第1話

文字数 951文字

 春休みが終わらない。

 本来であれば今日が入学式。ピカピカのランドセルを背負い初登校する予定だった新入生や、進級する予定だった子どもたちはランドセルではなく、リュックを背負って、学校ではなく学童へやってきた。

 入学、進級おめでとうパーティーと銘打って小分けのお菓子と小さなパックのジュースを用意した。施設内も春らしく飾り付けをした。すこしでも喜んでほしい、笑顔になってほしい、その一心だったが、マスクを外せば、大きな声で笑うことも、向かい合って話をすることも許されない。

 お菓子とジュースは持ち帰りにするほかなかった。

「おめでとう。手洗いうがいをしっかりしてお家で食べてね」
 そう言って、一人一人に手渡した。

 子どもたちは嬉しそうにとび跳ねながら受けとるがその顔半分はマスクで覆われ表情が見えない。笑顔を直接見ることは叶わない。

「さようなら、また明日!!」

 子どもたちが帰って、急に静かになった施設内。子どもたちの明るい声が脳内を反響する。掃除をしながら、新一年生の顔を思い出そうとした。髪型、リュックの色、体格、声。一人一人思い出す。

 笑顔が、わからない。

 新一年生たちは笑うとどんな顔をするのだろう。

 今年、二年生になったあの子は笑うと口元にえくぼができるのだ。もう二ヶ月近く見ていない。

 マスクを外すのはお弁当を食べるときだけ、距離を取って同じ方向を向き、互い違いに座って、しゃべってはいけない。無表情で、静かに食事をとる時間は楽しいお弁当の時間とは程遠かった。

 加えて、外出自粛でからだを動かす機会も減って子どもたちもストレスが溜まっている様だった。小さないさかいが増えてきた。

 公園で遊べないか。そう考えて、ネットで検索をかけた。一番上のネット記事の見だしは『公園、遊具媒介で感染?』コメント欄には公園で遊ぶ子どもたちへの非難の嵐。公園では遊べないと思った。

 予定より早く始まった春休みは終わる見通しが立たない。せめて、学校が始まれば、体育や休み時間にからだを動かすことができる。
 感染不安から休む子も増えてきた。

 ここで見られる笑顔は減っていくのかもしれない。

 終わりの見えないトンネルの中、手元すら見えない暗闇で、子どもの笑顔を願い、今日も明日の準備をする。

 あぁ、春休みが、終わらない。
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