5-5刻印を賜わる者
文字数 808文字
次の日、遺体の無い葬儀が行われた。空っぽの棺すら用意されず、ただ故人の名前が刻まれたプレートが庭の片隅に置かれただけ。それすらもそのへんから剥がしてきた壁板でしかなかった。
弔問に訪れた教父は厳かに告げた。幾重にも重ねたコンビニ袋の、半仮面の下の表情はうかがい知れない。
甘い声で静かに祈りを捧げ、しかる後、遺族にうやうやしく賜った。
それは袋に入った赤い木札と釘が二本。
薄紫の髪の美少女の親はありがたくおしいただいて、その日のうちに門口に打ち付けた。
「これでもう食べるのには困らない」
「ありがたいねえ、親孝行な娘だよ」
大江の妻は受け取りはしたものの、袋を開けることなく引きだしの奥にしまいこんだ。だが『殉教』の名誉の印は幼い息子が持ち出して、母親の知らぬ間に門口に打ち付けていた。少し斜めに傾いてはいたが、二本の釘でしっかりと。
そして、ミレは見ていた。信者の群れを引き連れた教父がどこから来て、どこに帰って行くかを、じっと見つめていた。
教父と転生教団は、光球の飛び去った方角から来て、戻って行った。
魂を食う者と、転生を謳う者は、同じ場所から来たのだ。
ぎりぎりと拳を握るミレの肩を、ちょんちょんとつつく青白い指。
『はぁ? あんた私にそーゆー口きける立場?』
響く声はどこか空々しく冷たい。決定的な空間の亀裂を超えて、常ならぬ彼方より響く外世の声。
振り返るミレの目に飛びこんだのは。
もう二度と見るはずのなかった彼女の顔。