8 ぼく

文字数 611文字

 パソコンに予告を打ち込み、送信する。

 しばらくして、携帯電話が鳴った。おかしくなった。きちんとチェックしてるんじゃないか。
 通話ボタンを押した。

〈次はないって言ったはずだぞ〉
 彼の低い声が響いた。

〈見たのか〉
〈ああ、見たよ〉
〈いま見たのか〉

 僕は部屋の壁掛け時計をみやった。彼は無視した。

〈自分のやってることがわかってるのか。幼稚だぜ。いい加減にしろよ〉
〈結局、たれこまなかったじゃないか。言えば良かったのに。せっかく隣にいたんだから〉
〈無茶言うな。きみは――〉
〈たれこめよ〉

 マウスを手に取り、ファイルを一つ開く。エディタをスクロールさせながら、僕は付け加えた。

〈今回は、実行するぜ〉
〈……本気で言ってるのか?〉
〈もちろん。熱中すると周りが見えなくなる――僕の性格はよく知っているだろう。僕はきみと勝負がしたい。そのためには他のことなんてどうでも良くなっている〉
〈脅しか? これは〉
〈裁定してもらおうぜ。あの人事は正しい選択をできるかな? もう誰がやったか(フーダニット)じゃない。どちらがやったか(フィッチダニット)だ。まさか間違えないだろう?〉
〈…………〉
〈社会に人を見る目はあるか。自分の生き方に自信はあるか?〉

 僕は笑う。彼は黙っている。
 はなから面接などどうでもいいのだ。企業も社会も興味ない。
 これはただ彼と僕の信念の話。

〈――勝負だ〉
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