ステイタスから豊かさへ
文字数 2,000文字
グゥオーーンッ、、キィッ!
メルセデスベンツE-Classが立体駐車場に停まり、健二は高階用エレベータで程なく40階の自宅に上った。
「ただいま!安子、体調どう?」出っ張ったお腹で玄関戸を押し開けた。
「お帰りなさい!眩暈は相変わらずだわ。」
「この景色で元気出せよ!景色が良いだけが取り柄のマンションだから、、大阪の真ん中じゃ、緑も無けど。」
「弘!お母さん!ご飯よ!弘!、、、」食卓に冷凍チンしたオムレツ、チキンと野菜のグリルの晩ごはんを並べている。
「弘は今日も高校行ってないのか?」
「今日も一歩も外に出てないわ。静かで物音ひとつしない、、生きてるのかしら?」
「おいおい!、、叱ってもあかんし。」弘の引きこもりが始まったは、このマンションに引っ越してきてからだ。私立高校で成績は上がらず、数学の成績は致命的だ。発達障害の兆候も見られている。
「外出も億劫になってて、晩ごはん簡単でごめんね。大体、エレベーター乗り合わせたら雰囲気最悪!異様よ!50階の人達は皆んな習い事、ゴルフとかするんだって、それをしなかったら爪弾き、おまけに下の階を見下すって言う、馬鹿じゃない!見下されている気が本当にするんだから、外にも出たくなくなるわよ!」確かに、妻の言うタワーマンションのカーストは強烈だ。
「俺達もそのバカの住人だよ。でも、このステイタスにようやく辿り着けたんだから。」
「お母さん只今!どう?このマンションの景色綺麗だろ!お母さんから引き継いだ食品加工ヤマガタ株式会社は、今や『無添加』『オーガニック』にこだわるヤマガタ印の高級ブランド。中国の高級スーパーで大人気なんだよ!」
「凄いわね、、何か手伝うことないかい?」マチ子の反応が少なくなっていた。最近物忘れが出てきて、調理も危ないので止めた。
「お母さんは散々頑張ってきたんだから!ゆっくりしてよ!」と微笑みかけたが、テレビを見た瞬間、顔が強張った。
【ニュース速報です。2020年3月13日に成立した新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく措置です。全国的かつ急速なまん延により、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある場合などに、総理大臣が宣言を行い、緊急的な措置を取る期間や区域を指定します。国民生活に影響が、】
大阪市のギャレイビル3階にある本社に出勤すると、社員の多くが中国取引先の卸先、日本の積荷会社と連絡を取り、現地の情報を収集し対応を始めていた。
「城田!また海上輸送便の運賃が増加したのか?値上がりに次ぐ値上がりはもう止めてくれ!これ以上輸送費用を負担するのは限界だぞ!赤字幅吸収が難しいぞ!」
「社長!運賃の値上がりではありません!コロナ禍で中国政府によって入庫規制が始まります!!」
「何!コロナ禍で入庫が禁止??どう言う事だ!!」
「日本の緊急事態宣言に呼応するように中国も輸入規制を決定してきました。おそらく中国政府による報復です。日本政府が中国人を制限することに対して、日本からの輸入品を制限しようという事でしょう!近い内に商品を出荷、移動ができなくなり、スーパーで販売もできなくなります!!」
「そんな、、馬鹿な、、」目の前が真っ暗になった。この日を境に、事業は暗転した。
2021年「ヤマガタ」は、債務超過、支払い不履行に陥り倒産。重役会議にて裁判所に申し立てを行い受理された。
健二自ら債権回収に奔走し、会社は売却、住んでいた時価総額1億円のタワーマンションを売却、月10万円ローンのベンツE-Classを売却した。そして、母親から譲り受けていた千早村の実家土地と建物も抵当に入れる事になった。
チュンチュン、チッチッチッ、、ツクツクツク、、、朝の目覚めだ。
雀や山鳥たちの声が、老朽化した農家の畳の居間に響いている。健二の交渉の末、家族4人は、抵当に入った実家を借りて住める事になった。
久しぶりにマチ子が山菜の天ぷら、焼きおにぎり等の手料理を円卓に並べ、家族4人が円卓を囲んだ。
「お母さんの会社も、ステイタスも、何もかも無くしてしまい、、お母さん!安子!弘!、、本当にすまん!」憔悴しきった健二が頭を下げた。
マチ子は、本気で答えた「健二には申し訳ない事したけど、ここに帰れて良かったわ。あんな息が詰まるマンションは懲り懲りです。」
安子は、正直に答えた「お母さま、私もこんな鳥や虫の声が聞こえる素敵なところに来て驚いてるの。だって眩暈も鬱も治ったかも!」
弘は話さなかったが、、黙々とご飯を食べていた。
「こうやって、みんなで助け合ったらいいじゃない!ねえ!」
「また、一から出直しか。」健二はやる事もなく、休耕田を耕しに出かけた。
「お、お父さん!僕も手伝うよ。僕も、、一から出直しするよ!」振り返ると、弘が駆け出してきた。
「ひ、ひろし!」弘の目は、イキイキと輝いていた。
貧しさの中で、今までの人生で1番の豊さを感じていた。
メルセデスベンツE-Classが立体駐車場に停まり、健二は高階用エレベータで程なく40階の自宅に上った。
「ただいま!安子、体調どう?」出っ張ったお腹で玄関戸を押し開けた。
「お帰りなさい!眩暈は相変わらずだわ。」
「この景色で元気出せよ!景色が良いだけが取り柄のマンションだから、、大阪の真ん中じゃ、緑も無けど。」
「弘!お母さん!ご飯よ!弘!、、、」食卓に冷凍チンしたオムレツ、チキンと野菜のグリルの晩ごはんを並べている。
「弘は今日も高校行ってないのか?」
「今日も一歩も外に出てないわ。静かで物音ひとつしない、、生きてるのかしら?」
「おいおい!、、叱ってもあかんし。」弘の引きこもりが始まったは、このマンションに引っ越してきてからだ。私立高校で成績は上がらず、数学の成績は致命的だ。発達障害の兆候も見られている。
「外出も億劫になってて、晩ごはん簡単でごめんね。大体、エレベーター乗り合わせたら雰囲気最悪!異様よ!50階の人達は皆んな習い事、ゴルフとかするんだって、それをしなかったら爪弾き、おまけに下の階を見下すって言う、馬鹿じゃない!見下されている気が本当にするんだから、外にも出たくなくなるわよ!」確かに、妻の言うタワーマンションのカーストは強烈だ。
「俺達もそのバカの住人だよ。でも、このステイタスにようやく辿り着けたんだから。」
「お母さん只今!どう?このマンションの景色綺麗だろ!お母さんから引き継いだ食品加工ヤマガタ株式会社は、今や『無添加』『オーガニック』にこだわるヤマガタ印の高級ブランド。中国の高級スーパーで大人気なんだよ!」
「凄いわね、、何か手伝うことないかい?」マチ子の反応が少なくなっていた。最近物忘れが出てきて、調理も危ないので止めた。
「お母さんは散々頑張ってきたんだから!ゆっくりしてよ!」と微笑みかけたが、テレビを見た瞬間、顔が強張った。
【ニュース速報です。2020年3月13日に成立した新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく措置です。全国的かつ急速なまん延により、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある場合などに、総理大臣が宣言を行い、緊急的な措置を取る期間や区域を指定します。国民生活に影響が、】
大阪市のギャレイビル3階にある本社に出勤すると、社員の多くが中国取引先の卸先、日本の積荷会社と連絡を取り、現地の情報を収集し対応を始めていた。
「城田!また海上輸送便の運賃が増加したのか?値上がりに次ぐ値上がりはもう止めてくれ!これ以上輸送費用を負担するのは限界だぞ!赤字幅吸収が難しいぞ!」
「社長!運賃の値上がりではありません!コロナ禍で中国政府によって入庫規制が始まります!!」
「何!コロナ禍で入庫が禁止??どう言う事だ!!」
「日本の緊急事態宣言に呼応するように中国も輸入規制を決定してきました。おそらく中国政府による報復です。日本政府が中国人を制限することに対して、日本からの輸入品を制限しようという事でしょう!近い内に商品を出荷、移動ができなくなり、スーパーで販売もできなくなります!!」
「そんな、、馬鹿な、、」目の前が真っ暗になった。この日を境に、事業は暗転した。
2021年「ヤマガタ」は、債務超過、支払い不履行に陥り倒産。重役会議にて裁判所に申し立てを行い受理された。
健二自ら債権回収に奔走し、会社は売却、住んでいた時価総額1億円のタワーマンションを売却、月10万円ローンのベンツE-Classを売却した。そして、母親から譲り受けていた千早村の実家土地と建物も抵当に入れる事になった。
チュンチュン、チッチッチッ、、ツクツクツク、、、朝の目覚めだ。
雀や山鳥たちの声が、老朽化した農家の畳の居間に響いている。健二の交渉の末、家族4人は、抵当に入った実家を借りて住める事になった。
久しぶりにマチ子が山菜の天ぷら、焼きおにぎり等の手料理を円卓に並べ、家族4人が円卓を囲んだ。
「お母さんの会社も、ステイタスも、何もかも無くしてしまい、、お母さん!安子!弘!、、本当にすまん!」憔悴しきった健二が頭を下げた。
マチ子は、本気で答えた「健二には申し訳ない事したけど、ここに帰れて良かったわ。あんな息が詰まるマンションは懲り懲りです。」
安子は、正直に答えた「お母さま、私もこんな鳥や虫の声が聞こえる素敵なところに来て驚いてるの。だって眩暈も鬱も治ったかも!」
弘は話さなかったが、、黙々とご飯を食べていた。
「こうやって、みんなで助け合ったらいいじゃない!ねえ!」
「また、一から出直しか。」健二はやる事もなく、休耕田を耕しに出かけた。
「お、お父さん!僕も手伝うよ。僕も、、一から出直しするよ!」振り返ると、弘が駆け出してきた。
「ひ、ひろし!」弘の目は、イキイキと輝いていた。
貧しさの中で、今までの人生で1番の豊さを感じていた。