第17話 女子マネの事情2
文字数 2,580文字
「毎日来なくていいから」
「……」
そんな理由で? 面食らったような顔をした綾乃と未希に、
「あははっ……」
と大声で笑い出したのは梓だった。夏海はちょっと笑い過ぎと肘で腕をつつく。
「いいじゃん。わたしも同じリアクションしたもん。夏海もだったじゃん。真帆も知香もでしょ? すっごい理由だよね。運動部のマネージャーって、毎日来るもんでしょ? 練習毎日あるんだから。バド部だって毎日あるしね。おもしろいよねぇ、そんな条件の部活、絶対ないって……」
お腹を抱えてさらに笑い出した。何かがツボにはまってしまったらしい。なかなか笑いのおさまらない梓に、真帆はシラッとした視線をなげて、話を続けた。
「梓さんはほっといて先に進めるね。綾乃と知香には初顔合わせをしてから、毎日来てもらってるけど、それは慣れるためだからね。ランキング戦が終わったら、二人ずつ組んでの当番制になるから。もちろん、課外と用事があれば考慮するし、実質、顔を出すのは一か月の内、十日ぐらいかな?」
「十日……」
呆けたように綾乃が呟いた。
(なんか違う。思っていたマネージャーとは。全国大会常連校だと聞いたから、もっと、やりがいがあるのかと思っていたら……だから、興味を惹かれたのに)
「んっ? 綾乃ってば、なんかがっかりしちゃった?」
顔に出ていたのだろう、夏海に図星を刺されてしまった。
「あの……いえ、すみません」
綾乃は狼狽えたように謝る。その様子に心の中で同意しながら真帆は続けた。
「がっかりするのもわかるよ? わたしもこんな楽でいいの? って思ったしね。だから、特進なんだよね」
「「?」」
「オリエンテーションで説明されたと思うけど、特進って課外授業が多いでしょ? 入学したばかりだから、実感ないかもしれないけど。毎日部活は無理なんだよね。特進で運動部所属の生徒はいないと思う。両立は難しいから。部活をしたかったら吹奏楽部以外の文化部に入る、っていうのが特進の常識。そこで、どうして男子バド部のマネージャーが特進でもいいのかっていうと、普段は何にもすることがないから……ですよね、夏海さん?」
うっ! うまく話を振られてしまった。
(さっきのお返し? しょうがないなぁ)
後は夏海が話を引き継いだ。
「その通り。部活にきてやってることといったら、基礎トレのタイム計りか試合の審判くらいでしょ? 準備も後片付けも部員でこなすし。わたしたちがすることって、はっきり言ってないんだよね。だから二人でも十分だし、そのくらいなら特進でもできるってこと。そのかわりっていったらなんだけど、春と秋のランキング戦と冬休みの交流戦はね、全員参加。この三つは全ての権限が、わたしたち女子マネにあるから。監督は基本、試合を見てるだけだからね。試合進行がわたしたちの仕事。まあ、そのためにいるようなもんかもね」
「はあ」
わかったようなわからないような、綾乃は気のない返事をした。
「とにかく、ランキング戦を経験してみたらいいよ」
夏海の言葉に一応頷いた。
「あの、質問いいですか?」
未希がおずおずと手を上げた。
「いいよ、何?」
「ファンクラブっていうのは?」
「言葉通りなんだけど、男子部を見てどう思う?」
夏海が逆に質問する。
初顔合わせの時に真っ先に思ったことは……
「カッコイイ人が多い? とか?」
これは確かに思った。綾乃とも話していたから。
「正解。イケメン多いでしょ? いろんなタイプいるもんね」
「天然系、クール系、癒し系に、爽やか系とか、結構、よりどりみどりだよね。見てる分には壮観だからねぇ」
梓が気になる一言と共に補足する。一つの部活にこんなにいていいのかっていうくらいイケメンが多いのは確かだ。
「イケメン君達には、それぞれファンクラブがあって、会長もいるし、組織がちゃんとあんのよ。目をつけられたくなかったら、ファンクラブに入るのが一番かもね」
「アイドル並みですね」
「そうだね。だから、そのための300枚。観客席は500あって……初日はユッキー達、試合なかったよね?」
夏海の確認の言葉に、真帆が対戦表を手に取ってよく確認する。
「ありませんよ。予定では彼らは二日目ですね」
「じゃあ、それでいいね。後は様子見ながら、追加していけばいいし」
「ユッキー先輩って人気あるんですか?」
夏海と真帆の会話に綾乃が聞いた。ユッキーって、校内でもよく耳にする。
「人気、実力共にナンバーワンってとこね。二番目は阿部龍生ね。後は、見てればわかってくるから。人気があるっていっても、パーフェクト王子にはかなわないけどね。あっ……」
思わず、口を滑らせた夏海は、しまったという顔をして両手で口をふさいだ。
「パーフェクト王子って?」
誰のことだろう? 綾乃と未希は首をかしげる。
「あのさ、口に出たついでに、ちゃんと言っといた方がいいかもよ。だって、今でも噂聞くし、忘れられないでしょ? わたしたちは知っているんだから」
自身の失言に気まずそうにうつむいていた夏海は、梓の言葉に逡巡のあと「そうね」と首肯してから話を続けた。
「男子バド部に遠野亮 っていう先輩がいたのよ。わたしたちより二年先輩なんだけどね。その人はね、イケメンで長身でバドも強かったし、性格もおおらかで優しかったし、頭もいいし、女子だけではなくて、男子にも好かれていたしって、ホント、二次元の世界から現れたかのような完璧な王子さまだったのよ」
「へえ。なんか会ってみたいですね。OBとかで来られないんですか?」
興味津々な顔をした綾乃と未希に、他の四人が顔を見合わせて、沈んだ顔になった。
「んー。そうね。そうだったらいいんだけど……その先輩はね……もういないのよ」
「「?」」
「亡くなったの。二年前の夏にね。だから、もう、会えない……」
その時のことを思い出して夏海は、瞳に涙を浮かべる。言葉を失くした夏海の後から真帆が言葉を紡いだ。
「わたしたち二年生は、パーフェクト王子のことは直接には知らないけど、特進の同級生に彼の弟がいるみたいだし。どんなに凄かった人でも、身内にしてみればつらいことでしょ? 噂を聞いても、興味本位に話はしない方がいいってこと」
真帆の言葉に神妙な顔つきで、綾乃と未希は「はい」と返事をした。
そのあと、みんなが黙り込んでしまって、妙な間があいてしまった。
「……」
そんな理由で? 面食らったような顔をした綾乃と未希に、
「あははっ……」
と大声で笑い出したのは梓だった。夏海はちょっと笑い過ぎと肘で腕をつつく。
「いいじゃん。わたしも同じリアクションしたもん。夏海もだったじゃん。真帆も知香もでしょ? すっごい理由だよね。運動部のマネージャーって、毎日来るもんでしょ? 練習毎日あるんだから。バド部だって毎日あるしね。おもしろいよねぇ、そんな条件の部活、絶対ないって……」
お腹を抱えてさらに笑い出した。何かがツボにはまってしまったらしい。なかなか笑いのおさまらない梓に、真帆はシラッとした視線をなげて、話を続けた。
「梓さんはほっといて先に進めるね。綾乃と知香には初顔合わせをしてから、毎日来てもらってるけど、それは慣れるためだからね。ランキング戦が終わったら、二人ずつ組んでの当番制になるから。もちろん、課外と用事があれば考慮するし、実質、顔を出すのは一か月の内、十日ぐらいかな?」
「十日……」
呆けたように綾乃が呟いた。
(なんか違う。思っていたマネージャーとは。全国大会常連校だと聞いたから、もっと、やりがいがあるのかと思っていたら……だから、興味を惹かれたのに)
「んっ? 綾乃ってば、なんかがっかりしちゃった?」
顔に出ていたのだろう、夏海に図星を刺されてしまった。
「あの……いえ、すみません」
綾乃は狼狽えたように謝る。その様子に心の中で同意しながら真帆は続けた。
「がっかりするのもわかるよ? わたしもこんな楽でいいの? って思ったしね。だから、特進なんだよね」
「「?」」
「オリエンテーションで説明されたと思うけど、特進って課外授業が多いでしょ? 入学したばかりだから、実感ないかもしれないけど。毎日部活は無理なんだよね。特進で運動部所属の生徒はいないと思う。両立は難しいから。部活をしたかったら吹奏楽部以外の文化部に入る、っていうのが特進の常識。そこで、どうして男子バド部のマネージャーが特進でもいいのかっていうと、普段は何にもすることがないから……ですよね、夏海さん?」
うっ! うまく話を振られてしまった。
(さっきのお返し? しょうがないなぁ)
後は夏海が話を引き継いだ。
「その通り。部活にきてやってることといったら、基礎トレのタイム計りか試合の審判くらいでしょ? 準備も後片付けも部員でこなすし。わたしたちがすることって、はっきり言ってないんだよね。だから二人でも十分だし、そのくらいなら特進でもできるってこと。そのかわりっていったらなんだけど、春と秋のランキング戦と冬休みの交流戦はね、全員参加。この三つは全ての権限が、わたしたち女子マネにあるから。監督は基本、試合を見てるだけだからね。試合進行がわたしたちの仕事。まあ、そのためにいるようなもんかもね」
「はあ」
わかったようなわからないような、綾乃は気のない返事をした。
「とにかく、ランキング戦を経験してみたらいいよ」
夏海の言葉に一応頷いた。
「あの、質問いいですか?」
未希がおずおずと手を上げた。
「いいよ、何?」
「ファンクラブっていうのは?」
「言葉通りなんだけど、男子部を見てどう思う?」
夏海が逆に質問する。
初顔合わせの時に真っ先に思ったことは……
「カッコイイ人が多い? とか?」
これは確かに思った。綾乃とも話していたから。
「正解。イケメン多いでしょ? いろんなタイプいるもんね」
「天然系、クール系、癒し系に、爽やか系とか、結構、よりどりみどりだよね。見てる分には壮観だからねぇ」
梓が気になる一言と共に補足する。一つの部活にこんなにいていいのかっていうくらいイケメンが多いのは確かだ。
「イケメン君達には、それぞれファンクラブがあって、会長もいるし、組織がちゃんとあんのよ。目をつけられたくなかったら、ファンクラブに入るのが一番かもね」
「アイドル並みですね」
「そうだね。だから、そのための300枚。観客席は500あって……初日はユッキー達、試合なかったよね?」
夏海の確認の言葉に、真帆が対戦表を手に取ってよく確認する。
「ありませんよ。予定では彼らは二日目ですね」
「じゃあ、それでいいね。後は様子見ながら、追加していけばいいし」
「ユッキー先輩って人気あるんですか?」
夏海と真帆の会話に綾乃が聞いた。ユッキーって、校内でもよく耳にする。
「人気、実力共にナンバーワンってとこね。二番目は阿部龍生ね。後は、見てればわかってくるから。人気があるっていっても、パーフェクト王子にはかなわないけどね。あっ……」
思わず、口を滑らせた夏海は、しまったという顔をして両手で口をふさいだ。
「パーフェクト王子って?」
誰のことだろう? 綾乃と未希は首をかしげる。
「あのさ、口に出たついでに、ちゃんと言っといた方がいいかもよ。だって、今でも噂聞くし、忘れられないでしょ? わたしたちは知っているんだから」
自身の失言に気まずそうにうつむいていた夏海は、梓の言葉に逡巡のあと「そうね」と首肯してから話を続けた。
「男子バド部に
「へえ。なんか会ってみたいですね。OBとかで来られないんですか?」
興味津々な顔をした綾乃と未希に、他の四人が顔を見合わせて、沈んだ顔になった。
「んー。そうね。そうだったらいいんだけど……その先輩はね……もういないのよ」
「「?」」
「亡くなったの。二年前の夏にね。だから、もう、会えない……」
その時のことを思い出して夏海は、瞳に涙を浮かべる。言葉を失くした夏海の後から真帆が言葉を紡いだ。
「わたしたち二年生は、パーフェクト王子のことは直接には知らないけど、特進の同級生に彼の弟がいるみたいだし。どんなに凄かった人でも、身内にしてみればつらいことでしょ? 噂を聞いても、興味本位に話はしない方がいいってこと」
真帆の言葉に神妙な顔つきで、綾乃と未希は「はい」と返事をした。
そのあと、みんなが黙り込んでしまって、妙な間があいてしまった。