11-2

文字数 7,453文字

 絶好の機会だった。敵が自ら近付いてくるということは、近接戦闘の具合を確かめられるということに他ならないのだ。静流はナイフを取り出して刃を下向きに持ちながら勢いをつけて振り向き、その時に腕を顔の位置に持ち上げながら横にナイフを振るった。
 銃を盾代わりにしたサジュだったが、静流の力で銃が地面に落ちた。正面に向き合った二人は、静流はナイフの持ち方を変えて切っ先を相手に向け、ナイフを持っていない左手を顎の横でキープさせながら、右手を伸ばして刃を突いた。
 ちょうど人中に向けて伸ばされた刃を、顔を後ろに逸らして避けたサジュは伸びた静流の腕を掴もうとしたが、引きの早い静流の腕は掴まれずに、反対に左ボディアッパーを食らってしまう。肝臓の位置からは逸れているから大したダメージではなく、サジュはすぐに体勢を元に戻すと、次に迫るナイフの突きを、頭を横に傾けて避けた後一歩後ろに引き、腰から抜いた拳銃を腹の位置で構えて三発速射した。静流は横に飛びながら回避し、鉄製の扉の後ろに隠れて、彼も拳銃を取り出してサジュのいた方向に手を出して三発放った。
 途端、扉が強烈な勢いで静流を押して、彼はうつ伏せになった。すぐに視線を扉に戻すと、大きく開いた扉の向こう側にサジュが立っていた。即座に銃を構えた静流は銃声を轟かせながら射線の死角外である壁へと回りこみ、一つの呼吸の後に前転をしながら廊下に飛び出した。片膝立ちの姿勢で銃を構えるが、既にサジュはそこにいなかった。
 危機を感じた静流はその場で匍匐の体勢になった。頬の真横を鉛玉が通過し、地面に穴を開けた。静流は仰向けに転がって頭を持ち上げながら二丁の拳銃で連射した。
 FN-2000を取り戻していたサジュは階段側へ回避し、破片手榴弾を投げ込んだ。静流は咄嗟に手榴弾を掴んで階段側へ投げ込み、鼓膜が震えるほどの破裂音が鳴った。
 訪れた静寂の傍らで静流は立ち上がり、対角にある階段へど走った。
 飲もうとしていたティーカップを飲まずに持ったまま、ミアンナはテレビモニターに釘付けになっていた。
 今までにない、銃と銃との戦いだ。あの鉛玉が体を貫通した時に生じる不利益が、いかに勝敗を左右するかは理解が容易い。先に撃たれた側が負ける、集中力とスピード、それから判断力の勝負だった。今は互いが互いを牽制しているが、サジュが一度見せた手加減によるものだと知っておく必要がある。
 静流の肩を叩く前に銃で撃てば有利を取れたはずなのに、サジュはしなかった。
「あっ、ありました。ミアンナ様」
 人間名簿でページを捲っていたホロエが嬉しそうに声を出し、ミアンナの横でしゃがんだ。ミアンナは椅子に座ったままホロエに顔を近づけ、二人は揃って本に目を向けている。
 マクロイド・サジュ。
 アメリカ軍の初代第二レンジャー大隊であり、ノルマンディー上陸作戦、ヒュトルゲン森の戦いの衛生兵にて多大な功績を残す。第二次世界大戦後の解隊後はギリシャ内戦に参加。アメリカ軍としてではなく、一個人として参加するが敵対しているギリシャ民主軍に自軍の情報を流すという裏切り行為を行い、内戦の終結とともに民主軍の一人がサジュの裏切りを話し、三年に及ぶ裁判で処刑が下される。
「ギリシャって、あの神話が有名な場所ですよね」
 ホロエの問いに、ミアンナは頷いた。
「かつて私もギリシャ人でした。昔も戦争はありましたが、まさか自国同士で争うなんて。なんだか、胸が苦しく感じます。人間は歴史から学ぶことを知らない」
「何があったのかは知らないですけど、何か特別な理由があって内戦が始まっちゃったんですよ。私、思うんですけど、内戦っていうのは国民と政府との戦いってことですよね。それ、要するに国をよりよくしようとして戦ってるってことだと思うんです。それなら、誇りある戦いじゃないのかなって」
「戦争とは、いかなる理由があろうとも誇れるものではありません。この目で戦争の恐ろしさは見ましたから」
 助けを乞う兵士、血を垂れ流しながら失った右手を持ち彷徨う兵士。絶望しながらも光を求めて戦い、勝利した先にあるのは新たな絶望だ。
 人間とは非常に愚かなのだ。まるで戦争に勝利すれば、その先は全て幸福だと思っているのだ。それは大きな間違いである。
「五界は神に見放された世界です。その世界に生きるだけでも苦痛だというのに、人間は戦争を引き起こして自分たちを苦しめる。戦争だけじゃない。人種や性別、能力や容姿。ちょっとした違いで人は人を侮蔑し、そこに争いが生まれることもある。おかしいではありませんか。命を宿すということは、即ち多くの試練を引き受けるということです。それは個人ではなく、人間として。人間は共通の試練があり、そこに個々の課題がある。そこに国や人種は関係ない。人間が皆、手を取り合って協力しなくてはならない」
 言葉を歩めるにつれ、ミアンナの口調には熱がこもり始めた。彼女はカップを机の上に置いて、脱力するように息を吐いた。
「だというのに、まだ戦争をしているなんて」
「シズルさんの職業も殺し屋だったんですよね。私達人間は、もしかしたらこの先もずっと戦争をするのかな……」
「人間達が戦争や、私利私欲のための殺人をやめない限り、ずっとシズルの戦いは続きます。それは非常に、嘆かわしいことです」
 第二次世界大戦中、ドイツの占領下にあったギリシャでは飢餓が蔓延していた。飢餓による死者数の多さが切っ掛けとなり民族人民解放軍が反乱の気運を強めていた。だがバルカン半島にソ連が侵攻するとドイツ軍は撤退し、イギリス軍が上陸、ギリシャの解放が行われる。
 内戦が起きたのはその後だった。
 第二次世界大戦も同じようにして、戦争の終結後はすぐにアメリカとソ連における冷戦が始まり、ドイツの二分割やアジアでの内紛が続く。
 戦争が終わればまた新たな戦争、問題が発足するのだ。人類が目指すべく世界平和という未来に到着するには、全人類が歴史を学ぶ必要があり、戦争の凄惨さを知り、歴史を繰り返さない強い意志を身に宿す必要がある。これは一部の人間に必要なことではない。全人類に必要なのだ。
 到底不可能だろう。人間は創造と破壊によって生まれ、成長している。シンギュラリティのように、人間がどこかで変革するならば可能性は膨れ上がるだろう。
 静流達の戦いに変化がなく、思案していたミアンナは突如として鳴り響いた銃声に驚いて肩を一瞬だけ持ち上げた。モニターを見ると、教室の中で静流が椅子に座っていて、サジュは天井に銃口を向けていた。
 接敵した場所とは反対の階段に走った静流は、大げさに足音を立てながら二階に駆け上がっていた。銃を両手でCARの構えを取り、鼻の位置まで銃を上げる。足音を消しながら歩き続け、閉まっていた引き戸を開けて、開始地点の教室に入りながら教卓の後ろに隠れると銃の再装填を行った。
 弾を込め終えると同時に、地面が振動し始めた。上空をヘリコプターが飛んでいて、旋風を巻きおろしながら降下している。静流は立ち上がり、窓の外に視線をこらした。
 降下したヘリコプターから、静流は見たこともない軍の姿を視認した。
「ギリシャ民主軍だ」
 背後から声が聞こえて静流は振り返ったが、サジュはいなかった。彼は部屋の外にいるのか、廊下から声が響いている。
「あのヘリには俺も乗っていた」
「ここはギリシャだったのか」
「正確にはテッサリアだ」
 軍達はアサルトライフルを手に何かのやり取りをしている。ヘリコプターの駆動は既に止まっているが、会話の内容は聞こえてこない。
「この後、俺以外の全員が死ぬ」
 七人の兵士達が集合して、会談でも開くかのように話し合っている。中には陽気な男もいて、腰を振りながら踊っていたり、銀紙に包まれたチョコレートを食べている男もいた。
「ここは何処なんだ。お前の過去なのか」
「そうだ。忘れちゃならない、俺の過去だ。ギリシャ軍はこの後の惨事を公にするべきではないとして、暗黒の歴史として葬り去っているから表には出ていない」
「何が起きたんだ」
「この時、隊の中にいた男の妻がギリシャ軍の男一人に人質に取られていた。俺たちは人質を救おうと、交渉するべく地に降りたんだ。相手は一人、俺たちは六人。簡単な戦場だと思っていた」
 両手を上にあげて、煙草を口にくわえたサジュが教室に入ってきた。静流は酒を取り出して、椅子に座った。
 戦場なのに呑気すぎると、彼と自分自身を卑下するような感想を静流は抱いた。
「自分の家族を失ったという男の虚しい抵抗だった。ギリシャ軍でも彼の行動は非人道性が強いものとしていたが、そんなのお構いなしだ。自軍の説得も聞かず。俺たちは出てくるなとギリシャ軍から牽制を受けてたんだが、旦那さんも黙ってなかった」
「泥沼って感じだな」
「だろ。人質の家にはギリシャ軍が駐屯していたが、数は多くなかった。所詮、一般市民の人質だ。ギリシャ軍も、別に民主軍の嫁さんが死んだところでいくらでも有耶無耶にできると分かっていたから、説得も無作法なものだったんじゃないか」
 民主軍たちは学校とは反対側に歩き出した。男達の勇ましい背中が見える。
「家につくや否や、旦那さんが駐屯していたギリシャ軍に対して攻撃を開始した。一般市民達がいる市街地で。小さな戦争が始まって、部隊は少なくないダメージを受けた。多分、銃撃で嫁さんにも逃げるチャンスができたんだと思う。家から嫁さんが飛び出してきた。そしたら」
 サジュの手にしていた銃から銃弾が飛び出した。天井に穴が空き、埃が地面に落ちる。
「兵士が嫁さんを撃った。キチガイ男じゃなくて、普通の兵士が。唖然とした俺たちだったが、単純な怒りに支配された。命も省みずに、俺以外の五人はギリシャ軍に突撃した。だが俺は、相手の兵士を殺せない。言い訳ができなくなっちまうからな」
「スパイだった、ということか。お前が」
「ご名答。後は単純明快だ。五人は全員死亡し、捕らえられた俺はありったけの言い訳を使って処刑を免れた。あの時、どうして嫁さんが撃たれたのかは知らない。だが俺はこう思ってる。正義の味方、ギリシャ軍が人質をとったなんて世の中に知られたら、世論はどうなる。俺の仲間も、嫁さんも口封じのために殺されたって。現に報道では、嫁さんの死は射殺ではなく事故って扱いになってる。市街地を守っていたギリシャ軍に突撃した、愚かな民主軍の仕業としてな」
 サジュは銃を地面に捨てた。まだ弾は入っているはずだったが、ベルトで固定されていたサバイバルナイフを取り出して、静流に向けた。
「さて、そろそろ観客が飽きてきてるだろう。俺の話なんざ聞いても面白くねぇってな。ここの観客が求めてるのは、思い出話じゃないんだ」
「銃は使わないのか」
「ああ、これで戦うのは俺が飽きた。ここじゃ狭いから、廊下でやろうぜ。俺は前の出口から外に出てるから、お前さんは準備ができたら後ろから来い。待ってる」
 窓の外に目を移すと、男達の姿はもう無かった。静流は景気付けの一口で喉を潤してからダガーナイフを持って、立ち上がった。
 静流はサジュの投げ捨てた銃の真横に、二丁の銃を置いた。親と一緒に寝る子猫のような光景だ。人を殺すためだけの道具が作る愛嬌は、金属のように硬かった。
 廊下に出ると、サジュは素振りをしていた。静流の姿が見えると彼は口を閉じながら笑みを見せ、二人は互いにナイフを構えて向き合った。
 静流は右手で構えたナイフは顎の斜め前に置き、同じ高さで開いた左手を置く。いつでも顔を防御できる姿勢だ。対するサジュは、左手でナイフを持って胸の位置に下げ、右手は左手よりも引いた位置にある。
 緊縛した空気の中でも、サジュは笑みを崩さなかった。勝つ自信があるのだろう。相手は自分よりも年下の若造だし、今まで常にサジュが優位をとっていた。現に静流は、ナイフで戦うより徒手戦闘が慣れているし、自分にも合っていた。
 相手は超能力を使ってこない人間だとしても、互角かそれ以下だ。相手のナイフを奪うか破壊することさえできれば、戦況は変わってくる。
 右足から前に走り出したサジュは、静流の前で止まると同時に左で突く。顔に向けられた突きを左手で弾いた静流は反撃はせず、ボディに向けられたアッパーを体を曲げて溝内から逸らし、体を元に戻す回転力を利用して左の裏拳を放った。
 左腕で拳を受け止め、サジュは次に静流の右手に上段足刀を打った。あまりの速さに反応ができなかった静流は、手を開いてナイフがはじけ飛んだ。ナイフは壁に突き刺さり、その位置を確認した静流は視線をサジュに戻し、再び顔に向けられたナイフの突きをしゃがんで回避すると、腰の重心を上に戻すと同時に顎に向けてアッパーを突き上げた。
 後ろにステップして回避され、静流は壁に刺さったナイフを取ろうと走り出すが、サジュはナイフを投擲して伸ばした静流の右腕に突き刺す。怯んだ静流の脇腹に中段蹴りをみまって地面に倒したサジュは壁に突き刺さったダガーナイフを奪い、立ち上がる静流の腹部にナイフを向けた。
 体を横に反らして辛くも回避した静流は右肘を使ってサジュの手首に打撃を与えてナイフを落とし、前に一歩進んでサジュの腹部に膝蹴りを与え、前に逸れた彼の背中に縦向きの拳を叩きこんでから爪先で顎を蹴り、距離を取った。
 静流は服の中に閉まっていた弾倉から一発の銃弾を抜くと、右腕に刺さっていたナイフを抜いた。溢れ出た血をアルコールで洗い落として服で拭き、銃弾の中から火薬を取り出して傷口に撒いた。ズボンのポケットからマッチ箱を取り出した静流はマッチ棒に火をつけ、火を火薬に近付けた。
 歯を食いしばりながら焼けるような痛みに耐えた静流は、弾倉とマッチ箱を乱暴に地面に投げ落とし、焼ける右腕を抑えながらサジュに向き直った。
 彼は右腕を前に、左腕を後ろに胸の位置に構えた徒手で、静流の応急処置が終わると一気に距離を詰めた。間合いに入るや否や左ボディブローを放ち、静流は足を持ち上げて受け止め右から迫るフックを右手でブロックし、頭を下げて右ボディフックを繰り出した。
 脇腹に直接ダメージが入ったがサジュは怯まず、後ろ回し上段蹴りで静流の首に踵を食らわし同じ足で中段蹴りを放つ。静流は中段蹴りを受け止め足を掴むべく両手を前に伸ばしたが、伸びた両腕はむしろサジュに掴まれてしまい手前に引かれて首相撲を制される。サジュは首相撲から静流の額に膝蹴りを三度与え、横に投げる。地面に受け身を取り静流は即座に立ち上がると、二人は互いに睨み合う。
 次に先手を取ったのは静流だった。
 地面に落ちていたサバイバルナイフを拾い、上下に三打突く。二回は避けられたが、三回目の顔への突撃でサジュの頬に切り傷を作った。サジュは怯まず反撃の正拳を前に伸ばし、静流の胸に命中させる。呼吸が苦しくなりながら、静流は右ローキックを即座に当て、初めて痛みで呻いたサジュの右腕、左腕の関節に蹴りを叩きこんで地面に向けてから、腹部にナイフを刺しナイフを抜こうとするサジュの片手に中段蹴りを放ち、更にナイフを深々と突き刺す。
 ナイフを失った静流は竜の構えを取り、右腕を頭の位置まであげて肘を曲げた。
「お前さん、意外と強いんだな。若いから楽勝だと思ってたんだが」
「五界にいた頃、何度も死にかけたからな。ぶっちゃけ三界に来てもそうだ。毎戦、死との戦いだ。だがサジュ、まだ負けたわけじゃないんだろ」
「言うねえ。お前さんの言う通り、まだ負けた訳じゃない。それどころか、これからが本番といってもいい」
 上着の内ポケットから紫色の液体が入った注射器を手にした彼は、ナイフを抜いて傷口に突き刺した。目を強く瞑って痛みと戦っていた彼の傷口はみるみるうちに回復し、目が赤く充血し始めた。サジュは注射器を捨て、一分経つと目の充血は収まった。
「すげえだろ。この世界に来て手に入れたんだ」
「回復薬って言ったところか」
「厳密には違う。これは人体の身体の状態を進化させる薬だ。俺の身体は未来に行っちまったのさ。ステロイドの成分も入っているから、五分前よりも厄介になったかもな、俺が」
「その薬、どこで手に入れたんだ。よかったら俺にも教えてくれないか。まとめ買いしてやる」
「売り物じゃない。俺の主が開発したんだ」
 人の身体を未来の物にする薬だ。副作用も当然あるはずだが、それを聞き出すのは戦いが終わった後でもいいだろう。薬について知れれば、あわよくばミアンナが似たような薬を開発すればディーグとの戦いで役に立つかもしれない。ミアンナが知らなくても、サジュの守吟神に会えれば。
「よし、第二ラウンドと行こうぜ」
 すっかり元気になったサジュは、静流よりも体力が有り余っていた。最初の時点で不利を強いられていたというのに、今や圧倒的に差が開いていた。勝率は下がり、静流の額から汗が流れ落ちた。
 今は勝つ方法を模索するしかない。彼が後何個の注射器を持っているのかさえ不明なのだ。
(相棒の体力は無限大にあるわけじゃない。もし次回復されちまったら、勝利はないぞ)
 サジュは注射器を右の胸ポケットから取り出していた。接近して隙を見計らい奪い取るか、注射器が使えないレベルまで体力を根こそぎ奪うかだ。
 問題は、どちらもほぼ不可能に近いということだ。
(こうなりゃ、ヤケだ)
(お、おいちょっと相棒! お前それ本気で――っておい! 死ぬぞ!)
 静流は後先考えずに前に走り出し、サジュと間合いを詰めた。右後ろ回し蹴りを横に避けて回避され、静流は流れるように右裏拳を繰り出すが、静流の腕は両腕で掴まれ地面に投げ倒される。起き上がろうと中腰になったところで人中に踵が当たり、静流は眩暈で仰向けに倒される。
 グランドポジションを取られ、開いた両足の間に座り込んだサジュは静流の顔面に鉄槌打ちを続けざまに与えていた。
 相棒の声は少しずつ聞こえなくなっていく。痛みという感覚さえ薄れていく。サジュは息を切らして手を止め、こう言った。
「シズルっていったか。大丈夫だ、お前さんのことは決して忘れない。意味のある敗北だ。俺にはやるべきことがある。だからこの負けは、価値がある」
 静流は何も言わなかった。口からは血が垂れている。
「よくここまで頑張って戦ってきたよ。もう休め」
 サジュはどこからか拳銃を取り出して、両手で構えていた。
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