第二十二話 女王の冠

文字数 7,918文字

ルドラ達一行は、アヌーダの森奥へと向かっていた。そう、魔女に助力するために、真っ先に行わなければならないことがあるからである。その一行の人数は、ルドラを入れて全員で六人。いずれも表情は硬く、声をかけ合うことなどとても敵わない。
一行の首元にはそれぞれ、三日月型の漆黒があった。それはガルダの爪であり、勿論ルドラの首元にも添えられている。その理由は、ただ一つ。獣除けである。
ガルダは、エルビス山脈を生息拠点とする巨大な鷲の一種で、生態系の上部に君臨する獣である。本能的に恐れを感じ取るのか、身に着ける事によって森の獣達もめっきりと姿を消す。その効果はスノウミントの香水とは比べ物にならない。ましてこちらは効力の時間制限もない。これほどに優れた獣避けは中々存在しないと思われる。
魔女の腹には、堅く括られた強い覚悟があった。よほどの事がない限り、二度と森を出ないと。もし万が一に事が起きても、まずはルドラと接触する事になる。必要であればルドラに会ったその際に、それを受け取れば良い。自分の能力を持ってして、それまでの道中ではよほどの獣では太刀打ちできないと踏んでいた。強いて言うならば、あのガルムルくらいなものである。しかし警戒こそするが、川の水を使えば攻略は容易いだろうと予想できた。
まさかグリンデも、自分の十分の一にも満たないほどしか生きていない小娘を連れていくことになるなど想像もしていなかったのだ。
ルドラはかつて、チェルネツの森を訪れグリンデに会った際に、このガルダの爪を一つ渡そうとしたのだが、彼女は「もう暫く魔法も出ておらん。森を出る機会はなかろう。我は静かにこの森で息絶えるのを待つばかりよ」と不器用に高笑いを交え、受け取る事を拒んだ。マリーには全く効果がないことは目に見えているが、あの時に無理にでも渡しておけば、ドロネアの洞窟……そしてここアヌーダの森に至るまでの攻略は実に容易だったと思われる。
ガルダは人目に触れる事が滅多にないほど珍しく、爪もごく稀に見つかる死骸から採取される例が大半である。生態系が謎に包まれており、容易に入手できないのが難点であるが、その反面にほとんどの人間が爪に獣除けの効果がある事を知らず、同時に郷の存在の安全性を高めていることも確かであった。もしかしたら、入手が困難であるが故に『自分に渡すくらいなら郷の者達に渡せ』という魔女なりの配慮が込められていたのかもしれない。
アヌーダの森奥には、あのガルムル達すら寄り付かない一角があり、目的を果たす為には、どうしてもその付近を通らねばならなかった。ルドラ達一行はまさに今”女王の冠”の異名を持つその獣の縄張りに、足を踏み入れんとする寸前であった。
女王の冠。名だけ聞くと、豪華絢爛、堂々たる雰囲気しか得ないが、それはとても敬意を払えた存在ではない。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。物体を把握するこの五感の中でも、彼らは聴覚の発達が凄まじく、標的の存在を認知次第、容赦なく襲いかかってくるのだ。これはガルダの爪を持つ者にも一切関係ない。
アヌーダの隠れ里に住む者達、特にガルダの爪を持つことが許された者達は、より服装に気を配る事が定められている。それは獣たちからの把握を防ぐためであり、その制約が生まれた背景には、やはりこの女王の冠の存在も実に大きく関係している。
まず音を少しでも緩和する為に、武器以外の金属を一切身に着けることができない。これはぶつかり擦れた際のそれを防ぐためなのだが、著しく女王の冠には効果のある話であった。
そのきっかけを知ったのは、遥か昔。まだ郷が開拓される前の事である。
それはルドラ達の祖先、ルルージュたちが初めてこの地に辿り着き、森奥を目指した時に遡る。流石に未開の地であった。目的の要であるルルージュを連れず、まずは偵察へと少人数の仲間が先行したのだが、その際にこの女王の冠に遭遇したと伝えられている。
特徴的な奇抜で長い鶏冠を持つその鳥は、目が合ったと同時に迷いなく侵入者たちを襲い、大半の命を奪ったそうだ。命からがら逃げ延びれた者は四名中、一人。その者がサンサーレ("太陽の光を遮る"という意味を持つ、返し技を基本とした剣技)の使い手であったことが不幸中の幸いだったのかもしれない。
サンサーレは返し技を礎としているだけあって、基本的に一対一の場面で重宝される。女王の冠は、どうやら発情期以外は基本的に単独で活動する性質を持っていているようで、こちらも非常に幸いした。もし仮に複数体の彼らと遭遇していたのなら、未来へとこの経験は伝えられなかっただろう。
サンサーレの使い手は女王の冠の猛撃を受けながらも、その特性を実によく観察していたのであった。彼ははっきりと覚えていたのである。女王の冠が刀身を抜き放つ音に反応し、その順に仲間達に攻撃を繰り出していた事を。
アリエ帝国の西部にある山林にも、特徴的な鶏冠を持つ鳥類が生息している。かつて山越えをしようとした旅人が襲われた事で、その存在が知られるようになったのだが、その鳥も同じく剣を抜いたと同時に襲いかかってきたと言われている。大きさはこちらの方が一回り以上も大きいようだが、特徴的な鶏冠を持つことから、その近似種なのではないかと推測された。
そして何より、サンサーレの使い手が逃げ切れた理由の一つに、女王の冠がある区域から攻撃を止め、追跡を行わなくなった事が挙げられる。彼らは縄張りがあり、その区間を越えれば難を逃がれられるかもしれないと考えられた。一時的でも彼らの気を引く事が出来る物があれば、より森奥に辿り着き易くなる可能性が示唆された。
これらを踏まえて装備や対策を行い直し、数度の偵察を終えた後に、ようやく初めて目的の地へと辿り着いたと伝えられている。
ルドラ達は先人達の知恵の恩恵を頼りに、幾度もその地に辿り着いてはいるのだが、やはり油断は出来ない。ルドラの頬にじわりと滴る汗が、木漏れ日の淡い光を反射させた。

太陽は、他にも険しい表情を二つ捉えていた。
その二人は、顔を革布に覆われた白馬に跨っていた。奇妙にも先頭に乗っているのは幼い少女であり、その少女の腰元に腕を巻く黒髪の女性の表情は、実に不服そうなものである。
グリンデとオリビアは、三日ほどアヌーダの郷に滞在し、森を出た。今は森の入口に置かれている、間隔の開けた木々達を縫うような形で、西に向けて駆けている。二人の首元にはルドラ達同様に漆黒の三日月が添えられていた。
すぐに郷を出なかった一番の理由は、やはりグリンデの体調を考慮してであった。帝国都市を中心に流行り出した病に対する抗力を付ける為、もしも万が一エレメスタが生き残っており、人々がその急襲に抗う力を付ける為に、伝説の秘薬を作る事が魔女の旅の最大の理由の一つではあるが、救う本人が倒れてしまっては本末転倒なのである。まして不良の原因はあのマリーである。いくらコインの魔法で助かったとはいえ、郷に伝わる秘薬を使用して三日は休養した方が良いと判断されたのであった。
勿論その時間を無駄にするわけではない。魔女が休息を取っている間、ルドラはせっせと郷中を走り回り、この旅と自身の役割を果たす為の準備をしていた。旅立つ前に渡された大きめの革袋が、この三日間での彼女の努力を物語っている。
駆ける事を考慮すると、ぎりぎりの重さであろう。中にあの『退魔の槍』が入っている事は確かなのだが、実にその袋は大きく、ずしりとシルキーの腰に乗せられている。
(……本にどうしてこの小娘と行かねばならんのだ)
魔女にとって、少女を連れて旅をする予定は更々なかった。シルキーはオリビアにしか扱えない。時短の為に連れていくという考えは実に良くわかるが、この先の旅路を考えるとやはり邪魔でしかないのである。
(……ルドラの言う"用事"とは何事だ?)
退魔の槍が仕舞われている箱に、触れるだけでも気分が悪くなる。現に今、この馬の腰元……自身の背後にある、それが入っている革袋に寄りかかるだけで眩暈がしている。出来るだけ触れないように、少女にしがみついているのだが、それも魔女の機嫌を損ねている原因の一つでもあった。
グリンデはそれに触れらず運ぶことが出来ない。眩暈がする状態で馬に乗るなど、流石に伝説の魔女でも危険だ。誰かの手を使ってこれをオルドの町に運びたい理由があるのだろうが、オルドの町にいる仲間に取りに来させるにも、行ったり来たりで都合が悪い。ガルダの爪を持つ、郷を出ることが出来る人間は今、ルドラと共にアヌーダの森奥を目指している。やはりオリビアに運ばせることが一番都合が良いのだろう。
しかしその目的が、魔女の知恵を持ってしても全く想像が出来ないでいた。郷にいる間にルドラに問おうにも、薬を飲んでいたグリンデは三日間ほぼ眠りについていた。やはりこのまま先へ進むことでしか、その”用事”とやらは知る術はないのであろう。
”族長”と呼ばれる者の言葉である。彼女の言葉が実に重いものであることは、重々グリンデも承知していた。特に”見抜く”ということにおいて、彼女に勝る者はいないと思われる。決してオリビアが逃げ出すことはないと判断したこともそうだが、彼女が連れて行くべきだと言うならば、それが正しいのだろうと渋々受け入れざるを得なかった。
少女にとってこれが最後の旅になるであろう。もしかしたらあの郷を出るのも最後になるのかもしれない。郷に住む者たちが快く受け入れ接してくれたことと、ルドラが飼っている『エンジェラ』という羽根の生えた珍しい種の猫のマロウが、毎日寄り添ってくれた事が彼女の心を少しばかり救っていた。あれから一度も少女は涙を流してはいない。腫れていた瞼もすっかり元通りではあるが、表情は依然暗いままであった。
(……あれかな)
アヌーダの森を抜けてから小一時間。ふと少女の目に飛び込んできた、大きな岩達が白馬の足を遅めた。それは知らずと標高が高くなってきたことを伝えており、進路を左に切るよう知らせる合図でもあった。
このまま直進しても目的のオルドの町に辿り着くのだが、ルドラがこの大岩たちが見えたら進路を左に切って、再び森の中を行くよう指示を促していたのだ。なんでも、今オルドの町にいる仲間が中継地点として使っていた隠れ家があり、そこで一晩迎えて欲しいとの事であった。
このまま駆ければ夜にはオルドの町に着けるとは思うが、この先の岩場はガルダの爪を恐れない獰猛な獣が姿を現すこともある地域であった。その獣との接触を避けるために遠回りをさせたのだろう、とグリンデはすっかり納得したが、他にも理由があることはルドラも敢えて伝えなかった。それはこのまま順調に進めば、問題なく回避できるであろう話であったからだ。
木陰が一同を包み、まばらな黒点がそれぞれの身体を纏った。
葉の隙間から覗く日差しを片手で遮りながら、オリビアは次の目的を探した。
(……あった。多分あれだ)
枝先に赤い紐を括られた木を見つけたオリビアは、それの根元まで寄った。そして更に辺りを見渡す。すると更に少し先に同じく枝先に赤い紐を括られた木を見つけた。
ガルダの爪を持ってさえいれば、この森を進むことは実に容易だが、普通の人間ではまず訪れることすらない。自然は時期によって大きく姿を変える。ルドラの仲間が、自身の隠れ家にいつでも辿り着き易くするために、目印を付けていたのであった。
森の中にある目印を進む行為は、オリビアにも非常によく心当たりがあったが、流石にそんなことを懐かしんでいる余裕はない。沈黙のまま、ひたすらにその目印を追った。
その目印がわかりやすくかつ数が少なかったのは、やはりここに人が訪れる心配がないからであろう。もしかしたら森奥にはガルダの爪を恐れない獣がいるかもしれない。森の入口付近に建てられた理由は多く考えられる。意外とすぐにその隠れ家を見つける事ができた。
切り倒された丸太を積み上げただけのように見える単純な作りを見るに、やはり長期滞在するための目的で建てられたものではないことが伺える。周辺には、春を終えて夏が待ち遠しい若々しい草木が、背丈を競い合っている。手入れも最低限なのであろう。
シルキーの足が止まると、すぐに魔女はその背から降りた。理由はやはりあの退魔の槍のようだ。オリビアも地に足をつけるや否や、すぐさま「小娘」と呼ぶ声が聞こえてきた。その主に目を配ると、彼女は首をくいっと曲げ、顎で荷物を射した。「自分では持てないから、さっさと運べ」と言いたいようだ。
オリビアは、近くに打ち込まれてあった杭にシルキーの手綱を結ぶと、抱きかかえるようにしてその荷物を持った。
眩暈が続いているのかもしれない。早く中に入って休息したいのか、グリンデは一丁前に取り付けられてある木の扉の握りに手をかけた。これは気遣いからなのだろうか。もしくは部屋の中に蜘蛛の巣が張ってあるかもしれず、それにかかる様が見たいのかもしれない。グリンデはその木の扉を手で押さえ、先にオリビアを小屋の中へと促した。
うっすら部屋が照らし出されているのは、腰の帯革につけられたランタンにある輝きの花によるものではない。表から少し見えた、庇のついた窓から微かな光が入り込んでいるからであった。無造作に転がった何枚かの毛布。そして燭台。棚などはなく、他にそれと言ったものは確認できない。やはり一時的に雨風をしのぎ、最低限の休息を得るためだけに建てられたのであろう。
ぼうっ、と背後で音が鳴った。グリンデが近くにあった燭台の蝋燭に火をつけたからだ。一気に部屋は明るくなったが、所々に空いている床の穴の存在に気づいたり、隠れていた虫たちが騒ぎ出した程度で、他にとりわけ何もない。
そろそろ手が痺れてきた。オリビアは抱えている荷物を部屋の隅にどしりと置いた。
この様子を見るに、退魔の槍の効果は思っているよりも大きいのかもしれない。グリンデは既に、転がっていた毛布を手に取り、くるまって床に横になっている。今まで共に生活していた経験を辿るに、おそらく今夜は何も食べず、このまま朝まで眠るつもりなのだろう。眩暈がなければ多少その時間は遅くなったかもしれないが、それもたかが数時間ほどの差であると思われる。今は天頂を少し過ぎた程度に太陽がある。長いようで短い休息を得れば、すぐに空は茜色に染まり、辺りは陰に覆われる。つけっぱなしの燭台は、お前が寝るときに勝手に消せという事なのだろう。
思えばずっとシルキーの背に跨っていたのだ。ここにきて背中が強張っている事に気が付いた。とりあえずオリビアは表に出ると、ふぅと息を交えながらその場で伸びをした。おそらく明日の出発の時刻は早い。早めに休息を取り、日が昇る前に起きるくらいが丁度よいのかもしれない。
(……私も横になろう)
今、思考を巡らせても良い想いはしない。余計な不安を呼び寄せるだけだ。オリビアは小屋に戻ると、グリンデに習い毛布に包まり床に横になった。
この時に革袋の口を開けて退魔の槍を取り出し、魔女を逆手に取って逃げ出そうとする意志がないあたり、いかにルドラに人を見抜く力が備わっているのかがわかる。起きているのかはさっぱりわからないが、魔女もそれを悟ってかこちらに背中を向けている。
(……やっぱり駄目だ。落ち着かない)
この状況下である。ましてまだ昼過ぎだ。どうも落ち着かず、オリビアはもう一度小屋の表に出た。その際に目につくのは愛馬であるシルキーであり、自然と足はそれに吸い寄せられた。
(……あなたも疲れたでしょう)
オリビアの手は、シルキーの顔に取り付けられた革布を取り、回すように首元を撫で始めた。
「……あなたって不思議よね」
くりっとした黒い瞳を見つめていると、知らずと口から呟きが溢れた。
オルドの町は、元々炭鉱夫を中心に作られた町なのだそうだ。町の外れには多くの廃坑が存在しており、遠くの廃坑には馬小屋も残されている。廃坑になっただけに資源も得られず、人が寄る事はまずない。誰もがただ静かに崩れるのを待っている次第であった。
郷にいる間に慣れてきたとはいえ、やはりまだ近くにオリビアがいないと人間に威嚇する様を見せる。半日とはいえ、オルドの町の近くに停める事は困難であろう。シルキーを廃坑の馬小屋に繋ぎ、徒歩で町に向かう事を想定したのもあって、こうして連れて来れているのであった。
しかし、可能性は低いだろうが、もし人にシルキーの姿を見られたらどうなるだろうか。おそらく驚きを隠せず、たちまち噂は広まるだろう。
白馬に乗る民間人は珍しいが見かけない訳ではない。勿論、シルキー程の鮮やかな毛並みは持ち合わせてはいないが、時折野生でも見つかると聞いている。額にある特徴的な鱗のような固い皮膚や、角を少しでも隠せれば、より人の目を欺けるかもしれない、というのがアヌーダの郷の長の意見であった。
しかしまさか気高い伝説の白馬がそれを身に着けることなどあろうか。提案した郷の長ですら、半ばこの白馬が拒絶する様が浮かんでいたであろう。誰しもがその結果を予想してはいなかった。少女が白馬に革布を被せた際、白馬はそれほど拒絶を見せなかったのである。勿論、ぶるぶると唇を震わし、嫌がるそぶりは見せた。しかしそれはすぐに収まり、すぐに少女の胸元に顔をうずめる仕草を見せたのであった。
――もしかしたらこのシルキーも、幼い頃に人と触れあった機会、記憶があるのかもしれませんね……。
この様を見て、真っ先に思い出すのは郷の長の弟のあの言葉である。
確かに、野生動物が人の造った物など容易に身に着けるとは思えない。カシムの仮設はより信憑性を増していた。
「あなた、誰と出会っていたの?」
伴う毛並みを撫でる仕草はとても優しい。が、とりわけ目立った反応は返ってこない。顔を摺り寄せてきた際の鼻息が少し大きく聞こえたくらいである。
――まぁ知る由もない話ですが。
すぐさま心に響いたのは、やはり郷の長の弟がその後に放った言葉であった。
(……やっぱり知りようもない話よね)
せめて生まれたての子供であれば、成長するとともに言葉を得て、直に何かが返ってきたのかもしれない。しかし相手は野生の白馬。返事が返ってくる事など、とても現実的ではない。夢物語である。
「そうよね……。それを知る事なんて無理だよね」
首元に手をやり瞳をじっと見つめると、白馬は舌でそれに答えた。思わず、数日ぶりに少女に笑みが産まれる。
「ははは!止めて、くすぐったい!」
獣の気配が感じられない森の一角で、大きな笑い声がはじけた。

それからどれほど白馬と戯れていたのだろう。遊び疲れて木の根元で横たわった時に、空が茜色に染まりだしていることに気が付いた。
「……ルドラさん、無事に森の奥に辿り着けたかな」
誰が答える訳もなく、その言葉は空を切った。伝説の白馬も休息を欲しているようだ。顔半分が地に着き、少女はその首元を枕にしている。
その姿勢のまま、視点の定まらない瞳で木々を仰いでいると、吹き抜ける風がだんだんと冷たくなっていった。ゆっくりと呼吸を繰り返す度、だんだんと影は濃くなっているように思える。
魔女が付けた蝋燭の火も、夜風に煽られ、とうに消えていた。虫の声を子守歌に、少女はそのまま深い眠りについてしまった。
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