第1話

文字数 951文字

 私はもの忘れが多い性分である。昔は覚えていたものが、最近歳を取って思い出せない、というわけではない。単純にものを覚えておくのが生来苦手なのである。 
 大学生の時分、それなりの額の奨学金を借りていた。社会人になって返済が始まり、毎月口座から一定額引き落とされるのだが、いくら返したのかがはっきりしない。毎月の返済額さえもあやふやな始末である。
 こういう時に便利なのがスマートフォンである。私が返済額を忘れている間にも技術は着実に進歩しているらしく、今ではスマートフォンを操作しながらインターネットで奨学金の借り入れ残高などが確認できる。グーグルで「奨学金 ログイン」と入力し、所定のサイトのログイン画面までたどり着いた。
 ここまでは良かったのだが、IDとパスワードを失念してしまったのに気づく。こんな時のためにIDとパスワードは極力同一のものにしているのだが、どうやらこのサイトは違うパスワードのようで、何度入力してもログインできない(セキュリティの脆弱性については承知であるが、私の脳みそがそれ以上に脆弱なのだから仕方がない)。
 ふと目を下にやると「IDとパスワードを忘れた方はこちら」とのリンクが目に付いた。私のような鳥頭の人は少なくないのであろう。救われたような気持ちになりながらリンクをタッチすると「奨学生番号を入力してください」との表示。無論、IDとパスワードを失念している人間がそんなものを覚えているわけはない。私はただ天を仰ぐのみであった。
 この話の教訓はふたつある。まずひとつに、パスワードやIDなどは携帯のメモ欄などに記録しておき、常に参照できるようにしておくこと。もうひとつは、忘れっぽい人間は、奨学金など借りてはいけないということ。私のような目に陥ることになるためである。
 映画『メメント』は私のような忘れっぽい人間が主人公だ。記憶がわずか10分しか持たない主人公は、自分の妻を殺害した犯人を探すのだが、脚本の構成が凄まじく、衝撃を受けたのは私でも覚えている。もちろん、この映画は記憶力の良い人でも楽しめるので安心してほしい。いや、むしろ記憶力の良い人の方が楽しめるような構成だった気もするが、どのようなストーリーだったか忘れてしまった。気になった人はぜひ見てほしい。
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