第10話 一人じゃない夕飯の味

文字数 2,161文字

冬月さんの家に上がると、凄くいい匂いがした…
あ〜マジでだりぃ。今少し言葉遣い気をつけたんだけど、マジで疲れたし。


私着替えっから、覗くなよ。

(先生の前だと結構、いつもいい子そうにしてるじゃんか…)
思ったことを言うと、なんか怖いので、ちゃんと玄関の方を見て座る。ちゃんと目も瞑っている。


正直、見ていいよと言われれば見たい…俺だって思春期の男だ…


でもヘタレだし、口調が戻ってちょっと怖いし…そんな度胸ないし…


せっかく信用して家になる上げてくれたのに、裏切りたくないので目を瞑り続けた。

色々冬月さんが着替えている音は聞こえる…


想像しないように、目を瞑りながら、自分の太ももを少しつねって邪念を払った…

しばらくすると
もういいよ。とっくに着替え終わってたけどな。律儀にいつまで、そっち向いてんだよ。
目を開け振り向くと、髪を結び着替えてエプロン姿になった冬月さんがいた…
無言で見られてっと、なんかキモいんだけど(笑)


どう?似合ってっか?

あ、はい…すいません…見惚れてました…(笑)
そ、そうか。嫌いなもんあんのか?
俺は特にないよ。
じゃあ、テキトーにテレビでも見てくつろいでもらって構わねーから。待ってろな。
そういうと、冬月さんは料理を初めトントンとスムーズに包丁を使う音が聞こえ、しばらくするといい匂いがしてきた。
テレビを見ると音楽番組がやっていて、何年か前のヒットソングというので、冬月さんのいたアイドルグループの歌う当時の映像が流れた…


もちろんセンターには当寺の映像なので、白石 千春が映っている…

当時のこと覚えてないとはいえ、嫌かなと思って俺は慌ててリモコンはどこか探すと、冬月さんが料理をしながら、背を向けたまま言った。
気使わなくていいから。そん時のこと、覚えてねーんだしさ。


私だけど、私じゃねーからさ。愛さんにカラオケ誘われた時、断っただろ。


本当は嬉しかった。でも、歌えばバレるから断った。何も覚えてねーのに、自分の歌ってた曲と振付だけは身体が覚えてるのか、出来るんだ…


不思議だろ?

嬉しかったなら、明日朝、愛に会った時にそれは言った方がいいよ。


断った理由は、風引いてたとか、喉が痛かったからとか、言葉足らずに断ってごめん的な感じだったら、説得力あると思わない?


冬月さん歌って踊ること、好きなんじゃない?


まだ先だから気が早いけど、文化祭で変装でもしてゲリラライブ風にやってみたら?

そうだな。龍一は世渡り上手なんだな。


私は不器用なのか、人と上手く付き合えないんだ…


そんなつもりはなくても、言葉が足りてないのか誤解されるんだ…


龍一にも嫌な思いをさせてたら申し訳ない。


気が向いたら、文化祭は考えとく。

話していると、冬月さんのいた、アイドルグループの曲はもう終わっていて、違う歌になっていた。
ちょっとすると座っていた俺の前に夕飯が出された。


カレーライスだ。

凄い!美味しそう!冬月さんいつも自炊してるの?!
口に合うかはわかんねーけどさ。基本的にはな。 


休みの日近所のスーパーに買い物行ってる。近くのタイユーマート。時間ないとコンビニで卵とか買う時もある。

そう言って冬月さんは席についた。
事あるごとにめんどいとか言ってるのに、自炊とか図書委員のことはめんどいって言わないんだね(笑)
文句あんの?
いえ…ないです…
親が離婚してからも一人でご飯食べてたし、こっち来ても、ずっと一人で食べると思ってたから、なんか誰かと食べる夕飯悪くねーかも。
嬉しそうに言った冬月さんの笑顔にきっと嘘はないだろう。
俺もさ、親は共働きで、一人っ子だから、夕飯こうやって誰かと話ししながら、一緒に食べるのなんか不思議だよ。
じゃあいただきます♪
いただきます。
俺はカレーを食べた。


(見た目通り凄い美味しい!)


冬月さんが感想をほしそうな眼差しで見ているのがわかる…

冬月さん凄いよ!家の親が作るカレーより100倍美味しいよ!
俺は本当に美味しかったので、ムシャムシャ食べ続けた。


おかわりまでして食べた。

食後に、冬月さんに紅茶を出された。
遠慮なく、おかわりまでしてしまって、なんかごめん。
いいんだよ。多く作ったから、少しだけ余ってるくらいでいいからさ。


残りで私の明日の朝ごはんにちょうどいいよ。


あんま遅くなると、あれだけど、たまに暇な時、遊びに来てくれてもいいから。


勉強、私わかんねーから、教えてほしい。

ごちそうさまでした。勉強、俺だと平均くらいだけどいい?


俺より上にすぐ行くだろうから、そしたらその時は愛にもお願いしてみよう。愛は結構成績上位の方だからさ。

よろしく、お願い、します…
冬月さんは丁寧に言おうとしたんだろうけど、普段そんな風に言わないから、ロボットみたいになってて、おもしろかったけど、俺は笑ったりしなかった。


だって冬月さんは、俺が一生懸命なのを変でも笑わないでくれた人だから…

こちらこそ。
洗い物手伝おうとしたんだけど、今日はもう遅いから、帰れっていわれて、帰された…


自分の家の玄関の鍵をあけて部屋に行くと、すぐに車の音がしたから、両親のどっちかが帰ってきたのだろう。


俺は風呂に入りながら、なんか、冬月さんと一緒に夕飯を食べたことが楽しかったなぁと思い出していた…


(本当にまた、行っていいのか?勉強教えるのはもちろんだけど…)

※冬月 千春 高校2年生


部屋で料理前着替え後

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登場人物紹介

上田 龍一(うえだ りゅういち)

城西高等学校2年生

成績、スポーツ、容姿全てが平均的男子。同級生で同じ高校で同じクラスの坂木 愛(さかき あい)に恋をしている。

冬月 千春(ふゆつき ちはる)龍一のクラスへの転校生。

両親離婚前は白石 千春(しらいし ちはる)

元アイドル。そして記憶を失くしている。

坂木 愛(さかき あい)城西高等学校2年生。龍一と同じクラス。


目立つタイプではなく、あんまり人の輪に入ることが得意ではないが、容姿が良いため男子から密かに人気がある。

酒井 真美(さかい まみ)。龍一のクラスメイトで、愛の親友。

佐藤 明(さとう あきら)。龍一のクラスメイトで親友。

神谷 俊(かみや しゅん)。龍一と同じクラスで学年一のモテ男。性格もイケメン。

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