【幕間】ささやかな反抗(1)
文字数 3,821文字
◇
ひたひたと足首まで満ちてくる真紅の液体。
ろうそく一本を入れたランプの薄暗い光の中で、それはまるで闇の海のようにシャインは感じた。
屋敷の地下にある鍾乳洞を利用して作られたワイン蔵に閉じ込められて、どれほどの時が過ぎただろう。
事の発端はあの男の前で、死んだ母親の事を口にしたせいだった。
◇
十四才になり、シャイン・グラヴェールはアスラトルにある、エルシーア王立海軍の士官学校へ入学することが決まった。
アスラトルは北の王都ミレンディルアの山奥を源流とする大河、エルドロインが海へ注ぐ河口にある古い都だ。
エルドロイン川を船で上流に遡れば王都に行くことができるので、(許可がいるが)その警備のためこの街に海軍本部が設置されている。
グラヴェール家はアスラトルで十指に入る古い家で、代々、海軍将校を輩出していることで知られている。
当主で父親のアドビス・グラヴェールもその例にもれず、現在参謀司令官の地位にある。そんな家柄であるから、一人息子のシャインが海軍へ入れられるのは必然であった。自分の意志とは関係なく決められたことだったが、シャインはあっさりとアドビスの言葉に従った。
ひとり乗り用の小帆船は自在に操れるし、常に風を感じられる船に乗ることはとても好きなのだ。
本音を言えば、軍人より気楽な商船に乗りたかったのは言うまでもない。
その日は父アドビスが、アスラトルの<西区>にあるグラヴェ-ル屋敷へ珍しく戻っていた。海軍省本部に詰めているため、二、三ヶ月帰ってこないことはざらなだけに、その父親を客間で待たせているシャインは、自分が緊張しているのを嫌と言うほど感じていた。
エルシーアの碧色の海が見える出窓は開かれ、潮の香りが柔らかな風と共に鼻をくすぐる。白を基調とした壁紙のせいで室内は明るく、それ故に、アドビスの黒い将官服がくっきりとした輪郭を浮かび上がらせている。
アドビスは、まるで軍艦のマストのようにそびえる長身の持ち主で、四十を目前にしながらも、金色の獅子のように後方へかき上げられている髪は、少しも輝きが色褪せていなかった。
慌てて客間へ姿を見せたシャインへ、アドビスは鋭い鷹のような水色の瞳をちらりと向けた。
ひきしめられた口元。眉間に寄せられた彫の深いしわ。相変わらずの無関心面。
怒ることはあっても、アドビスが声を立てて笑うところなど、シャインは一度も見たことがない。いや、あの男にそんな顔があるのだろうか。
シャインは左右に分けた前髪を、そっと右手で払った。
月影色の金髪と、優し気な印象をあたえる青緑の瞳を持つシャインは、アドビスにちっとも似ていない。
自分に対するアドビスの態度はいつもそっけなく、機嫌がかなり良くないと、会話は用件のみで終わってしまう。実はわけありな親子関係だ。
「お待たせしてすみません」
シャインが詫びる声を聞いているのかいないのか。
アドビスの顔には何の表情も浮かんでいない。
「ぴったりに仕上がりました。立派な紳士ぶりです。いかがでしょうか?」
シャインの後ろから、小太りの黒髪の男が続けて部屋の中に入り、彼はアドビスに向かって会釈した。黒髪の中年男は仕立て屋で、シャインは出来上がったばかりの、士官学校の制服を身にまとっていた。白いダブル襟のコートタイプで、ウエストを黒のベルトで締めたシンプルなデザインだ。
「お前はどうなのだ。お前に不都合がなければそれでよかろう?」
低い、ややかすれがかったアドビスの声が、シャインの耳に響く。
「サイズは合っていると思います。動きにくい所も別にありません」
軽く身をよじってシャインは答えた。
「ご満足いただけて光栄の至りです。シャイン様」
仕立て屋は目元を細めて、うれしそうに微笑した。
細長い指をすり合わせ、さらに深く腰を折る。
「晴れて士官学校を卒業され、任官が叶ったその暁には、ぜひとも私めに新しい軍服をご用命下さいませ」
「ありがとう。その時がきたら、お願いいたします」
大きな黒い鞄を小脇に抱え、仕立て屋はもう一度アドビスとシャインへ頭を下げると部屋を出ていった。
それを見送ったアドビスは、いそいそと扉へ自分も歩み寄った。
「用件は終わった。私も海軍省へ戻る」
「……あの」
扉の取っ手へ指を伸ばしたアドビスが、怪訝な顔をして振り返った。
「何だ」
その瞳はアドビスの肩までしかないシャインを、高みから見下ろすことで圧倒的な威圧感を漂わせている。気後れしそうな自分を叱咤し、シャインはごくりと生唾を飲み込んで、だがその視線はアドビスを見据えたまま口を開いた。
「明後日、俺は<東区>の士官学校の寮に行きます……」
「それがどうした」
アドビスは踵を返し、扉の取っ手を回す。
「しばらくこちらへ帰ることはありませんし、自由な時間もとれなくなります。ですから」
かすかなきしみ声を上げて扉が開く。
「一度母の墓へ行って報告をしたいのです。お願いです、場所を教えて下さい」
シャインの視界は黒い影が落ちてさえぎられた。息を詰めて顔を上げると、自分を見下ろすアドビスの目は、光を失いぽっかりとあいた空虚のようだった。
「……その必要はない」
これまで幾度となく聞いた無情の言葉が、アドビスのかすれた声で紡がれる。
「何故です。母は俺が生まれてから、間もなく亡くなったのでしょう? どうしてその墓に行くことが駄目なのです?」
アドビスの節くれた指がぐっと握りしめられる。
眉間の縦ジワがさらにくっきりと浮かび上がり、アドビスは無表情のまま首を横に振った。
「行った所で……無駄なことだ」
シャインは胸の内に熱いものが込み上げるのを感じた。
「どうして無駄なのですか? あなたの行為は、まるで母の存在を忘れ去るような仕打ちに感じます」
「黙れ。お前に何が分かる」
「分りません。あなたこそ、俺の気持ちを分かろうとしないくせに!」
「……」
アドビスの落ち窪んだ瞳が、一瞬鋭い光を帯びる。
シャインは突如アドビスに、右腕を掴まれて後ろ手にねじり上げられるの感じた。
「つっ!」
あまりの痛さにこめかみから冷たい汗が流れ落ちる。
鷹の太い足に押さえ付けられたウサギのような心境だ。
「シャイン、私は忙しい。お前の戯れ言に付き合っているヒマはないのだ」
背後から重苦しいアドビスの声が響く。
腕を掴むそれにぐっと力が込められる。
「……一体、母の、何を、隠しているんです」
うつむいてシャインは息を吐きながらつぶやいた。
だがその言葉がさらにアドビスの癪に障ったらしい。
アドビスはシャインの背中を左手で押し、無理矢理前へ歩かせた。右手をがっしりと掴んだまま、客間を出て青いじゅうたんが敷かれた廊下を歩く。
すれちがった執事のエイブリーが、その光景をみて立ちすくんだ。
「アドビス様! 一体何を……」
アドビスはそれに応えず、調理場の方へシャインを引きずっていった。
その手前にある緑の小さな扉の前に立つと、空いた左手でそれを開く。扉の奥からひんやりとした空気が出てきて、その冷たさにシャインは肌が粟立つのを感じた。
「私を煩わせるな。しばらくここで頭を冷やせ」
「……!」
流れるような仕種でアドビスは、シャインを扉の中へ押し込んだ。
シャインが思わず振り返り、扉の取っ手へ手を伸ばそうとした瞬間、それはぴったりと閉ざされた。
シャインは閉じた扉を両手で叩いた。
アドビスの足音が、気配が、遠くなっていくのが分かる。
「……」
声を上げかけて、シャインはそれをやっとの思いで飲み込んだ。
アドビスの癇癪は今に始まったことではない。ただ、あそこまで怒りをあらわにした顔を見たのは初めてだった。ずきずきと痛む右肩をそっと左手でかばい、シャインはドアに背を預けたまま静かにその場へ腰を下ろした。
ここは屋敷のワイン蔵だ。シャインは石造りの階段の一番上の段に座っている。天井にあるろうそくを立てたランプが唯一の灯りだが、その光量は暗く、十段ばかりある階段の一番下まで照らせる程明るくない。
周りを闇で覆われたこの場所は、うるさい子供を黙らせるには最適の場所かもしれない。シャインはそう考えながら、ぼんやりと暗い闇へ目を走らせた。
グラヴェール屋敷は岬のふもとに建っていて、その下の崖にはいくつも洞窟が口を開いている。その洞窟の一部が屋敷の地下でつながっており、初代当主がワイン蔵として改造した場所だった。
蔵の壁は天然の鍾乳石で、中を満たす空気は心地よい冷気を伴っている。だが汗に濡れた肌がどんどん冷たくなり、息を吸い込む度にその冷気が、身体の内をもゆっくりと凍らせていくようだ。
シャインは膝を抱えて顔を埋めた。
頭どころではない。すぐさま凍えるというほどではないが、このまま何時間も閉じ込められるなら、体はすっかり冷えきってしまうだろう。
どうして自分がこんな目にあわなければならないのか。
まったくもって理不尽だと感じる。
アドビスは死んだ母親の事を口にすると、何故か機嫌を悪くした。
すぐ変化する山の天気のように。
だからその事はなるべく触れないように気をつけていた。本当は何が原因で死んだのか知りたいし、どんな人だったのか聞いてみたかった。
けれど尋ねてみたところでアドビスが、母親の事を話すことはまったくなかった。考えれば考える程、アドビスに対する怒りがシャインの胸の内で沸き起こった。
ひたひたと足首まで満ちてくる真紅の液体。
ろうそく一本を入れたランプの薄暗い光の中で、それはまるで闇の海のようにシャインは感じた。
屋敷の地下にある鍾乳洞を利用して作られたワイン蔵に閉じ込められて、どれほどの時が過ぎただろう。
事の発端はあの男の前で、死んだ母親の事を口にしたせいだった。
◇
十四才になり、シャイン・グラヴェールはアスラトルにある、エルシーア王立海軍の士官学校へ入学することが決まった。
アスラトルは北の王都ミレンディルアの山奥を源流とする大河、エルドロインが海へ注ぐ河口にある古い都だ。
エルドロイン川を船で上流に遡れば王都に行くことができるので、(許可がいるが)その警備のためこの街に海軍本部が設置されている。
グラヴェール家はアスラトルで十指に入る古い家で、代々、海軍将校を輩出していることで知られている。
当主で父親のアドビス・グラヴェールもその例にもれず、現在参謀司令官の地位にある。そんな家柄であるから、一人息子のシャインが海軍へ入れられるのは必然であった。自分の意志とは関係なく決められたことだったが、シャインはあっさりとアドビスの言葉に従った。
ひとり乗り用の小帆船は自在に操れるし、常に風を感じられる船に乗ることはとても好きなのだ。
本音を言えば、軍人より気楽な商船に乗りたかったのは言うまでもない。
その日は父アドビスが、アスラトルの<西区>にあるグラヴェ-ル屋敷へ珍しく戻っていた。海軍省本部に詰めているため、二、三ヶ月帰ってこないことはざらなだけに、その父親を客間で待たせているシャインは、自分が緊張しているのを嫌と言うほど感じていた。
エルシーアの碧色の海が見える出窓は開かれ、潮の香りが柔らかな風と共に鼻をくすぐる。白を基調とした壁紙のせいで室内は明るく、それ故に、アドビスの黒い将官服がくっきりとした輪郭を浮かび上がらせている。
アドビスは、まるで軍艦のマストのようにそびえる長身の持ち主で、四十を目前にしながらも、金色の獅子のように後方へかき上げられている髪は、少しも輝きが色褪せていなかった。
慌てて客間へ姿を見せたシャインへ、アドビスは鋭い鷹のような水色の瞳をちらりと向けた。
ひきしめられた口元。眉間に寄せられた彫の深いしわ。相変わらずの無関心面。
怒ることはあっても、アドビスが声を立てて笑うところなど、シャインは一度も見たことがない。いや、あの男にそんな顔があるのだろうか。
シャインは左右に分けた前髪を、そっと右手で払った。
月影色の金髪と、優し気な印象をあたえる青緑の瞳を持つシャインは、アドビスにちっとも似ていない。
自分に対するアドビスの態度はいつもそっけなく、機嫌がかなり良くないと、会話は用件のみで終わってしまう。実はわけありな親子関係だ。
「お待たせしてすみません」
シャインが詫びる声を聞いているのかいないのか。
アドビスの顔には何の表情も浮かんでいない。
「ぴったりに仕上がりました。立派な紳士ぶりです。いかがでしょうか?」
シャインの後ろから、小太りの黒髪の男が続けて部屋の中に入り、彼はアドビスに向かって会釈した。黒髪の中年男は仕立て屋で、シャインは出来上がったばかりの、士官学校の制服を身にまとっていた。白いダブル襟のコートタイプで、ウエストを黒のベルトで締めたシンプルなデザインだ。
「お前はどうなのだ。お前に不都合がなければそれでよかろう?」
低い、ややかすれがかったアドビスの声が、シャインの耳に響く。
「サイズは合っていると思います。動きにくい所も別にありません」
軽く身をよじってシャインは答えた。
「ご満足いただけて光栄の至りです。シャイン様」
仕立て屋は目元を細めて、うれしそうに微笑した。
細長い指をすり合わせ、さらに深く腰を折る。
「晴れて士官学校を卒業され、任官が叶ったその暁には、ぜひとも私めに新しい軍服をご用命下さいませ」
「ありがとう。その時がきたら、お願いいたします」
大きな黒い鞄を小脇に抱え、仕立て屋はもう一度アドビスとシャインへ頭を下げると部屋を出ていった。
それを見送ったアドビスは、いそいそと扉へ自分も歩み寄った。
「用件は終わった。私も海軍省へ戻る」
「……あの」
扉の取っ手へ指を伸ばしたアドビスが、怪訝な顔をして振り返った。
「何だ」
その瞳はアドビスの肩までしかないシャインを、高みから見下ろすことで圧倒的な威圧感を漂わせている。気後れしそうな自分を叱咤し、シャインはごくりと生唾を飲み込んで、だがその視線はアドビスを見据えたまま口を開いた。
「明後日、俺は<東区>の士官学校の寮に行きます……」
「それがどうした」
アドビスは踵を返し、扉の取っ手を回す。
「しばらくこちらへ帰ることはありませんし、自由な時間もとれなくなります。ですから」
かすかなきしみ声を上げて扉が開く。
「一度母の墓へ行って報告をしたいのです。お願いです、場所を教えて下さい」
シャインの視界は黒い影が落ちてさえぎられた。息を詰めて顔を上げると、自分を見下ろすアドビスの目は、光を失いぽっかりとあいた空虚のようだった。
「……その必要はない」
これまで幾度となく聞いた無情の言葉が、アドビスのかすれた声で紡がれる。
「何故です。母は俺が生まれてから、間もなく亡くなったのでしょう? どうしてその墓に行くことが駄目なのです?」
アドビスの節くれた指がぐっと握りしめられる。
眉間の縦ジワがさらにくっきりと浮かび上がり、アドビスは無表情のまま首を横に振った。
「行った所で……無駄なことだ」
シャインは胸の内に熱いものが込み上げるのを感じた。
「どうして無駄なのですか? あなたの行為は、まるで母の存在を忘れ去るような仕打ちに感じます」
「黙れ。お前に何が分かる」
「分りません。あなたこそ、俺の気持ちを分かろうとしないくせに!」
「……」
アドビスの落ち窪んだ瞳が、一瞬鋭い光を帯びる。
シャインは突如アドビスに、右腕を掴まれて後ろ手にねじり上げられるの感じた。
「つっ!」
あまりの痛さにこめかみから冷たい汗が流れ落ちる。
鷹の太い足に押さえ付けられたウサギのような心境だ。
「シャイン、私は忙しい。お前の戯れ言に付き合っているヒマはないのだ」
背後から重苦しいアドビスの声が響く。
腕を掴むそれにぐっと力が込められる。
「……一体、母の、何を、隠しているんです」
うつむいてシャインは息を吐きながらつぶやいた。
だがその言葉がさらにアドビスの癪に障ったらしい。
アドビスはシャインの背中を左手で押し、無理矢理前へ歩かせた。右手をがっしりと掴んだまま、客間を出て青いじゅうたんが敷かれた廊下を歩く。
すれちがった執事のエイブリーが、その光景をみて立ちすくんだ。
「アドビス様! 一体何を……」
アドビスはそれに応えず、調理場の方へシャインを引きずっていった。
その手前にある緑の小さな扉の前に立つと、空いた左手でそれを開く。扉の奥からひんやりとした空気が出てきて、その冷たさにシャインは肌が粟立つのを感じた。
「私を煩わせるな。しばらくここで頭を冷やせ」
「……!」
流れるような仕種でアドビスは、シャインを扉の中へ押し込んだ。
シャインが思わず振り返り、扉の取っ手へ手を伸ばそうとした瞬間、それはぴったりと閉ざされた。
シャインは閉じた扉を両手で叩いた。
アドビスの足音が、気配が、遠くなっていくのが分かる。
「……」
声を上げかけて、シャインはそれをやっとの思いで飲み込んだ。
アドビスの癇癪は今に始まったことではない。ただ、あそこまで怒りをあらわにした顔を見たのは初めてだった。ずきずきと痛む右肩をそっと左手でかばい、シャインはドアに背を預けたまま静かにその場へ腰を下ろした。
ここは屋敷のワイン蔵だ。シャインは石造りの階段の一番上の段に座っている。天井にあるろうそくを立てたランプが唯一の灯りだが、その光量は暗く、十段ばかりある階段の一番下まで照らせる程明るくない。
周りを闇で覆われたこの場所は、うるさい子供を黙らせるには最適の場所かもしれない。シャインはそう考えながら、ぼんやりと暗い闇へ目を走らせた。
グラヴェール屋敷は岬のふもとに建っていて、その下の崖にはいくつも洞窟が口を開いている。その洞窟の一部が屋敷の地下でつながっており、初代当主がワイン蔵として改造した場所だった。
蔵の壁は天然の鍾乳石で、中を満たす空気は心地よい冷気を伴っている。だが汗に濡れた肌がどんどん冷たくなり、息を吸い込む度にその冷気が、身体の内をもゆっくりと凍らせていくようだ。
シャインは膝を抱えて顔を埋めた。
頭どころではない。すぐさま凍えるというほどではないが、このまま何時間も閉じ込められるなら、体はすっかり冷えきってしまうだろう。
どうして自分がこんな目にあわなければならないのか。
まったくもって理不尽だと感じる。
アドビスは死んだ母親の事を口にすると、何故か機嫌を悪くした。
すぐ変化する山の天気のように。
だからその事はなるべく触れないように気をつけていた。本当は何が原因で死んだのか知りたいし、どんな人だったのか聞いてみたかった。
けれど尋ねてみたところでアドビスが、母親の事を話すことはまったくなかった。考えれば考える程、アドビスに対する怒りがシャインの胸の内で沸き起こった。