第5話

文字数 573文字

 夕方。だいたい結局いつものくらいの時間になって、私は自分の家へと帰った。
 別れ際、いつもと同じようにふたりしてばいばいって、手を振ってから帰った。途中、なんでかいつも思ったこともない、振り返りたい気持ちになった。だけどそれはしちゃいけないような気がして、前に、前にと意識的に足を進め続けていたと思う。
 家に帰りついた。親に、今日はどんなことがあった?と聞かれた。うちの親は、家に帰りつくといつもこの質問を投げてくる。私は
 「好き、って、言われた」
 「へぇ? あの、最近、いつも遊んでるあの男の子?」
 「うん……」
 「よかったじゃん。好きでしょ? 両想いじゃん」
 好きと言われたのははじめてだった。
 だから、わからなかった。
 「好き同士だといいの?」
 嫌われる事には慣れている。好きと言われたことはなかった。親からも。
 「当たり前じゃない」
 つき合ったりしてる人たちは、好き同士だからつき合っているわけで。私の中にある好き。今わかっている、この好きと、、その好きは、本当に同じ?
 「そう……」
 親が後から帰ってきた兄弟へ「告白されたんだってさ~」と娘に起こった出来事について軽口に教えていた。なんか冷やかすのかと思ったら、返ってきたのはいたって普通のものだった。
 好きが、違うんじゃないかって、わからなくなった。

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