再会6
文字数 1,611文字
ビールを次々と飲み干していく酒豪達。負けじと流し込んだビールを胃に送った。
円卓のテーブルは食い散らかしたオードブルと豪快な笑い声が絶えない。
晋や文成との思い出や馬鹿話ばかりもしていられない。
せっかく来たのだから数少ない友人とも限りある時間をすごさなくては。
グラスを片手に席を離れ既に出来上がっている他のテーブルに向かうやいなや。
「来たぞ浮気探偵が。お前に泣いた奴らは未だ増えてるらしいな」
「浮気を暴いて飲む酒はうまいか?」
「最近つけられてる気がするけどお前か?」
小ばかにされた気もするがこれは彼らなりのジョーク。調査中でなくともたまに顔を合わせれば一つ二つの軽口を叩かれるのもこの職業柄致しかたなく思えるが稀に凹んだりする。
しかし誰かが浮気をするから酒が飲めると思えるとなんとも因果な商売だ。
「しがない探偵はそれで食うしかないんだよ」
「けどまぁ。お前が東京から帰ってきたかと思えば探偵だったとはな」
「あのオンボロ事務所はお前が借りるまでは幽霊が出るって噂があってな」
私が地元で探偵事務所を開業したのは2年ほど前。東京の暮らし、永遠に続くかのような真っ暗な孤独に虚無となった私は地元へと戻りわずかな資金を元手にボロ事務所と浮気探偵という不本意なあだ名を手に入れた。
「恵助聞いてよ。最近旦那が怪しくてさぁ。」
「うちの旦那なんて毎晩どこで道草食ってんのか。今度調べてやる」
今となっては屈強な女性へと変貌し昔はみなあどけない少女だった女性陣は口々に旦那への愚痴
ヘイトスピーチが井戸端会議の如く飛び交う、この悪態は愛情の裏返しであって欲しい。級友家族への浮気調査は気が引ける。それもついこの間人生の大きなターニングポイントを迎えた桐の近くでは桐も心穏やかではいれるまい。桐は下世話な話題にうんうんと頷く。
「まぁまぁ、各々いろいろあるでしょうがそれは二次会のお楽しみに。」
「桐がどんな顔したら良いか困ってるでしょー」
「浮気探偵、元を辿ればお前が元凶だ」
痛いところを突かれてしまいバツが悪い。こんな職業なものであまり自分の職業は明かさない事にしているが不本意なあだ名がこの地域一帯では知れ渡っている事から名乗る前から身の上を知られているのは今では悩みの種であった。
愛想笑いを浮かべ適当に空いた席にを探す。そこは偶然にも隣が桐の隣。
お行儀よく着席し心拍数が上がる。口角が吊り上がる。誰か見てないかと不安になる。
「久しぶりだね恵助。探偵だって聞いたときはビックリしちゃった。元気してた?」
「おかげさまでね。君も元気そうでなによりだよ」
10年ぶりに彼女の声と吊り上がった狐目を向けられてジワリと体温が上がるのを感じた。
おめかしして着てシャツが水分を帯びてくる。鼓動も早る。顔から火が出るとはこの事だ。
「結婚したんだってね。晋から聞いたよ。おめでとう。」
「ありがとう。って言ってもついこないだだからまだ実感もないんだよね」
「またまた。噂じゃ初々しく2人で歩いてるって評判だけどね」
「からかわないでよ。流石の探偵さん。あー怖い怖い。」
いじらしく笑みをこぼす彼女の顔は幸福に満ち足りたもの。左手に口元を添え微笑む仕草は既にあの頃の少女ではないと未だ過去の桐を思い出す私に無邪気な結果を告げる。
彼女が放つ銀色の光が私の胸の奥にチクリと虫よけ針を刺す。きっとこれから抱えきれないほどの喜びを手にしていくのだろう。彼女はもう誰かにとっての大切な存在なのだから。
「式はもう挙げたの?お祝いの品でも贈らせてよ」
「んーん。式はまだ挙げてないの。最近彼、忙しそうだから。」
一瞬、ほんの一瞬ではあったが、桐の表情が曇り、無意識からか手をすり合わせた仕草が指輪を隠すように見えた。もはや職業病とも言える観察と勘が外れてくれればと残りのビールを飲み干した。
円卓のテーブルは食い散らかしたオードブルと豪快な笑い声が絶えない。
晋や文成との思い出や馬鹿話ばかりもしていられない。
せっかく来たのだから数少ない友人とも限りある時間をすごさなくては。
グラスを片手に席を離れ既に出来上がっている他のテーブルに向かうやいなや。
「来たぞ浮気探偵が。お前に泣いた奴らは未だ増えてるらしいな」
「浮気を暴いて飲む酒はうまいか?」
「最近つけられてる気がするけどお前か?」
小ばかにされた気もするがこれは彼らなりのジョーク。調査中でなくともたまに顔を合わせれば一つ二つの軽口を叩かれるのもこの職業柄致しかたなく思えるが稀に凹んだりする。
しかし誰かが浮気をするから酒が飲めると思えるとなんとも因果な商売だ。
「しがない探偵はそれで食うしかないんだよ」
「けどまぁ。お前が東京から帰ってきたかと思えば探偵だったとはな」
「あのオンボロ事務所はお前が借りるまでは幽霊が出るって噂があってな」
私が地元で探偵事務所を開業したのは2年ほど前。東京の暮らし、永遠に続くかのような真っ暗な孤独に虚無となった私は地元へと戻りわずかな資金を元手にボロ事務所と浮気探偵という不本意なあだ名を手に入れた。
「恵助聞いてよ。最近旦那が怪しくてさぁ。」
「うちの旦那なんて毎晩どこで道草食ってんのか。今度調べてやる」
今となっては屈強な女性へと変貌し昔はみなあどけない少女だった女性陣は口々に旦那への愚痴
ヘイトスピーチが井戸端会議の如く飛び交う、この悪態は愛情の裏返しであって欲しい。級友家族への浮気調査は気が引ける。それもついこの間人生の大きなターニングポイントを迎えた桐の近くでは桐も心穏やかではいれるまい。桐は下世話な話題にうんうんと頷く。
「まぁまぁ、各々いろいろあるでしょうがそれは二次会のお楽しみに。」
「桐がどんな顔したら良いか困ってるでしょー」
「浮気探偵、元を辿ればお前が元凶だ」
痛いところを突かれてしまいバツが悪い。こんな職業なものであまり自分の職業は明かさない事にしているが不本意なあだ名がこの地域一帯では知れ渡っている事から名乗る前から身の上を知られているのは今では悩みの種であった。
愛想笑いを浮かべ適当に空いた席にを探す。そこは偶然にも隣が桐の隣。
お行儀よく着席し心拍数が上がる。口角が吊り上がる。誰か見てないかと不安になる。
「久しぶりだね恵助。探偵だって聞いたときはビックリしちゃった。元気してた?」
「おかげさまでね。君も元気そうでなによりだよ」
10年ぶりに彼女の声と吊り上がった狐目を向けられてジワリと体温が上がるのを感じた。
おめかしして着てシャツが水分を帯びてくる。鼓動も早る。顔から火が出るとはこの事だ。
「結婚したんだってね。晋から聞いたよ。おめでとう。」
「ありがとう。って言ってもついこないだだからまだ実感もないんだよね」
「またまた。噂じゃ初々しく2人で歩いてるって評判だけどね」
「からかわないでよ。流石の探偵さん。あー怖い怖い。」
いじらしく笑みをこぼす彼女の顔は幸福に満ち足りたもの。左手に口元を添え微笑む仕草は既にあの頃の少女ではないと未だ過去の桐を思い出す私に無邪気な結果を告げる。
彼女が放つ銀色の光が私の胸の奥にチクリと虫よけ針を刺す。きっとこれから抱えきれないほどの喜びを手にしていくのだろう。彼女はもう誰かにとっての大切な存在なのだから。
「式はもう挙げたの?お祝いの品でも贈らせてよ」
「んーん。式はまだ挙げてないの。最近彼、忙しそうだから。」
一瞬、ほんの一瞬ではあったが、桐の表情が曇り、無意識からか手をすり合わせた仕草が指輪を隠すように見えた。もはや職業病とも言える観察と勘が外れてくれればと残りのビールを飲み干した。