パーティークラッシャー

文字数 2,775文字

はぁ、はぁ……。ようやく追い詰めたぞ。

観念しろ、魔王!!

フン……人間の分際で、ここまで楽しませてくれるとは。なかなかやるではないか、勇者よ。
おい、勇者! 早くカタをつけねえとこっちもヤバいぞ!
くっ……拙者、マナが尽きかけにござる……。

雑魚相手の範囲魔法もあと何発打てることやら……。

か、回復魔法も、もう……!
この一撃に、すべてを賭ける……!!

ウォォォォォォォォォ!!

ガシィィィィィィッ!!!!
グオォォォォォォォォォ!!
やったか!?
これで……終わった……のか……。
――ユラリ。
……!!
そ、そんな……!!
グハハハハハハ!!

愉快、愉快だぞ、勇者よ。お主の絶望に歪むその顔、とくと見せてもらったぞ!

く、くそ……!!
さて、お遊びに付き合うのはもう終わりだ! 死ぬがいい!!
バシュゥゥゥゥゥゥゥッ!!
うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!
勇者ーーーッ!!
勇者殿ーーーッ!!
あぁぁぁぁぁ……あれ? 僕、生きてる……?
よかっ……た……。勇者……くん……。
ドサッ。
そ、僧侶さん!
勇者くんは……みんなの、希望だから……。

生きて……お願い……。

僧侶さん! 嫌だ! そんなの嫌だ!!
僧侶、あきらめるな!!
僧侶殿、僧侶殿……!!
み……みんなと……冒険できて……本当に……よかっ……た……。

あたし……幸せ者だ……ね……。


僧侶さん! 僧侶さん……!!

僧侶さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!

……っきしょう! どうして……!!
僧侶……殿……。
よくも、よくも僧侶さんを……!!

僕の……僕の愛する人を……愛する人の命を奪ったな、魔王!!

おい、ちょっと待った。今何つった、勇者?
えーと……よくも僕の愛する人の命を奪ったな、って……。
いやいやいやいや。おかしいだろ、それ。
え? 何がおかしいんですか?
何がって、お前。僧侶が好きなのは俺だぜ?

男らしくて頼りがいのあるヤツがタイプだって言ってたしな。

あれ?

僧侶さん、「脳まで筋肉で出来てるようなバカは好きじゃない」って言ってましたよ?

んだとコラァ!?

ぶっ飛ばすぞ、てめぇ!

それは本当ですぞ、戦士殿。拙者も聞きましたゆえ。

「脳みそまでトレーニングしなくてもいいのにね」と。

グハアッ……!!(吐血)
知的でクールな大人の男性が好き、とも申しておりましたな。

つまり、僧侶殿の意中の人は、最年長で知性溢れる拙者ということに……。

「全身を舐め回すような目で見てきてキモい」って言ってたけど……。
ヌヌ……!
最近だと「『拙者』とか『ござる』って聞くだけで鳥肌が立つ」って。
グボバッ……!!(吐血)
勇者くんみたいな可愛い男の子が好きだって、はっきり言ってましたから。お二人は諦めて下さい!
いや、しかしよ……。

最近、勇者につきまとわれて困るって相談受けたんだぜ?

え……。
拙者もでござる。

「ちょっと回復してあげたら勘違いさせちゃったみたいで……」と。

そ、そんな……。だって、僧侶さんが、僧侶さんが……(涙目)
お、おい、そんな泣かなくても。
ヒック、ヒック……。
お……お主ら……。
あん? うっせーな。こっちは取り込み中なんだよ。

見てわかんねーのか、タコ!

まったく、空気を読んで欲しいものでござるな。
す、すまぬ……。では話が済んだらということで……。
うわーーーーーーん!
――30分後。
ということは、僧侶さんは僕ら全員とデートして、その度に奢らせてたってこと?
ま、お前らのいうことが本当ならな。
うーむ、まさかあの僧侶殿に限って……。
確かにいまだに信じられません……。僕なんて婚約指輪だってあげたのに……。
つーか、あれだ。直接本人に聞いてみりゃいいんじゃねぇか?
え、でも僧侶さん死んじゃってるけど……。
いや、途中で手に入れたアレがありますぞ!
あ、そうか、エリクサー!

もったいないから使えなくて、最後まで取っておいたんだった。

……って、あれ?

どうかしたのか、勇者?
おかしいな……確かにここに荷物をまとめて置いておいたはずなんだけど……。
おいおい、そりゃ確かか? 何にもねぇぞ?
伝説のアイテムも、お金も、全部なくなってる……!!
ゆ、勇者殿! 大変でござる!

死体が、死体がなくなっておりますぞ!!

ええええええ!?
あ、あの~……。
ちょっと待ってったら!

こっちはそれどころじゃないんだから!

い、いや、その僧侶とやらだが……。

お主らが揉めてる間に回復魔法をかけて、荷物をまとめて去って行ったぞ……。

んだと!? 見てて止めなかったのかよ! てめぇ、それでも人間か!!
いや、声をかけたら怒られたから……。

それに人間じゃなくて悪魔だし……。

悪魔だからって、やっていいことと悪いことがあんだろうが!!
す、すまん……。
せっかく……苦労して集めたお金が……アイテムが……グスッ。
あーあ、また泣き出しやがった。お前のせいだからな、魔王。
なんと言っていいのやら……。
魔王殿の失態を責めるのは後にして、今はまず事態の収拾をどうするか考えなくては。
うぇぇぇぇぇぇぇん!
泣くなよ、勇者。

お前が悪いわけじゃねぇよ。

でも……せっかくみんなが苦労して集めたアイテムを……。

僕がしっかりしてれば、こんなことには……グスッ。

それは違いますぞ、勇者殿。

おそらく、勇者殿をかばって死んだふりをするのも、最初から筋書き通りだったはず。

そうだな。まったく大したタマだぜ。
空恐ろしい話であるな。

しかし、立ち話もなんだ。とりあえず我が城で暖かいものでもいかがかな? 酒もあるぞ。

おう、そいつはありがてぇ。ちくしょう、飲まねえとやってらねぇや。
魔王殿、ご厚意痛み入る。かたじけないでござる。
ありがとう、魔王さん……。あ、あの……。
うむ?

今回のことで勉強になりました。

魔物より、本当に怖いのは人間のほうなんだなって。


ふむ、そうか。確かに、そうかもしれぬな。
勉強料は高くついたけどな!
それは言わないで下さいよ~……。
勇者殿。人は誰しも間違いを犯すものでござる。

ただ、失敗を糧としてやり直すことができるもの。

失敗を失敗として認めることができた時、人は成長するのでござるよ。

失敗を失敗として認める……。

うん、今なら分かる気がする! 僕、また一からがんばるよ!

よっしゃ勇者、その意気だ!

俺達もきちんとサポートするぜ!

で、ござるな。
今度勝負する時は最初から全力で参るからな。

覚悟しておれよ。

あちゃ~。ちょ、ちょっとは手加減してくれないかな……。
暗く澱んだ魔界の空に、一同の笑い声が高らかに響くのだった。
ま、魔王様!
案ずるでない、魔界の危機は去ったぞ。

それより、酒宴の準備を頼む。今宵は勇者一行と飲み明かすからな。

いえ、それが……。

手薄になった魔王城に何者かが忍び込んだようでして……。

金目のものが全部なくなっています!!

(一同)あの悪魔------!!
そして、数ヶ月後――。

魔界の四天王が人間界への侵攻を開始する。

「本物の悪魔を成敗する」と言っていたとかなんとか。

おしまい
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登場人物紹介

勇者

まだ幼さが残る。

僧侶

お姉さんタイプ。

戦士

脳筋。

魔術師

一人称は拙者。

魔王

魔王の腹心

カエル

カエル

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