第6話 捕獲

文字数 1,035文字

 しかし誰とも会わずほとんど部屋から出ない暮らしを続けるうち、若くて健康なジョンの体内にはどうしようもない衝動、抗いがたい性的欲求が渦を巻くように高まってきた。通常であれば実際にそういう事に及ばずとも、友人との交流やスポーツで汗を流したりする事で、心身の安定は図られるであろう。しかし母親と2人きりの暮らしの中では、そのような発散方法は望むべくもない。
 さらに悪いことに、敬虔なカトリック信者であるための教育を受けてきたジョンにとって、自慰行為は罪であり神を裏切る行いとされている。結果ジョンは日々ひとり悶々と苦悩するようになり、イライラして母親のアナとの衝突も増えてきた。口論の中である日ジョンは、

「僕はもう耐えられない! 恋人と愛し合うことさえ僕には許されないの? 一生結婚もせず、母さんと2人きりで我慢に我慢を重ねて暮らせというの!?」

 それを聞いたアナは、母親のカンも手伝ってジョンの意図するところを汲みとった。そうね、小さかったジョンも、じき20歳になる。もう大人の男、お嫁さんが欲しくなってもおかしくない年齢なんだわ。アナは息子の成長を誇らしく思いながら、こう返した。

「わかったわ。母さんが、あなたにふさわしく穢れのない、聖母マリア様のようなお嫁さんを見つけてきてあげます」

 次の日からアナは、ショッピングモールや近くの学校周辺で、穢れのない、それは要するに処女であることを意味した、女性を物色しだした。はじめは息子の年齢に近い20歳前後の女性をと考えていたのだが、アナの目にはほとんどの女たちが売女のごとく、だらしなく穢れた女として映った。仕方ないわ、ぜったいに大丈夫そうな年齢まで下げるしかないわね。そう考えたアナは、スクールバスから降りてくる小学生を物かげからじっくりと見定めるようになった。

 そんなアナのお眼鏡にかなったのが、当時12歳になるジェシカだった。母親からのネグレクトによる栄養不良のせいなのか、ずいぶんと痩せてはいたが、その分、妖精のように儚く清い美しさがジェシカにはあった。それに他の子たちには親の迎えが来ていたが、ジェシカは皆と別れてからはひとりで歩いて帰宅していたのも、アナにとっては好都合であった。
 アナは薬剤を染み込ませた布をポケットに忍ばせジェシカの背後に近づくと、後ろから抱えこむようにして鼻と口に布を押しつけた。大柄でがっしりした体格のアナにとってジェシカの捕獲は、まるで道端で野良猫を拾うがごとく造作のないことであった。
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