文字数 509文字

「本当によろしいのですか?」
 侍女が不安そうに訊ねてきたので、フィオナは強い決意を込めた眼差しを鏡越しに向けて、迷うことなくうなずいた。
「お願い。やって」
 侍女が持つ大きなハサミが、躊躇いがちにフィオナの長い髪を切る。



 悲嘆に暮れる両親は、一瞬息子と見間違えるほどに変わってしまったフィオナの姿に目を丸くして口を開けた。
 フィオナの中に迷いはなかった。
 弟を守るためなら、これくらい平気だ。
「これは、お父さんのためじゃないから。エリオットのためだからね」
 はっきりと断言し、フィオナは父親を見据えた。

「私がエリオットの代わりに騎士団に入るから」

 昔からよく似ている双子だと言われていたが、フィオナが長かった髪を切って同じ髪型にすると、長年仕えてくれている侍女も「そっくりです」と驚くほど似ているようだ。
 これだったら、うまくやれば周りにはバレないかもしれない。

「だから、お父さんは早くエリオットと仲直りしてね」

 フィオナ=アリソン。
 歴史あるシンクレア王国の中でも指折りの古い名家であるアリソン伯爵家長女。
 行方不明になった双子の弟の代わりに、ノーブル騎士団へ入団を果たす。
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