1 ✿ たった4人の野球部

文字数 1,232文字



 守部(もりべ) 良治(りょうじ)は、野球バカである。
 彼の本棚は野球のテクニック本と、野球漫画で占められている。
 生まれてきた一番の理由は野球をしたかったからだと、良治は考えていた。

 スポーツ推薦を受けて、名門朝野高校の野球部に入学した。
 一年の夏は惜しくも決勝戦でチームが予選敗退。
 「二年の夏こそは!」とかけていた。

 そして二年の夏。
 良治はあこがれていた1番を背につけていた。
 学校のベンチに座り、呆然と空の入道雲をながめる。

 隣には同じ二年の「五ヶ瀬(ごかせ)」という少年が腰かけている。
 となりのベンチには一年生の二人組、「竹脇(たけわき)」と「蓮野(はすの)」が座る。

 今日は、八月十日、午後十二時、土曜日。
 休憩中の良治たち野球部員の表情は、お通夜のように暗い。
 すると植木の向こうから女子の会話が聞こえてきた。

グラウンドに野球部がいない…」

 女生徒は、金網からグラウンドをのぞき「ああ、そっか!」と声を上げた。

「今、部停だっけ?」

「暴力事件でね。今年は甲子園の予選にも出られなかったんだよ。ほんと、まじやめて欲しいんだけど。うちのガッコのイメージが悪くなるじゃん」

「他の部もそういう事件があるのかってさ。誤解されるし。迷惑」

「一部の馬鹿な男子のせいで」

まじめにやってたヤツ、かわいそう」

 野球部の四人は、女子たちの会話に聞き耳を立てていた。
 彼女らが去ったあと、

まじめにやってたんすけどねー、俺らは

 良治は、空のジュース缶をバキベキとにぎりしめた。

「…先輩、顔怖いっす
 一年生の竹脇(たけわき)が震えた。

「その顔で、お化け屋敷に出られそうです」
 一年生の蓮野(はすの)が、良治の強面を見て言った。

「今年の夏はヒマだし、バイトの面接行ったらどうだ。憂さ晴らしにリア充どもを冷やかしてくれば?」
 五ヶ瀬(ごかせ)の言葉に、良治はむすっとした。

「リア充? 勝手にくっついて、勝手に爆ぜちまえばいいんだ

 良治は、ふんっと鼻を鳴らす。

「さぁ、休憩終了。練習すっぞ」

「えぇ~」

「もう少し休んでましょうよ」

 竹脇と蓮野が、唇をとがらせる。

「良治。すごく言いにくいんだがな…」

 すると五ヶ瀬が、溜息まじりにこう言った。


たった四人で、どうやって野球をやれと?


 良治も誰も何も言わず、シーン…と静かな空気が流れる。
「くそぉ…」
 良治の目に、じわりと涙がうかんだ。


遠いなぁ、甲子園


 空を仰ぐと、一筋の飛行機雲が伸びていた。


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登場人物紹介

マリー・ローゼンクランツ


 絵画修復士を目指す少女。

 事件に巻き込まれ、傷心旅行で日本へやってきた。

(事件の詳細は、前作:ローゼンクランツの王 を参照)

守部 良治 (もりべ・りょうじ)


 高校二年生。球児。

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