青汁

文字数 2,138文字

 凄まじい勢いで人気を集めるヴィジュアル系ロックバンド「シエロ・ガレリア(Cielo Galleria)」。今月、彼らの待望の最新シングルが発売されたのだが、それについて今ファンの間で激しい議論が巻き起こっている。議論の温度は非常に高く、その内容は大体において否定的だ。まず、それらの状況以前に、議論の中心となるそのシングル曲の内容を紹介するところから始める必要がある。
 今回シエロ・ガレリアが世に発表したシングルは10thシングル「青汁」であった。
 この「青汁」という曲について、大多数のファンはこの上なく紛糾し糾弾した。ファンの中では、涙を流しながら、これまでの自分たちの応援してきた歴史を蹂躙された、だとか、なぜ10thシングルという節目に、このようなふざけた曲を出したのか、バンドの世界観に合わない曲を発表するのはなぜなのか、私はコミックバンドを応援してきたのではない、など、それはそれはあらゆる内容の、もう罵詈雑言に近い内容の投書メールが公式サイトに送られてきた。以下がこれまでのシエロ・ガレリアのシングル曲である。
 「fantasia」
 「Masochist mystery」
 「father」
 「月と星と」
 「last stardast」
 「whiteend governance」
 「why-nazenano-」
 「MO-NO-GO-I」
 「long india turban」
 「青汁」
 ファンの間にはごく少数だが共感を示すものも幾人かいたようで、その根拠として、すでに「whiteend governance」辺りからその兆候はあった、ガバナンスなんて一体全体どういうことなのか、この言葉は耽美とどう繋がりがあるのか、これについての一定数の考察サイトが乱立する等分析をするものも現れた。それにつき、また他の共感者は、「青汁」の一フレーズ「君は青く、僕も青い。その苦い関係性」などというフレーズは、人と人の結びつきについてファンと本人たちとの関係を強く示唆しているといった主張、否定的なファンに対しては、それらを読み取ることのできなかったあなた達(否定派)の原罪・悲哀・無知を思い知るが良い等、口汚く罵るといった、既に思想論争、宗教戦争にも似た現象がおこり、ネット上では対立したファン同士で住所の特定のし合いが行われたり、個人情報が流出しイタズラ電話や見知らぬ出前があほほど来るといった被害が続出した。
 海外においてもヴィジュアル系のファンというのは、一定数存在し、ゴシックロリータをたしなむ女性等の間でその人気を確立している。とりわけ1990年代のヴィジュアル系は海外ではアーリーヴィジュアル系(Early Visual Kei)と称され認知されており、同時に1990年代をリスペクトするファンも多い。
 その時期に確立されたビジュアル系のバンドイメージのキーワードはいくつかある。「刹那・耽美・退廃・陰惨」といったところがキーワードになる。そしてその時代のヴィジュアル系バンドたちは、その世界観の中でそれぞれの色を構築していったのであった。
 そういった経緯があるが、現在のヴィジュアル系バンドはそこから更に細分化していった。
 耽美路線以外でもコミカル路線、アイドル路線といった、それまでのヴィジュアル系では考えられなかった路線も出現していった。
 今回の騒動の渦中となったシエロ・ガレリアについては、1990年代の古きヴィジュアル系を受け継いだバンドと言えた。そしてファンについても、そういったアーリーヴィジュアル系、いわゆる直系のヴィジュアル路線(刹那・耽美・退廃・陰惨)を好むファン層が主体だったのである。そして、その切なさを受け継ぐバンドとして、シエロ・ガレリアは懐古ファンのみならず新規ファンの心をがっつりと掴んだのである。そんな状況からの「青汁」は他に類をみないほどのインパクトがあった。
 翻って、経営側について、よくこの曲にOKを出したという不思議な経緯があったが、平たくいえば、要点要点での意思決定者が、ゴーサインを出したのであった。
 実際のプレス権限をもっているレーベルの最有力者、大山という男はシエロ・ガレリアのボーカル、トオルの良き理解者であった。トオルのいうことは絶対であった。ていうか、トオルを囲っていた。なので、大体のトオルのいうことはOKが出た。平たくいえばトオルの傀儡だったのである。トオルによく100万円の小遣いをあげており、すべてトオルの言う通りだったのだ。恐ろしいことに、彼らの性癖はトオルが飼い主で大山は首に首輪をつけ真っ裸で真夜中の公園を犬のように歩くことに興奮を覚える異常者だった。
 トオルはまた、シエロ・ガレリアの中心人物で、他四人はトオルの下僕であり傀儡であった。他の四人はトオルが笑えといえば笑い、踊れと言えば笑った。10thシングルは青汁でいくぞ、というトオルの言葉に四人は「いいっすね!」と溌剌とした返事をした。そしてそういうとき、トオルはいつもストレス発散で尻キックした。された下僕はあまりの激痛に崩れ落ちた。しかしトオルは超美男子でファンから大人気であった。
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