落書きしなきゃ

エピソード文字数 846文字

落書きしなきゃ

落書きしなきゃ。薄汚れたこの心を。

落書きしなきゃ。つまらない数式を並べたこの心を。

落書きしなきゃ。ひび割れて、崩れ落ちそうなこの心を。

アーケードの下、この通りにはシャッターを下ろしたままの、色褪せたお店が並んでいる。気がつけば向こう側に知らない吞み屋が建とうとしている。

落書きしなきゃ。背を向けたはずなのに、何度も振り返る過去を。

落書きしなきゃ。綺麗なままでいるはずだった過去を。

落書きしなきゃ。アイツの嘘を真に受けた過去を。

港に並ぶ街頭と、夜の海に光る戦艦。この海にみんな捨てていくよ。私の嫌いな私を。こんなはずじゃなかった私を。私の中に居た誰かを。

落書きしなきゃ。不覚にもときめいたあの日を。

落書きしなきゃ。終わりが見えたのに、息を切らして走ったあの日を。

落書きしなきゃ。やめとけば? ってあの言葉、聞こえないふりしたあの日を。

鉄のクジラに乗っかって、どこまでも沈んで行くよ。そこでなら言えるはず。愚痴も悪口も大きな声で。

落書きしなきゃ。とびっきりの真っ赤と、とびっきりの真っ青で。とびっきり頭を真っ白にして。

落書きしなきゃ。塗りつぶしてやれ。地味な私でも、心くらい派手にして。

落書きしなきゃ。眼を奪われたって、身体を奪われたって、心までは奪われないさって。

深夜を廻った牛丼屋で大盛りの牛丼を平らげたよ。さよなら、アイツ。さよなら、大都会。さよなら、私によく似た惨めなあの娘。

落書きしなきゃ。格好悪いな私。

落書きしなきゃ。可愛そうだな私。

落書きしなきゃ。何故だろう? 泣いてるな私。

スッピンだけど、部屋着だけど、眼鏡だけど、この通りの真ん中を歩くよ。小さな胸を張って歩くよ。屋台の灯りが見えるよ。ドブ川にかかる橋が見えるよ。

落書きしなきゃ。無邪気になるために。

落書きしなきゃ。信じれるために。

落書きしなきゃ。幸せになるために。

全部、全部、全部、明日からの私のために。
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