう二度と見るはずのなかった彼女の顔。

『見つけたわよ工具使い。もう、離れないんだからね

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登場人物紹介

常道・E・ミレ
主人公。家族の仇を探して灰と塵の荒野をさすらう女子高生。転生トラックの天敵にして無慈悲な狩人。「来いよ、解体(バラ)してやる。鉄の一片、ネジの一本すら貴様の痕跡は残さん!

円辺・P・朗太
ヨナ町で農場を営む中年男。父一人子一人。見かけによらず魂のピュア度はすさまじく高い。
「おじさん、もうすぐ死んじゃうから」

円辺・G・心斗
父親と二人で農園を営む元気な幼女。年齢は八歳。
名前は「ハート」と読む。

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